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104.目は口ほどに

 3人がテントに戻るとフォウルが迎え入れる。あの後サリアの回復魔法と食事のお陰で衰弱していた体はかなり回復していた。



「おお、サリア殿。おかえりでござ……る……」



 フォウルはサリアと共に現れた二宮の顔を見て一瞬硬直する。



「二宮陽子です。その節はすいませんでした。」



 フォウルが次の行動を起こすより早く二宮は頭を下げる。それを見たフォウルは心を落ち着かせ、座り直す。二宮の会話を聞く姿勢だ。



「私はあなたを殺そうとしました。許さなくてもいい。でも今はそのことを謝りたい。ごめんなさい。」



 頭を下げたまま、二宮は続ける。

 そのままの体勢でいくらかの時間が過ぎるのを隣に立っていたサリアはただ見ていることしかできなかった。


 そして先に動いたのはフォウルだった。



「……あぐっ!」



 フォウルは頭を下げた状態の二宮を思い切り蹴り上げる。その衝撃で二宮の上半身は反り返り、尻餅をつく。



「今、拙者は殺すつもりで蹴ったでござる。それでも死ななかったのはお主の鍛え方が良かったから。それだけでござるよ。」



 暗にお前のせいじゃないと言われ二宮はあっけにとられたように口を開く。しかしそれも一瞬のこと。開いた口に鼻血が入ったことにより彼女は正気を取り戻した。



「……随分と心が広いのね。」


「何のことかわからんでござるよ。」


「君たちいきなり怖いことするよね。僕なんかすごいヒヤヒヤしてたんだけども。」


「それよりも翔太殿とリリア殿はどうしたでござるか?」



 サリアとグレンが二人を抱えるのを見てフォウルは心配そうに問いかける。



「無視ですかそーですか。二人なら気を失ってるだけ。多分そのうち目を覚ますと思うよ」

 

「そうでござるか、よかったでござる。」



 サリアの言葉を聞くとホッとしたようにフォウルは胸をなでおろす。



「あははー、大宮さんのことは聞くのに二宮ちゃんのことは聞かないのかい? 何でここにいるのかとか」


「大方予想がつくでござるよ。拙者を刺した時のニノミヤと今のニノミヤの目を見比べれば。」


「目を見てわかるって……無茶苦茶言うね。」


「前のニノミヤの目は人形のような目、今のニノミヤの目は戦うものの目でござるよ。誰の影響かは……聞くまでもないでござるな」



 フォウルはそう言うと上着を着る。服装を整えると次はそのまま流れるように全身の柔軟運動をこなす。起きてからのルーチンワークのようなものだろう。



「目を見ただけでわかる……か。ちょっと前までならそんなの信じられなかったけども今なら何となくわかるような気がするわ……似たような体験をしたばかりだしね。」



 そう言うと二宮は困ったように苦笑する。翔太の目を見た今ならわかる。



「……ショウタ殿の目を見たのでござるな。」


「師匠の目がどうかしたんですか?」



 二宮とフォウルの会話についていけていなかったグレンが、翔太の名前が出たのを聞いてここぞとばかりに問いかける。



「気づいてなかったでござるか。まあ再開してそんなに時間が経ってない故、仕方のないことなのかもしれないでござるな……翔太殿の目には大切なものを取り返すという強い意志と、狂気が宿っているでござる。」


「狂気……ってどういうことですか?」


「そのままの意味でござるよ。翔太殿は一番大切なものを取り戻すために全てを捨てることも厭わないような目をしていたでござる。……考えたく無いでござるが、おそらく拙者たちですらも。」



 フォウルの言葉にその場にいた四人は静まり返る。サリアとグレンは信じられないような顔をしていた。



「……本当に? あの甘い翔太さんが? あの人は見知らぬおばあさん助けるのに命と仲間を賭けちゃうような人だよ?」


「私も信じられないです。」



 サリアが否定すると、ゆっくりと体を起こしたリリアが会話に加わる。話を聞いていたのか、ある程度空気は掴んでいた。



「翔太さんはドラゴン……ニノミヤさんとの戦いの時に戦えなくなった私を逃がしてくれたんですよ。私たちを見捨てるなんてそんなことは……」


「そうでござるか? なら拙者の勘違いで……」


「多分、あれは逃したんじゃ無いと思う。」



 フォウルが言い切る前に、二宮が言葉を発する。その語気からは確信のようなものを感じ取れた。



「あなたを逃したのは、役立たずを追い払ったとも言えるんじゃ無いかしら。厳しい言い方をするけど、あの場で戦意のない人間は邪魔にしかならない。それに戦意を失った人間が地上に戻るなんて、普通できると思わない。彼の性格からしても死んでほしくないなら何があっても側にいさせて、守ったと思う。」


「なるほど。加えてその先には転移門があるかもしれない。リリア殿や拙者たちを置いてでも先を急ぎたかったのかもしれないでござるな。」



 納得するようなフォウルの言葉にリリアは頭を抱え、左右に振る。まるで認めたくない幼子のように激しく頭を振っていた。



「でも……だって……そんなの……」


「翔太さんらしくない……よね。それほどまでに事態は切迫してるってことなのかな?」



 サリア達が考え込むような仕草を取ると、不意に翔太が小さく唸り声を上げる。まもなく目覚めるであろうことを伝えるその声により、その場の空気が再度静まり返る。

 しかしその空気を破ったのは意外な人物だった。



「よく分かんないですけど、別にどっちでもいいんじゃないですか? 俺は自分の道を示してくれた師匠に感謝してる。師匠が俺のことをどうでもいいと思っていても、それは変わらない。」



 グレンの言葉に、全員一瞬あっけにとられる。そしてすぐに参ったと言わんばかりに笑い出した。



「な……何がおかしいんですか!? 何か俺おかしなこと言いましたか!?」


「…………何この状況?」



 起き上がったばかりの翔太は、笑うみんなと戸惑うグレンを見て、何が起こったのかわからずに頭を抱えた。

最近忙しくてちょっと更新頻度落ちます。ってか落ちてます

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