131.久しぶりの
「だからその剣売っちゃえばいいだろ!」
「絶対に嫌だ!」
宿屋のカウンターの前で、戸惑う店員を無視してアンナが翔太の持つ剣……精霊剣を奪おうとする。というのも宿に入ってからだれも金目のものを持っていないことに気づいたからだ。
「なんでだよ! そんなの売ってまた新しいの買えばいいだろ!」
「バカかお前! これはおっさんに託された武器なんだよ! 簡単に売っていいわけねぇだろ!」
「そのおっさんも生きるためなら文句言わないって。ほらこんなとこで野宿なんかできないだろ!」
「あのっ……!」
2人が言い争っている中、流れを切るようにクラスメイトの1人がおずおずと割って入る。
「……これでどうにかならないでしょうか?」
そう言って女子生徒はポケットから一つの金塊を差し出す。拳大の大きさのかなり精製度の高い純金で、素人目に見ても高い価値のあることがうかがえた。そして明らかに宿の店員がそれを見て目の色を変えていた。
「えっと……君! それは?」
「小林です。小林凛。これはまあ……魔王城から持ち出してきたというか、そんな感じです。」
「小林ちゃんね。それ、かなりの価値があるものだけど、ここで売っちゃっていいの?」
「構いません。助けてもらって、その上で泊まるところまでお世話してもらってるんです。私にできることがあるならばするべきでしょう。」
そう言って小林は宿のカウンターにゴトリと金塊を置く。
「それじゃあ交渉お願いします。えっと……アンナさん?」
「了解だ。〜〜〜〜」
そしてアンナが金塊をチラつかせて宿の主人と話し合う。5分ほどの交渉の末、アンナは手に持っていた金塊を宿の主人に渡し、数本の鍵を受け取った。
「3階の広部屋5部屋1ヶ月で借りたよ。部屋割りは適当に。んじゃ私ちょっと買い物行ってくる!」
「ちょっと待て!!」
サリアが声をかけると、嫌そうにしながらもアンナは振り返る
「……何? 私色々やりたいことあるんだけど。向こうで売ってなかったものとか、最低でも魔石系統が欲しい。」
「それはよくわかんないけど……ありがとう。あんた……アンナのおかげで宿にまで泊まれた。」
「へー……あんたまともにお礼も言えるんだ。少し、ほんと少しだけど見直したわ。」
「ありがとな! アンナ!」
「はいはい、あんたは普通にそういうこと言いそうだと思ってたわ。」
サリアとグレンのお礼にだけ応じ、後は適当に流して今度こそアンナは宿を後にする。そしてその場に残った人間は適当に割り振られた部屋に入ることにした。
「いやー久しぶりだな。元気してた?」
割り振られた部屋の中で、翔太は久しぶりに会ったクラスメイトの男子3人に話しかける。その中で一番いかつい顔をした少年が話に応じた。
「……翔太こそ……久しぶりだな。こっちで仲良くなった人たちのところに行かなくていいのか?」
「いやー。本当はゆきと一緒の部屋が良かったんだけど流石にそれはダメって言われちゃって。それじゃせっかくだしと若本達と同じ部屋にしてもらったんだよ。積もる話もあるだろ?」
「翔太……恨んでないのか?」
「恨む? なんで?」
「俺たちは……力に溺れてお前を蔑ろにして……その上瀬川のやったことにまで同調して……」
話すに連れて若本と呼ばれた厳つい顔の少年の言葉が小さくなっていく。そんな若本の様子を見て翔太は呆然とした後、すぐに吹き出した。
「あっはっはっはっ! お前! 今更そんなこと気にしてねぇよ! まあゆきを取られてたらこんな笑ってられなかったけどさ!」
「……そんなわけにはいかねぇよ、本当に悪かった。」
若本が頭を下げるとそれに応じてもう1人……童顔の少年、多田二郎も頭を下げる。
「ちょ……そんなことされても……んじゃなんか行動で示してくれよ。今すぐにとは言わないからさ、この先俺たちは変わったんだぞって。そうしたらお前らも納得いくだろ?」
「ああ……ありがとう。でも俺達が謝らないといけないのは翔太にだけじゃないんだ。」
そういうと若本と多田はもう1人の方へと向き直り、再度頭を下げた。そこには右腕がない少年、福田康太が立っていた
「あの時、助けなくてすまなかった。福田。」
「別に……今更謝られたってどうしようもないし。謝られた程度で許すようなもんでもない。」
翔太の時とは違い許すつもりはないと断言する福田。その言葉には明確な温度差が存在していた。
「大宮。俺からもお前に言いたいことがある。」
そういうと若本達から目をそらし福田は翔太に話しかける。その目には確かな決意が宿っていた。
「俺は神城が好きだ。この気持ちはお前にも負けていない。」