プロローグ
死、それは終わり
私達が逃れられないもの
いつの日か必ず迎えるもの
常に側で寄り添うもの
ある人はそれを恐れ、ある人はそれを望む
死、それは終わり
――――――何の、「終わり」なのだろう
私は見慣れた街を見下ろしていた。
12階建ての古びたマンション。その最上階の一室にある私の部屋。
暗闇の中の住宅街をぼんやりと見つめてみる。ベランダから景色を眺めるこの行為にはもうとっくに飽きてしまっていた。
視界いっぱいに広がるのは私が18年間過ごした何もない静かで退屈な街。冷たい風が頬を撫でると、私の瞼はゆっくりと下りる。
「……寒い。」
初春の夜は、まだ冷える。
始まりの季節。命の芽吹きの訪れ。春はきっと何かを連れてくる。
私はそれがどうしようもなく恐ろしかった。
「大丈夫だよ……。」
自分を慰めるように震える唇が小さく優しい声でそう呟いた。
瞳に再び街と夜空を映し、鋭く欠けた青白い月を見上げながら冷たい夜の空気を大きく吸い込む。そしてゆっくり、ゆっくりと、温かくなったそれを吐き出す。繰り返しているうちにいつしか震えは消え、ベランダの柵を強張りながら握りしめている両手は自身の決心に応えるように柔らかくなっていく。
全身の力が抜け切るのと同時に、私から生み出される最後の温かい吐息を零した。
なにかが始まるためには、終わらなければいけないなにかがある。
だから、私は……。
とある春の日の夜。
私は自宅のマンションのベランダから身を投げ、命を絶った。