第6話 遭逢
気づけばいつも、私は夜陰を纏った街中に佇んでいる。
あの小屋からこの場所に辿り着くまでの記憶は抜け落ちていた。
しかし、まともに動くはずのない壊れかけの身体が私をここまで連れてきた理由はよく判っている。
耐え難い「疼き」。
解放されたい。初めはただそれだけだった。
絶えることのない雨雫に身を突き刺されながら見知った夜道を彷徨う。朦朧とする意識の中、左目と既に朽ちた右目までもが探し物を捉えようと激しく揺れ動いている。こんなにも辺りは暗いのに、視界に映る光景は明瞭だ。
揺らめき、脚を引き摺り、渇望に支配され追い求める私の姿はまるで……。
気配を闇へと溶け込ませ、私は前方を独り歩く女性の後をつけている。
残酷なまでに据わり、蝕まれた心。消えてほしいと懇願する記憶ほど奥深くに灼き付き、それは永久に消えること無く己の中で息衝き続ける。
この手で奪い取った「命」の感触も、いつまでも鮮烈なままに。
――――――息を殺して近づき、背後から勢いをつけて強く突き飛ばす。握られていた傘が放され宙を舞い、地面に這い蹲った相手が、こちらを、振り向く前に……―――――
「!!」
後方から腕を掴まれ途端に意識が引き戻される。狼狽えながら振り向くと、そこには見知らぬ人物がいた。
その手に込められた力は強く、振り払うことは出来ないと察した。突如迎えた窮地に混乱し全てが硬直する。後を追っていた女性は気づくことなく遠ざかっていき、その場に残された私はただ呆然と立ち尽していた。
「悪いね。あの子、うちの常連なんだ。見逃してやってくれないか。」
優しく、柔らかな口調で語りかける女性の声。その顔貌は傘で覆い隠されている。
「おいで。大丈夫、悪いようにはしないさ。」
そう促す彼女から一瞬覗かれた口元にはうっすらと笑みが浮かべられているように見えた。
諦め、手放し、失った日常。それはあまりにも儚く遠い。
たとえもう寄り添うことが叶わないとしても、この現状を変えることができるのであればどんなものにだって縋りたかった。
確かに握られている自身の腕を見つめながら、導かれるままに私は彼女へとついて行った。