133.力量の差
毎日投稿すると人気出るって聞いたんで
その日は誰も宿から出ることなく、各々久しぶりにゆっくりと体を休めた。特に監禁されていた勇者達は泥のように眠った。
そして次の日。
「さて、それじゃあゆっくり休んだことだろうしこれからの話をしようか。」
朝一番に全員を部屋に集め、サリアが切り出す。もしかしたら置いていかれるかもしれない。そんなことを考え、その場にいる全員緊張したように背筋を伸ばして立っている。
「まず最初に、私たちはしばらくの間はここに滞在するつもりだ。しばらくこの国で過ごすことになる以上、アンナに言葉を教えてもらわないといけないからね。ある程度覚えるのと並行してレベル上げもやっていこうと思う。これに関してはもう昨日のうちにアンナに許可はとってある。」
「まあそのくらいならいいよ。私をここまで連れてきてくれた礼だ。1ヶ月までなら付き合おう。」
「それは俺たちも教えてもらえるのか? それともサリアだけか?」
翔太が問いかけると、アンナは静かに首を振る。
「いや、一人だけ覚えてもどうしようもないだろ。全員に教えてやる。たださっきも言ったように1ヶ月だけ。それ以上は付き合う気ないからね。」
「ありがとうございます! アンナさん。」
リリアの言葉にアンナは照れ臭そうに顔を背ける。
「話を戻すよ。それでその1ヶ月、戦うつもりのある人は私たちと一緒に来るといい。安全は保証しないけど君たちだけで戦うよりかはマシだと思うよ。」
「それって参加したら今後もあんたらに付いてって最終的には魔王と戦ったりしなけりゃならなくなるんっすかー?」
神崎と呼ばれていた少年が砕けた言葉で問いかける。その言葉遣いを不安に思った生徒もいたようだが、サリアは気にせず答える。
「できればそうしてもらいたいけど嫌なら無理強いはしないよ。戦う気のないやつが強くなるとは思わないし。そうだね、なら最低でも私たちに一撃入れられるくらいの強さにならなければ魔王討伐には連れて行かないことにしようか。」
サリアのその言葉で、その場にいたもの達の雰囲気が一瞬で変わった。その空気を察しながらも、サリアは話を続ける。
「対象は私、リリアちゃん、グレン、フォウル君……はいないか、あと二宮ちゃんと翔太さんね。この五人の中の誰かに一撃入れれたらオッケー。魔王となんて怖くて戦えないっていうなら話は別だけど。」
確かに魔王軍に敗北こそしたものの、グリモリアでは魔物を簡単に倒し、歴戦の兵士達とも渡り合えるほどの強さを持ち勇者とまで持て囃されていたのだ。その自分たちが女子供、それにクラスの落ちこぼれにすら敵わないと言われているのだ。ここまで露骨に侮られるのを、彼らのプライドは良しとしなかった。
「わっ……私もですか!?」
「大丈夫大丈夫、リリアちゃんならやれるって。あ、私はいつでも相手するよ。勉強中とかは困るけど。」
「おもしれぇ! ならアタシと勝負だ! サリア!」
そう言って出てきたのは褐色の女子生徒、樋口だった。
「うん、それじゃあいつでもどうぞ。芽衣子ちゃん。」
「おおおっしゃぁぁぁ!!!」
すると樋口は両手に拳大ほどの炎弾を大量に生み出す。彼女の固有魔法、爆炎魔法だ。
「さあ! かわしてみろっ!」
樋口が投擲するように両手を振るうと、炎弾がサリア目掛けて放たれる。しかしサリアはその攻撃を回避しようとはせず、炎弾に向けて掌を向ける。すると炎弾の軌道がサリアから逸れ、あらぬ方向へと吹き飛んで行く。
「……は?」
呆然とする樋口をよそに、サリアはゆっくりと、鼻歌交じりに歩み寄る。それを見て樋口は近づかせまいと炎弾を全力で放ったり、目の前で小規模な爆発を引き起こしたりと多様な攻撃をするものの、サリアはその全てを無傷で切り抜け、目の前までたどり着く。
「くっ……そっがぁっ!」
やけになり、魔法を放棄して素手で殴りかかるも、その拳も簡単に掴まれる。そして掴まれた拳を強く握られ、あまりの痛みに地面に崩れ落ちる。
「残念! 君の負けだね。」
「はぁー!? なんだよそれ! なんで当たんねぇんだ!?」
負けたとは理解しつつも、負けを認められず樋口がサリアに食ってかかる。悔しそうな感情を隠さず地団駄を踏む様子を見てサリアは笑いながら答えた。
「いやいや、芽衣子ちゃんの魔法の威力はすごいものだったよ。でも威力にこだわるあまり構築精度がおざなりだったからね、少し干渉して軌道を逸らしたんだよ。」
「魔法に……干渉ぉ?」
「まあ良くも悪くも真っ直ぐな攻撃は扱いやすいってことさ、ちなみにこの程度だったらリリアちゃんもできるよ。」
サリアのその言葉に、いきり立っていた面々は明らかに萎縮していた。
この世界でも1ヶ月→30日前後の1年→12ヶ月です。ただこれはグリモリアで使われていた暦であり、こちらの国でも同じとは限りません。