99.極端に
そこから先は何も珍しいことはない。リリアの探音でフロアの構成を探り出し、たまに遭遇する魔物は背後からの奇襲で仕留める。
階を増すごとに魔物の強さは増しているようだったが、背後から首を貫けば皆一緒だった。途中リリアが2つほどレベルアップしたこと以外は何事もなく遺跡探索は進んでゆき、気がつけば現行されている最大到達地点であるという地下5階までたどり着いていた。
「……ふう、そろそろ魔力も厳しくなって来ましたね……『探音』」
そう言ってリリアは瓶詰めにされた液体を飲み干し、また魔法を唱える。リリアが飲んでいたものは魔力回復用のポーションらしく、自身のMPを回復させられるらしい。ただその分値段は高く、そこまで量は持ち込めていないとか……今度買ってやらなくちゃな……
「……いました。このフロアです。このフロアに人型の生物が一人います。」
さっきまで疲れた表情をしていたリリアが、ホッとしたように吐き漏らす。思っていたよりも『探音』の負担が大きかったのかもしれない。
「距離は? あと魔力は大丈夫そうか?」
「距離は……今までのペースで移動して30分ってところです。魔力は残り半分ほど……魔力ポーションの残りも1つしかないので余裕があるとは言えない状況です。」
ここに来るまでポーションを6本消費してたのを考えると……かなり厳しい。帰り道のことも考えればなるべくこのフロアではもう魔力は使いたくない。
「わかった。ここからはなるべく魔力を温存する形で頼む。ここぞという時以外は使わなくていい。」
この辺りの魔物はだいぶ強い。リザードマンなんかはこの辺りじゃ雑魚だ。2〜3m程もある大型のモンスターが闊歩するが、剣が通るだけまだ戦える。何回か死ぬことはあるだろうけどそれだけだ。負けることはない。
「大丈夫ですか……? いくら刃が通るからといえまともに戦えるような相手じゃ……」
「大丈夫。心配いらない。ここまでリリアにおんぶにだっこで進んで来たんだ。最後くらい俺が決めなきゃな」
まごう事なき本心から出た言葉だ。このままじゃどう考えてもリリアの負担の方が大きい。
「でも……いや、やっぱり任せます。くれぐれも無理をしないでくださいね?」
「おう、任せとけって。」
「それじゃあ……魔力温存のために探音切るのでこれからは何が来てもわからなくなります。一応最短ルートは覚えていますが……」
「魔物の存在は把握できないと。了解。言うまでもないだろうけどリリアも気をつけろよ。」
そう言って周りに注意を向ける。リリアの指示のもと進んで行くがどこから魔物が襲ってくるかわからない恐怖に自然と気が引き締められる。
道行が不安定になると自然と歩く速度も落ちる。そして松明の火が消え、予定していた30分を過ぎてしまっていたことに気がついた。
「松明も残り3本です……流石にもう少し歩くペースを上げるか、それか魔法を……」
「……うん、いや、悪かった。ペースを上げよう。最悪俺なら数発被弾しても構わない。」
「そんな極端な……」
極端ね……いや、極端でいいんだ。死ななければ問題ない。いや、死んでも問題ないと頭ではわかっていてもどうしても尻込みしてしまう。死にたくないと浅ましく生にしがみついてしまう。そんな考えは捨てろ。もっと貪欲に……もっと狂気的に……死の先の希望を掴み取ってみせろ!
そんな俺の考えが現実に反映されたかのように目前に魔物が現れる。威風堂々とした佇まい。まるで神話の物語から飛び出して来たかのようなその魔物との戦いは、おそらく注意していれば回避できたであろう。魔物は俺を見るや否や耳をつんざくほどの雄叫びを上げた。
「まずっ……ショウタさん! 逃げましょう!
その魔物は……」
リリアの言葉よりも先に俺の体は魔物へと飛び込んでいた。狙いは前足。攻撃されるより前にその武器を潰してしまえば幾分か楽になる。
「グルァァァァッ!!」
しかしそう簡単に行くはずもない。その魔物は俺の動きを完全に見切り、足元に辿り着くよりも先に俺の体を蹴り上げた。激しい衝撃と、爪先による裂傷が体に走り、迷宮の壁へと叩きつけられた。
「ショウタさんっ!? 大丈夫ですか!?」
意識が薄れゆく。でもまだ死なないこの程度で死ぬわけがない。両足を地につけ、再びその魔物に立ち向かう。
大丈夫、わかってる。リリアに言われるまでもなくあの魔物の名前くらい知っている。元の世界でよく見た魔物だ。まさか戦うことになるなんて思わなかったけどな。
目前の敵が咆える。その姿は、今まで出会ったどの魔物よりも強者の咆哮だった。




