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125.果てなき地獄

 周囲からの声で、翔太はぼんやりと目を覚ます。周囲を見渡すと、フォウル達とガイラスが自分を見下ろしており、少し遠くで解放されたクラスメイト達が泣いていたり、うずくまっていたりした。



「……ッ! あいつは!?」



 意識がはっきりとすると、直前までの出来事を思い出す。そしてその問いにフォウルが答える。



「ゆき殿なら翔太殿の隣でござるよ。眠ったままでござるが息はあるでござる。」


「ゆき……」



 そう言われて隣を見ると、弱々しくだが一定の間隔で呼吸をしている神城ゆきの存在に気がつく。

 翔太はゆきに手を伸ばすが、寸前でフォルセティの言葉を思い出す。


『神城ゆきをは(フォルセティ)の分体である。そして神城ゆきを殺し続けることで神の力を削いだ。』


 その言葉の真偽は分からない。だが、消える寸前になってあの神が嘘をついているようには思えなかった。思いたくなかった。ゆきがそんなにも苦しんでいるというのに、こんなに遅くなった自分への怒りが溢れ出す



「……ちくしょう……」


「ね……ねぇ、大宮くん。」


「あ?」



 恐る恐るといった風にクラスメイトの一人が翔太に声をかける。余裕がない翔太はそっけない返事になり、さらにクラスメイトを怯えさせた。



「えっと……その……目が覚めたなら……ここから早く逃げたほうがいいんじゃないかなって……」



 徐々に声を小さくして話す女子生徒。しかしその言葉に応じるようにクラスメイトたちは声を上げる。



「そうだよ……」

「帰りたい……もうこんなところ嫌!」

「大体来るのが遅いのよ! 何で私がこんな目に会わないといけないのよ!」



 八つ当たりとも言えるような声が翔太の元へ飛び交う。しかし翔太にはそんな声はどうだって良かった。最後の一言以外は。



「そもそも神城がいなければこんなことにはならなかったんだよ! あいつのせいで……」


「…………あぁ?」



 ある男子生徒の言葉を聞き、翔太は先ほどまでの興味のなさそうな態度から一変してその男子生徒を睨みつける。殺気のこもった視線に、男子生徒は小さな悲鳴をあげて退く。



「ん……うぅん……」


「ゆきっ!」



 一触即発の空気を破ったのはゆきの小さな呻き声だった。意識が戻ったのか、呼吸のリズムが乱れ始める。



「ここ……は……?」


「魔王城の地下だ。待たせて悪かった……もう大丈夫だから……大丈夫だから……」



 翔太がゆきを抱きしめる。しかし彼女は戸惑い、どうしたらいいのかわからないように呆けていた。



「もう2度と……離れたりしないから。絶対……絶対守ってみせるから……」



 涙で顔を濡らす翔太とは対照的に、ゆきは冷静に翔太の肩を押し、距離を取る。そして翔太の顔をじっくりと見てから……



「ごめんなさい。あなた……誰ですか?」



 受け入れがたい、衝撃的な一言を発した。





「……え?」


「本当にごめんなさい。あなた誰? 守るとかそんなこといきなり言われても……」


「いやいや……え? 俺……だよ、大宮翔太。あ、体鍛えたからか? だから俺をーー」


「オオミヤショウタ……? ごめんなさい。知らないです。」


「何言ってんだよ! そんな冗談……らしくねぇよ! 怒ってるなら……謝るから……」


「いや……やめてください!」



 ゆきは自身の肩を掴む翔太を払いのける。その行動に衝撃を受けた翔太は、その場に崩れ落ちる。そしてその光景を見た一同は困惑していた。



「これは……どういうことでござるか? 本当にショウタ殿とユキ殿は知り合いだったでござるか?」


「それは間違いないわ。前は見てる方がイライラするくらいじれったい恋模様を見せつけられたもの。」


「希望もなく、こんな場所に閉じ込められ続けていたんだ。記憶が飛んでもおかしいことじゃないが……」



 ゆきは翔太から距離を取るも、翔太の態度を気にしたのか付かず離れずの距離で翔太の様子を観察していた。翔太は変わらず地面に崩れた状態のままだ。



「そんな……俺は……ゆきを助けたくて……」


「え……ええ……何かよく分からないですけど、すごい泣いてる……」


「とりあえずここから出よう。これ以上ここにいる理由はないだろ?」



 アンナの言葉にその場にいたほとんどの人間が肯定する雰囲気を見せる。



「よし、それじゃあ出るぞ。リリアーナ様の探知魔法ももう使えないからゆっくりコソコソ逃げる」



 アンナのその言葉に応じたゆきが牢から一歩踏み出した瞬間、地面に巨大な魔法陣が展開される。その魔法陣にクラスメイト達がざわめく。



「この魔法陣って……まさかあの時の!?」


「私たち帰れるの!? 日本に帰れるの!?」



 そう、その魔法陣は勇者召喚の際に発生した魔法陣とよく似ていた。



「まずいでござる! これはーーー」



 何かに気がついたフォウルの言葉を遮るように、地面から光が溢れ出す。その光が消えると、地下にはもう誰もいなくなった。


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