107.よくある風景
心に余裕が出だした翔太さん。描きやすい
「さて、じゃあ私が大宮くんに振られたところで話を進めましょうか」
「おうこらちょっと待てや。」
その言い方だと二宮が俺に告白したみたいになるだろ。
「翔太さんモッテモテー!」
「やかましわ! ちょっと黙ってなさい頼むから! 今大切な話してるの!」
「私とのことは大切じゃないっていうの? ひどいわ!」
わざとらしく顔を抑えて肩を震わせる二宮。おい、おいこら二宮。その手退けろや。お前笑ってんだろ。騙されるかぁっ!
「えっと……そろそろ本題に戻りません?」
必死で二宮の化けの皮をひっぺがそうとしていると、リリアが冷ややかな目で水を差す。冷ややかに水、それはもうとんでもない冷たさだ。少なくとも逆らおうとは思わないほど。
「あっはい……えっと……なんの話だっけ?」
「んー……あ、私か。そうそう。私がいれば魔王城まで連れて行ってあげれるよって言おうとしてたんだ。」
「お、そりゃありがたいな。んじゃすぐ行こうぜ。よっしゃゴーゴー」
「ちょっと待ったぁぁぁっ! 早いよ! 翔太さん色々と早いよ! フォウル君とかリリアちゃんとか……よく考えたら翔太さんも病み上がりじゃないか! もう少し休憩して行こうよ!」
「いや……休憩は歩きながらでもよくね? ほら、魔王城まで歩きながら休憩したら時間無駄にならないし」
「翔太さん休憩の意味知ってるぅ!?」
失礼な。休憩の意味くらい知ってる。確かに歩くことと休憩することは両立しないかもしれない……でも歩くのは下半身しか使わないから上半身は休憩してると言えるじゃないか。
「あー……バカな話し合いしてるとこ申し訳ないけど歩く必要はないよ。休憩しながら向かうことも……まあ私以外は可能だと思う。ただ今すぐは無理かな。」
「どういうことっすか? えっと……ニノミヤさん。歩かないってことは走るんっすか?」
「おいサリア。グレンがいつのまにか脳筋になってるぞ。どんな教育したんだよ」
「翔太さんに言われたくないなぁ!?」
「で、歩く必要がないとはどういうことでござるか?」
俺たちを無視してフォウルが尋ねる。すると二宮は背中から羽を生やす。
「……そうか、変身魔法。ドラゴンにすら変身できる二宮なら、空を飛べば……」
「そう、空を飛べばみんなは私の背中で
休むことができる。まあここからなら半日もすれば着くけどね。2〜3日待ってって言ったのは魔力と体力回復のため。流石にまたすぐにドラゴンに変身するのはできないから。」
「なるほど……じゃあ二日後、全員で魔王城に向かう。それでいいか?」
「2〜3日って言ってる相手に容赦なく2日って言い切っちゃう。さすが翔太さんだね。ど鬼畜だ……私はいいよ、それで。」
「魔力ポーションに回復ポーション、ナイフにスピーカー……うん、2日もあればなんとかなるはずです。」
「拙者も構わないでござるよ。傷もほとんど癒えたゆえ、体の動作確認を済ませればもう戦えるでござる」
「僕は別に今からでもいいですけどね! 暇なんで2日後まで魔物と戦っていようと思います!」
「私が言うのもなんだけど君達軽いね……わかった。二日後にまたここで。私はここで魔力を回復させてるけど、どこか行きたいところがあるなら行ってくるといいよ」
二宮がそう言うと皆それぞれ軽い感じで散っていった。この場に残ったのは俺と、二宮だけだ。
「ん? 大宮君はどこか行かないの?」
「どーしよっかなぁ……俺は準備とか必要ないし……俺もグレンみたいに戦うか……それとも……」
イエーロの街まで戻ってヤドムやニッタさんに報告するのもいいかもしれないな……どうしよう。
「なんか……いざ暇になると何したらいいかわかんないな……」
「そういうもんなの?」
そういうもんだ。ちなみに剣の修行は当然する。それをした上でまだ暇なんだ。流石に二日間ぶっ続けで剣を振り続けるのも違う気がする。
「そうだなぁ……なあ二宮。ちょっと世間話でもしようぜ」
「へ?」
「勇者とか魔王とか、そんなの抜きにしてさ。せっかく久しぶりに会えたんだ。親交を深めようぜ」
日本にいた頃はこんなこと考えもしなかったな。良くも悪くも異世界に来て人と人の繋がりを大切に思うようになった気がする。
「ふーん……うん、まあそれもいいかもね。それじゃ大宮君何か話題出してよ」
「翔太でいいよ。なんかこっち来てから翔太翔太って呼ばれてるから今更大宮って呼ばれても違和感あるんだよな」
「あー……そうなの? それじゃ翔太……君でいいかな?」
「オーケーオーケー。二宮はあれ? 音楽とかよく聞く感じ?」
「そこまででもないかな。私はーー」
そうして一日中俺と二宮は語り合った。久しぶりの故郷の話は……楽しかった。
翔太たちが訪ねた街はグリン→レド→イエーロの順です。作者も忘れそうになる。