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102.二宮 陽子という少女

大変お待たせしました。

 昔から、大宮翔太は変わった人だった。

 多少浮いてはいたが、そのまっすぐで優しい性格からか、結構彼のことを好きになる女子も多かった。それでも本人はそんなこと全く気づいてなくて、本当にただ神城さんのことしか見ていない。彼のそのまっすぐさも、優しさも、全て神城さんに注がれたものだ。ほとんどの人がそのことに気づいて大宮くんを諦めていった……それほどまでに彼の態度は露骨だった。


 だから、神城さんのために戦っているのは別におかしいことだとは思わなかった。クラスのみんなにバカにされても必死に剣を振る姿も、彼らしいとすら思ってしまった。


 きっと、私はそんな自分と正反対の彼に少し憧れていたんだろう。誰かのために本気になれる、そんな彼に。


 私にはそれができなかった。彼がクラスのみんなから無視された時も、私はそれに同調して無視した。魔王に攫われて、戦うよう強要された時も、従ってしまった。

 頭の良さやカリスマ性で非凡なものを見せる瀬川くんだって、初めは魔王に反抗していたものの、最終的には従わされていた。


 それなのに大宮くんは今なお魔王に抗い続けている。実際に魔王に会ってないからだとか、私たちと同じ境遇にあってないからとか、言い訳はいくらでもできる。だけど彼ならきっとどこにいても戦い続けていただろう。それは誰にでもできるようで、でも誰にでもできないことだ。


 できることならば彼に協力したい。でもそれは叶わない。私には逆らえない理由がある。


 魔王は攫ってきた32人のクラスメイトのうち、10人だけを手駒として残りは人質とした。私達がミスをしたら、人質にされたみんなが危険に晒される。大切な一人のために他の全てを犠牲にするなんて、私にはできなかった。


 覚悟を決めることもできず、決断することもできず。私はただ流されて動いていた。

 死ぬほど辛い訓練を受けて、なんの恨みもない人たちを殺しに行って。罪悪感や嫌悪感に押し潰されそうになっていた。


 そしてやがて私は決断することをやめた。命令された通りのことをして、命令されたこと以外はしない。そうやって無理矢理に罪悪感を薄れさせていた。これは私のせいじゃ無い。私が悪いことをしているんじゃ無いと、自分で自分を騙し続けていた。


 そのせいか、久しぶりに目にした大宮君の姿はひどく眩しく、輝いて見えた。





 大宮君の斬撃により、ドラゴンの巨体が揺らぎ、轟音とともに地面に倒れる。大質量の体が倒れたせいか室内に砂煙が充満し、数メートル先を目視することも困難になる。

 同時に竜化の変身も解け、元の人間サイズにまで体が戻っていく。



「ドラゴンが……人に!?」


「はぁっ……! はぁっ……!」



 先ほどまで戦っていたドラゴンが人へと変化したことに驚いたのか、魔法を使っていた少女が声を漏らす。しかしそれに返事する余裕もなく、私は息を整える。



「二宮……?」


「はぁっ……まだ……よ……まだ戦えるっ!

《ホーリースピア》!」



 ほとんど手つかずで残してあった魔力で、光の槍を形成する。形成された槍は高速で大宮くんに接近し、その体を貫かんとする。



「待ってくれ二宮! 俺はお前と話を……」



 大宮くんは飛来する槍を剣でうち払う。……ははっ、すごい。どういうことよ、それ。意味わかんない。対魔法のセオリーは地属性のガードだ。剣で打ち払うなんて聞いたことない。



「やめてよ! 私はっ! あなたと話したくなんてない!《スターダストレイン》」



 大宮くんの上空に精製された光球は、夜空の星のように瞬き、降り注ぐ。さっきの魔法とは違って打ち払うことはできないほどの速さで降り注いだ光の雨は、大宮くんの体を容赦なく削り取る。



「お前……たちは……なんで……」


「やめろっ! 《スターダスト…》」


「《音殺し》ッッ!!」



 もう一度魔法を唱えようとするも言葉が出ない。さっきの魔法使いの子だ。もう魔力も残ってなかったはずなのにどうして……



「はぁっ……はぁっ……まだ……私は“頑張れる”っ!」



 ……わけがわからない。なんであの人の側にはこんな人ばっかりなんだ。まるで大宮くんが増えたみたい……ッ!?


 魔法使いの子のあまりの異常さに一瞬意識を逸らす。その隙に大宮くんはこちらに駆け出していた。



「くっ……《ホーリー……」


「《音殺し》っ!……かはっ……」



 魔法使いの子がもう一度私の魔法を打ち消す。しかしやはり限界だったのかすぐに口から血を吐き出した。



「二宮ッッ!!」



 手の届く距離まで近づいた大宮くんは、手に持っていた剣を投げ捨て、私の両肩を掴んだ。



「な……何を……」


「これで……もう逃がさねぇぞ……命を懸けてリリアが作ってくれたチャンスだ……絶対に無駄にしない!」



 私の目を見据えて大宮くんが叫ぶように言った。しかしいつまで待っても彼からの攻撃はない。……攻撃の意思がないんだ。



「なんで……なんで攻撃しないのよ! 持ってた剣で斬りつければいいじゃない! それなのにどうして……」


「言ったろ……話がしたいんだ。殺し合いをしたいわけじゃない。」


「そんなこと言って私がここで魔法を唱えればすぐに貴方を殺せる! そうしたらさっきの魔法使いの子の作ったチャンスも無駄になる! それなのにーー」


「いや、お前に俺は殺せない。」



 どこか確信してるような口調でで、大宮くんは言った。そのまっすぐな目で、心の奥底を見透かされてるように。



「……ッ!《ホーリースピア》!」



 その態度が、見透かしたような態度が嫌でほとんど反射的に放った魔法が大宮くんの脇腹をえぐり取る。えぐれた肉が吹き飛び、血が噴き出した。



「がッ……はぁっ……はぁっ……。ほら……殺せない……お前は……もう人殺しなんか……したく……」


「うるさいっ! したくなくてもしなきゃいけないんだ! 私がやらなきゃ他のみんなが……」



 そう言って大宮くんの顔を思いっきり殴りつける。しかし何度殴っても大宮くんは倒れず、私の肩を掴んでいた。



「だったら……助けに行こう。俺だってみんなを……いや、ゆきを助けたい……目的は一緒だ」


「わ……たしは……助けたいなんて……一言も……」


「ならそう言えばいい。殺すとか殺されるとか、そんな物騒な言葉よりもよっぽど健全で……お前らしい言葉だよ。」


「私らしいって……私のことなんてほとんど知らないくせに……」


「ああ、知らない。でも罪の意識に耐えられなくて自ら死を選ぶような優しいやつだってことだけは……知ってる!」



 ボロボロになった大宮くんが私の肩から手を離し、一歩後ずさる。



「俺と来てくれ、二宮。俺にはお前が必要だ。」

どうもお久しぶりです

インフルやらなんやらで1週間くらい地獄を見てました。残り2週間はサボってました。

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