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127.二人の決着

「《ネメシス・エンド》」



 クラムドの周囲から禍々しい瘴気のようなものが溢れ出す。そしてその瘴気が怨念のごとく周囲の人間にまとわりつく。



「《ゼロ・アビス》」



 クラムドの二つ目の魔法により瘴気が弾け飛ぶ。拡散し、結界内で行き場を失った瘴気は、結界で吹き荒れる。



「がぁっ……がぁっっ!!?」



 そしてその瘴気に触れたガイラスが苦しみもがく。痛みからか全身を掻き毟り膝をついた。



「くぅぁっ……まずい……でござる…………」


「ああっ……いやぁぁぁっ!!」



 それだけじゃない。フォウルやサリア、二宮にアンナ、気絶していたリリアさえも瘴気に触れた途端苦しみだす。しかしそんな中翔太だけは何事もないように立ち、剣戟を放ち続けていた。



「ほう……倒れぬか。そっちの木っ端どもはともかく貴様も立っているということは……なるほど、魔力無し(イレギュラー)か。」



 ガイラスが指し示す先にはクラスメイト達とゆきも変わらず立っていた。



「感情のままに襲いかかる獣が、貴様程度にやられる我ではないぞ。」



 クラムドブランは翔太を迎撃する。真っ向から素手で剣を弾き、そのまま乱雑に拳を繰り出す。

 しかし翔太はその拳を前進しながら最小限の動きで回避する。そしてクラムドの眼前で語りかける



「………その魔法を解け、魔王ッ!」


「ほう、自我を取りもどしたか。さっきまでの怒りはもう収まったのか?」



 その言葉を聞いて翔太はクラムドの腹に掌底を叩き込む。装甲を無視した衝撃がクラムドの体を揺らす。



「収まってるわけねぇだろ。ぶち殺してやりてぇけどみんなを苦しめられてもまだ無視してられるほど薄情じゃねぇんだよ」


「……フン、つまらん。これならまださっきまでの狂ったままの方が面白かったな。」



 翔太の一撃を受け切り、そのまま翔太と同じように掌底を放つ。しかしその威力は桁違いで翔太を大きく後方に吹き飛ばし意識を刈り取った。



「……こんなものか、つまらんな。この程度で《魔王》を倒そうなど笑い話にすらならん。」



 そしてその場には気を失った戦士達と怯えおののくクラスメイト達が転がり、それをクラムド・ブランが見下ろしていた。圧倒的な強者と、弱者……そしてそれに挑む真なる勇者の縮図がそこにはあった。



「…………待てよ、クラムド・ブラン」



 ただ一人、勇者ガイラスが立ち上がる。身体中がボロボロになりながらも、戦意の消えぬ瞳でクラムド・ブランを睨みつけていた。



「クハハハハッ! やはり貴様は良い! ネメシスエンドを受けてまだ立ち上がるなど、どんな方法を使ったのか想像もつかん!」



 高笑いを上げるクラムド・ブランにフラフラのガイラスが静かに答えた。



「さっきの攻撃であっちの勇者達と、翔太が倒れてないのを見て分かったよ。お前の魔法は『魔法使いの魔力を暴走させる魔法』だと、それならば自分の魔力を減らしてやればダメージも減っていく……簡単な話だ。」


「ククク……荒れ狂う魔力を制御し放出するなど貴様にしか出来ぬよ。さすがは勇者だ。それでこそ《魔王》に挑むものだ。」


「ああ、その通りだ。だから俺は俺のできることをする。《付与魔法・反転・吸魔・ダブル》」



 ガイラスが地面に剣を突き立て魔法を発動する。すると地面に魔力の亀裂が走り、周囲の人間の魔力を剣が吸収していく。



「がぁぁぁ……あ……? 痛く……なくなった?」


「フォウル、起きてたか。ちょうどよかった。」


「ガイラス……殿? 一体何を……」


「お前以外はほとんど気失ってるからな、もう隠さなくていい。そこの窓から全員連れて逃げてくれ。」


「……!? 何を……一体いつから……」


「魔力感知は俺の十八番だからな、初めて見た瞬間から気づいていたよ。……頼んだぞ、リリア様を、勇者たちを、それと……翔太を」



 そう言って鞘に収めた剣をフォウルに投げ渡す。すると剣に込められた魔力がフォウルの体を作り変える。



「……しかしそれではガイラス殿は!」


「いいんだ。俺が初めて自分の意思で決めたんだ。俺は、俺のためにお前らを逃がす。俺はもう託したんだ。……後は頼んだぞ。」



 そう言ったガイラスの体から黄金色の光が溢れ出す。魔力の残っていないはずのガイラスの体から、発せられたエネルギーは、まるで彼自身の輝きのようだった。



「嫌でござる! ガイラス殿も……一緒に……」


「……頼むよ、俺の最後の頼みだ。俺もこいつとケリをつけたいんだ。」



 その言葉にフォウルは泣きそうになる。そしてすこし時間をおいて、ゆっくり頷きその場にいたガイラス以外の全員を掴み、咥え、背中に乗せて飛び立った。クラムド・ブランの結界に阻まれることもなくその体は魔王城の外を羽ばたいた。



「悪いな、待たせちまって。」


「なに、戦士の別れを邪魔するような無粋な真似はせんよ。それも貴様ほどの戦士であればな。」


「準備はいいか?」


「10年前から、とうに」


「そうか……なら、いくぞ」



 そうして二人の戦闘が再開される。結果のわかりきった、それでも両者が渇望した勝負の結末を知る者は誰もいなかった。

正月といえど普通に仕事がある

なんでぇ?

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