13.修行
今年最後の投稿です
………多分
「おっさん、俺に剣を教えてくれ」
次の日の朝、俺はいつもの中庭で、頭を地面にこすりつけておっさんに頼みこんだ。
恥も醜聞も関係ない。むしろ清々しい気分だった。
「俺は……俺は強くなりたい!
だから俺に剣を教えてくれ」
心の底から出た言葉だった。
もう悩みはない。周りの目も気にしない。できないなんて考えもしない。
複雑に考えていた自分の思考を一本にまとめる。
ゆきを守る。ただその一本に。
「……翔太、お前にカミシロは守れるのか?」
おっさんが俺を試すかのように威圧する。
力強い言葉だ、いままで命をかけて国を守り続けてきた男の言葉だ、守るという言葉の難しさを、辛さを、苦しさ知っている男の言葉だ、重みが違う。
だが、そんな言葉で俺は止まらない。止まるわけがない。
「守れる!」
そうして俺の剣士としての新たな人生が始まった。
「遅い! そんな剣じゃ避けてくれって言ってるようなもんだ!」
「何回言ったら分かるんだ! 体勢を戻すのが遅い! どんなに鋭い一撃でも放った後に隙ができたら意味がない!」
「足元に注意がいってない!
お前が剣しか使わなかろうが相手は足払いでも魔法でも撃ってくる! それを絶対忘れるな!」
あれから毎日、おっさんに剣を教えてもらっている。おっさんという規格外なほどの剣士が相手になってくれるおかげで上達が身をもって感じられる。……まあその分生傷が絶えないわけだけど。相変わらず才能がない俺は怒られてばかりだが、少しずつ強くはなっているはずだ。まあまだおっさんに一撃も入れることはできないんだけど。
「俺は勇者達のところに行ってくる。帰ってくるまでに素振りを5000本済ませておけ」
早朝から朝になるまでおっさんと打ち合った後、おっさんは決まって素振りを課してくる。おっさんが言うには基礎が一番大切で素振りは絶対に欠かすなとのこと。
おっさんの修行はスパルタだ。でもそうでもしなきゃ強くならないのは理解している。そりゃそうだ。そうでもしなければ勇者を守るなんてできるはずない。自分の弱さを噛み締め俺はただただ剣を振った。
まるで自分が一振りの剣になったかのように剣と同化する。
より速く。より強く。自身の限界を打ち破って行く。
毎日剣を振っていると、クラスメイト達や城の兵士達の笑い声が聞こえてくる。
城の中から視線を感じる。無駄な努力を。見苦しいことをと嘲笑う声が聞こえる。だがその全てを俺は無視した。
笑われたっていい。馬鹿にされたっていい。
ただ強くありたい。今は力がなくても。心だけは強くありたい。
夕方におっさんが戻ってきて、もう一度俺に剣を教えてくれる。
相変わらずおっさんの指導は厳しく、何度も血を吐き、何度も骨が折られる。だがその度におっさんが傷を治してくれる。簡単な応急手当程度の魔法だが、痛みが引けば十分だった。
夜になるとおっさんは帰ってしまうが、そのあとも寝るまでずっと剣を振り続けた。
この数日で手の皮は何度もむけ、血豆も数え切れないほどできた。足の皮も靴の上からにもかかわらず数え切れないほどの踏み込みにより剥がれ落ち、靴が血まみれになっていた。素振りをする木剣の持ち手の部分は赤黒く変色し、汗と血が染み込んでいる。さらに筋肉痛に至っては常に体につきまとっている。それでも剣を振る。筋肉痛を無視して。何度も腕や足をつった。何度も筋肉が断裂した。でもその度におっさんの魔法で最低限治してもらい剣を振り続けた。
少しでもゆき達に追いつけるように。非才の剣士が勇者を守れるように。俺は剣を振り続けよう。