12.非才の剣士
「……諦められるわけねぇだろ……」
おっさんも出て行き、誰もいなくなったベットの上で一人呟く
ゆきは俺よりも強い。魔法も使えるし魔力量も多い。剣を持っても俺なんかじゃ守れるわけがない。
(……だからって諦めれんのかよ)
諦めれるかよ。諦めれるわけねぇだろ
何年俺が片思いしてたと思ってんだよ 。
(……なら、剣を取ればいい)
無理だ。俺には才能がない
(だったら諦めろ)
嫌だ……でも…………
そんな自問自答を続ける。
答えなどでないとわかっていても続けてしまう。いや、答えは出ているんだろう。だが俺はそれを認められない。認めたくない。
するとまた扉がノックされる。
またおっさんが来たのかと思い、何も考えずにドアノブを引く。ギィッ…という鈍い音と共に扉が開く。違う。おっさんじゃない。
そこにいたのはゆきだった。
俺はゆきを部屋に上げて、座らせた。
お互い何も言えずにその場に静寂が訪れる。俺は俯いたまま、ゆきの顔を見ることができなかった。
言わなければならない。今……言わなければならない。
「あの……さ、ゆき」
意を決して、声を出した。
掠れた声だ。これが自分の声かと思うと情けなくなる。
「俺たち別れよう」
ああ、辛い。苦しい。今まで生きて来た中で一番苦しい。
今までずっと考えていたこと。怖くて言い出せなかったこと。俺が身を引くという決断
あまりに残酷で最低な決断だった。
「俺なんかがそばにいてもお前を守れないからさ……だから……ほら、坂本とかどうだ?あいつなら……」
声がうわずる。ダメだ、涙なんか見せちゃダメなんだ。こみ上げる涙を必死にこらえて言葉を続ける。
「俺のことなんか忘れてさ……
坂本じゃなくてもいい、瀬川でも……」
それ以上言葉は出なかった。いや、出せなかった。ゆきが俺の口に自分の口を重ねたからだ。柔らかいゆきの唇が俺の唇に重なり、俺の脳内が真っ白に染まり思考が霧散する。なぜ? どうして?
そのままの状態で俺は硬直していた。
しばらくしてゆきは口を離し、俺の胸に顔をうずめるようにしがみつく。
「ごめんね、翔太の苦しみに気づかなくて」
なに……を……?
「翔太は優しいから、きっと私のことを守ろうと必死なんだと思って、だから私のことは守らなくても大丈夫とか、私が守るとか言ったけど……」
「翔太にとってはそっちの方がよっぽど苦痛だったんだね」
ゆきが震えている。
いつもの明るいゆきは面影もなく、今はただ、ただ弱々しい。
「私ね、本当はすっごく怖いの
こんな世界で、国を救う勇者だなんて言われて……国中の人に期待されて……」
「でも翔太がいたから落ち着いていられた
翔太が……私を支えてくれていた」
「だから……正直に言うと翔太に私を守って欲しい。わがままだってわかってるけど……大好きな翔太に、守って欲しい。」
「お願い翔太……私を……守って……」
ゆきはかすれるような声で俺に言う。
その言葉を聞いた瞬間俺の心が固まった。
こらえ切れなくなった涙が溢れ出る
あぁ……今まで何を考えていたんだ俺は。
自分のことばかり考えて好きな子をこんなにまでさせて。
最弱? 非才? 分かりきっていたことじゃないか。俺はゆきより弱い。この世界でまともに戦えない。でも俺はやる。何が何でもゆきを守ってみせる。もう俺に逃げることなんて許されない。大切な人のために、身を引くなんて逃げはもう有り得ない。大切な人が、そう望むのだから。
「わかっ……た……」
誓おう。俺の命が尽きようとも、何があろうとも君を守りぬくと。
「大好きだよ……翔太……」
「俺も大好きだ……ゆき……」
俺たちは一晩中泣き続けた。
今まで見えていなかった、お互いの本当の顔を見ながら。新たな……大宮翔太と神城ゆきの顔を。
1クール終わりましたね
いや別に作品は終わらないんですけど