第1話 潜在
街から少し離れた森の奥にひっそりと佇む木造の古い小屋。廃墟のようなこの場所に、一人の少女がいた。
朝日が昇り、鳥の囀りが森に響きながら少女の耳まで届く。血の滲んだベッドに放り出され転がっているのは、絆創膏と包帯に包まれた身体。少女はのそりと起き上がり窓から差し込む光を紺色のカーテンで遮ると、首元を搔きむしりながら徐に歩き出した。
全身を纏う柵を床へと無造作に落とし浴室へと入る。損傷が水の冷たさを教え、頭上から身体を伝い流れていく穢れたそれを朧げに捉えながら目で追っていた。
浴室から出ると洗面所にある大きな霞んだ鏡の前で足を止める。そこに映るのは、爛れた傷と赤黒い斑点が無数に咲き散らばる身体だ。
「……。」
少女は日々蝕まれていく。沈黙の中虚ろな瞳がこちらを見つめ、血色を失った唇がふいにぽつりと呟いた。
「……まだ、足りない。」
首元を掻くと濁った朱が溢れ身体を辿りゆっくりと流れ落ちていく。拭っても拭ってもとめどなく滴る。それに染まった手で創傷を力なく撫でると、衰弱した蒼白の肉体は彩られ、汚されていった。
少女は求めていた。自身を救うものを。
少女は探していた。自身を満たすものを。
鬱蒼とした森の奥で樹木たちに隠されている小屋。その中に潜むのは、
「ミツル」という少女に化けた醜い怪物である。