113.翔太、ガイラスサイド
「え? もしかしておっさんがまだこんなところにあるのって道に迷ってたせい?」
「違うっ! 違うからな! ちょっと寄り道してただけだ! やめろ! そんな目で俺を見るんじゃない!」
「だからそっちじゃねぇって! 左だ左! そっち行っても街には戻れねえっての!」
なんでちょっと進行方向から顔を背けただけで道間違えれんだよ。アホかこのおっさんは。
「もういいから! おっさんは大人しく俺の後ろについてこいって、な?」
手を引いて無理やり進もうかとも思ったけどなんか嫌だった。なんでおっさんの手を取って歩かなきゃならんのか。もうこれでついてこないなら知らん。
「飛べ、鳥達よ。《ハーティーウィンド》……よし、これでもう城の方は大丈夫だ。」
イエーロの街に着く頃にはもう夜は明け昼頃になっていた。疲れた……方向音痴にもほどがあるだろ……
それなのにおっさんは何事もなかったかのように鳥を魔法で強化し城の方へ飛ばす。ぶん殴ってやりたい……。風の魔力によって超加速された鳥はすぐに見えなくなり、足に括り付けられた手紙を城へと届ける。……やっぱ魔法ってすげえな。めちゃくちゃ速え。
「魔法って便利な……そう言えばおっさんは適正魔法いくつあるんだっけ?」
「4だな。火風地水の四属性に固有魔法一つだ。伊達に王国最強だったわけじゃねぇぞ。」
「っても瀬川よりかは少ないじゃねえか……」
あいつ5属性適正に固有魔法ありとかいうチートスペックだし。
「あいつと比べられたらそりゃあな……適正5属性とか過去の勇者でもそうそういないレベルだからな。それに固有魔法が神聖魔法。まともに育ってればあいつ一人で魔王に勝てるだけの力はあったよ」
確かに。神聖魔法と5属性所持の相性が良すぎる。神聖魔法っていうのは適正魔法に神属性を付与させ、威力を向上させる効果のある魔法だ。つまり適正魔法の火属性魔法を固有魔法の神炎魔法に。風属性を神風魔法に変化させる。
言ってしまえば固有魔法6つ持ち。それに加えて適正魔法が5つあることで無属性魔法を操ることもできる。バグキャラってレベルじゃねーわ。
「でも魔王の配下に負けて連れてかれたんだろ?」
「そりゃまだまだ練度が低すぎたんだよ。いくら強力な魔法を持ってても使いこなせなけりゃ意味ねぇからな。」
「それもそうか。……なあ、もし……もしも瀬川と戦うことになるとしたら俺に勝ち目はあると思うか?」
聞けば聞くほど絶望的な戦力差に答えがわかっている問いを投げかける。しかし返ってきた答えは予想していたものとは違っていた。
「ああ、余裕じゃねえかな。今のお前なら」
「……は? でも瀬川は強いって……」
「強いって言ってもそれは潜在能力や魔法だけの話だ。さっきも言ったがいくらステータスが高くて豊富な魔法が使えたとしてもあいつには致命的に戦闘経験が足りてない。おまけになまじ力があるだけにまともな覚悟もない。これなら負ける道理はないわな。……なんだ、まだあの時の決闘のこと気にしてんのか?」
その言葉で思い出されるのは城の中庭でのこと。目の前に突きつけられる木剣、勝ち誇った顔の瀬川……ゆきを賭けて俺が負けた時のことだ。
「……いや、どうだろうな。結果的にどっちもゆきを助けられなかったわけだし。言うなら今もあいつとの戦いは続いてるのかもしれないな。どっちがゆきを守れるのかって……」
「なるほどなぁ……面白い考え方だ。まあせいぜい頑張んな。ほら、武器買いに行くぞ。連れてけ」
「そこはせめてついて来いとか言ってくれよ……」
微妙に情けないおっさんだな……
もし、二宮の時と同じように瀬川と戦うことになったとしたら、その時は……
おっさんと俺は武器を揃え最低限のメンテナンスを済ませる。明日の戦いは負けられない。必ずゆきを助け出す。その気持ちが俺の決意をより強く固めさせた。
無属性魔法は火、風、地、水の4属性を光で調和させることで発動する魔法である。そのため5属性を操る者にしか使用できない魔法となっている。代表的なものでは身体強化魔法などがこれに当たる。