114.フォウルの苦悩
もう18時に更新するのやめます
今まで18時逃したら次の18時待ってたりしたんで
できたらその時更新する形で。
まあ多分夜です
「せあっ!」
フォウルによって放たれた回し蹴りがオークの腹部に直撃する。本来ならその分厚い脂肪と身体中を巡る魔力によって阻まれるはずの攻撃は、しかし防ぐことなくオークの内臓を内部で破裂させる。その完璧な力加減で全く外傷を与えることなく、だ。
「ふぅ……この辺りで辞めておくでござるか。」
倒したオークを適当にそこいらに蹴り飛ばして、死体の山を築く。もはやこの辺りのモンスターはフォウルの敵ではない。着々とレベルの上がっている今ならゴブリンキングとでさえもまともに戦える自信がある……だが……
「翔太殿はもっと先へ行ってるでござろうな……」
自分が知る中で一番人間らしい弱さを持ちながら、しかし強い心を持つ男。ただ一つの大切なものを妄信し続ける哀れな男の姿を思い浮かべる。
彼の生き方も、戦い方も好きだ。でも賢くないと、その生き方はいつか必ず破綻すると。それは頭の良くないフォウルにもわかる。だが……もし、あの男に大切なものとそれ以外を選択させたら果たしてどちらを選ぶのか。
「おそらく前者でござろうな……」
誰よりもその男の側にいたからわかる。未だ会ったことのない少女のために戦う彼は、きっとその為に他の全てを切り捨てられる。
仲間を大切にする。正義の味方。根っこの部分では善人なその男は、大切なもののためならその全てを破壊できる。大切な仲間も、善人であるはずの自分も全てだ。事実そうなっていた。
「仮にまたそうなったとしたら……」
その時は、自分はどうするのだろうか。翔太を止める? あの時こそ一言で簡単に止められたがそれは突き詰めれば大切なもののためだからだ。大切なもののために変わらずにいることを守り続けると言うことは、本質的には大切なもののためなら変わることを厭わないということでもある。
もし……もし彼が自分の好きな人間ではなくなってしまった場合、自分は彼の味方でい続けるのか? 自分の人生経験の浅さではまだその答えは出ないままだ。
いくら考えても答えが出ないフォウルは思わずため息を吐く。こういう何かを考えるのはあまり得意じゃない。と言うよりむしろ苦手なタイプであるフォウルは考えることをやめ、懐から干し肉を取り出す。
「とりあえず食事にするでござるか。翔太殿は食事の質には微妙にこだわるでござるな……」
普通のものよりも質のいい干し肉を食べながらフォウルは苦笑する。調理法もよく知らないくせに翔太は食事にはうるさい。保存食にすら味の良いものを求める。そのせいでお金がなくなってしまう本人は予備の武器や回復アイテムすらも買わず戦場で現地調達していた。ほとんどモンスターと同じだ。
「まあそのおかげで拙者も良いものを食べられてるのでござるが……」
流石に高いだけあってただ塩辛いだけの干し肉とは違う。何の肉かはわからないが肉の味がよくわかる味だ。最後の食事になるかもしれないそれをよく味わって飲み込む。
「さて……」
明日はもう決戦だ。魔王城に乗り込み戦いを挑む。負けられない戦いだ。それに魔王城に向かうとなれば当然あの男も出てくるだろう。
「『龍神』ゾルガルム……やつと戦うのは拙者の仕事になる……」
この世界にも、あの世界にもほとんどいないと言われる龍族を統べる最古の龍人。そのあまりの気高い在り方に自ら龍の神であるゾルガルムの名を名乗った怪物だ。昔、自分はあの男の勝利どころか触れることすらできなかった。それでも……
「あの男に見せてやる……『人間』の強さを。」
さまざまな思想にふけりながら夜が明ける。朝日が照らすフォウルの周囲には100を超えるモンスターの死体が転がっていた。