97.お久しぶり
「さて、じゃあ僕たちと別れた後のことを聞かせてもらおうか。」
一拍置いた後、サリアが話題を変える。
その言葉に頷いた後、俺とフォウルの旅路を全て話す。
「なるほどね……ガイラス先輩がいたのか。そりゃゴブリンキングくらい倒せるだろうね。」
ゴブリンキングと遭遇した後のことを、大まかに説明する。どうやらサリアはおっさんのことを知っていたようで、妙に納得したように頷く。
「先輩って……おっさんを知ってるのか?」
「おっさ……ぶふっ……救国の英雄捕まえておっさんって……お腹痛い……」
何が面白かったのかサリアが腹を抱えて笑いだす。ツボがわかんねぇよ……
「有名人ですよね。ガイラス・グリモリア。魔王を討伐して王族に名を連ねた英雄。本来なら公爵の地位を約束されてたのに断って近衛騎士団団長の地位についたとか。」
「適正魔法4属性に固有魔法持ち、あと遠近どの戦闘にも天賦の才があるとか……完璧超人ですね!」
「まあ確かに戦闘能力は群を抜いてたよ。俺とフォウルが死にかけてようやく一太刀浴びせれたような魔物を一人で簡単に追い払うんだからな。」
未だにあの反則じみた戦闘能力は忘れられない。近距離は剣で、遠距離は魔法で潰してくる魔法剣士。それも両方超一流の精度でだ。
「それでその後魔王討伐隊とかいうのに入って僕たちを置いていったと……」
いつの間にか復活したサリアが置いて行くという単語を強調するように続ける。
「いや……まあそうなるんだけど言い方がさ……」
「酷いよねぇ。僕たちは必死に森を抜けて、その後熱を出したリリアちゃんを休ませて待ってたのにねぇ。リリアちゃんも辛そうにして翔太さんが居なくなったせいでさみぐわらばっ!?」
嫌味を言い続けるサリアの口をリリアが張り手で塞ぐ。……リリアってこんなことする子だっけ?
「それは良いですから! 言わないでください!」
「わかったわかった……全くリリアちゃんは恥ずかしがり屋だなぁ。」
「恥ずかしがり屋で済ませて良いレベルなのかそれ。」
微妙に心が広い。口の周り真っ赤になってんのに。
「それでそのニコさんって人からもらった薬のおかげでフォウル君はこんなことになってるわけか。なら何か食べさせてあげなきゃね。果物をすり潰して飲ませてみようか。」
そう言ってサリアはリンゴに似た果実を一口齧るとそのまま口移しでフォウルに飲ませ……って
「ちょっと待って!?」
「え? どうしたんだい?」
「あわわわわ……」
フォウルにリンゴを飲ませた後、サリアが不思議そうに応える。リリアなんかはそれを見て顔を真っ赤にしてテンパっている。
「いや口移しって……めちゃくちゃ自然にしてたけど抵抗とかは……」
「……? 別に良いんじゃないかな? これは愛情の印じゃなくて看護行為なんだから。それ以上の意味はないよ……っていうか顔真っ赤にして、翔太さんは意外とウブだねぇ。」
何!? これ俺がおかしいの!? この世界だとこれくらいのことは普通なわけ!? ……いや違うな、リリアはともかくグレンもちょっと気まずそうにしてる……ってことはこれはサリアが漢らしすぎるだけか……
結局サリアは果実を丸々一つフォウルに食べさせるまで止めることはなかった。
「うん、心なしかフォウル君の顔色も良くなったような気がする。」
「お前すごいな……」
少なくとも俺がフォウルやサリアに同じことしろって言われたらムリだ。
「たかがこれくらいで大袈裟だね……で、フォウル君をこんなにしたのは翔太さんの昔の仲間だそうじゃないか。どうするつもりだい?」
「どうもこうもないじゃないですか! 叩き斬ってやりましょうよ! 俺に任せてください!」
「いやグレン君はちょっと抑えて……」
グレンが腰に挿してあった木剣を抜いて振り回す。……グレンってこんな戦闘狂だったっけ? ……まあ自分から剣術を身に付けたいなんて言い出す時点で戦闘狂なのか。いや、それよりも。
「……確かにフォウルの命を狙ってくるならクラスメイトとはいえほっとくわけにはいかない……何よりもなんであんなことになったのか、もっとちゃんと話を聞きたい。」
さっきは熱くなって話を聞くどころじゃなかった。でもよくよく聞いてみるとなんでこんなことをしたのかわかるかもしれない。坂本の寝返りに続いての出来事だ、きっと無関係じゃないはず。
「じゃあ行こうか、そこの遺跡で待ってるんだろう? ちょうどそこに行くつもりだったらしいしちょうど良いじゃないか。」
「じゃあフォウルさんは俺が背負います! 戦えなくなるのは残念ですけど師匠の役に立てるなら喜んで!」
そう言ってグレンはフォウルを背中におぶって駆け回る。……あの体格差でフォウル持ち上げんのか……
「……いや、いい。みんなはここでフォウルのことを看ててくれ。遺跡には俺一人で行ってくる。」
衰弱してるフォウルを連れていくわけにはいかない。……それに仮に戦闘になっても、俺一人だったら死ぬことは……
「じゃあ私がついて行きますよ。サリアちゃんとグレン君がいればフォウルさんは安心でしょうし」
「そうだね、じゃあそうしようか。僕とグレン君でフォウル君をみておくよ。」
「えっちょっと待って……俺一人でいいって……」
「どーせショウタさんのことだから私じゃ足手まといだとか思ってるんでしょ? 顔に出てますよ。」
そんなこと思っ……てはないとは言い切れない。確かにリリアがいたところでとは思う。
「私だってただここまで来ただけじゃないってところを見せてあげますよ。これでも結構強くなったんですよ?」
「そうですよ! リリアちゃんも前とは比べ物にならないほど強くなったんですよ! まあ僕ほどじゃないですけど!」
……本当だろうか、目の端でドヤ顔をしてるこの少女が本当に戦えるのか?
「まあまあ、リリアちゃんが強くなったのは本当のことだから。リリアちゃんだけじゃなくて僕もグレン君もだけど全員レベルは20を超えてる。」
「レベル20……ってすごいのか?」
「それもわからないのかい……そうだね、確か公開されてた情報だと翔太さんが前に戦ったザハードのレベルが24だったよ。今の僕と同じ。」
ザハードとは成り行きで戦うことになった冒険者の名前だ。サリアとグレンと出会うきっかけにもなった出来事で、割と記憶に新しい。
「あいつと同じレベルか……そりゃ強いな。」
「そうですそうです。私は強くなったんです。だからショウタさんが断っても無理やりにでもついて行きます。」
なんでそこまでしてついて来ようとするんだか……危険なだけで何もありゃしないってのに
「……わかった。でも危ないと思ったらすぐ逃げてくれよ? 俺だってせっかく再開した仲間とまた別れるのは嫌なんだ。」
「むー……まだ私の強さを信用してませんね……」
頬を膨らませてリスのように拗ねるリリア……その顔見たら余計信じられねぇよ……