怠惰なる貴族
次の日、ギラ達は例の珍しいものを求めるという貴族の家に向かう。
その貴族から何を頼まれるのかは今は分からない。
だがそれが面白そうだとは感じていた。
そんなギラの変な好奇心に駆られ、未知なる冒険へと動き出すのである。
「ここですか、すみませーん!」
「反応がありませんね」
「待った、中から誰か出てくる」
「何か面倒な事になりそうですわね」
中から出てきたのはメイドだった。
事情を話すとメイドは家の中へと案内してくれた。
「お嬢様、お客様をお連れしました」
部屋の中から声がする。
どうやら依頼人はお嬢様らしい。
ギラ達は部屋の中へと入る。
「よくきてくれましたね」
「あなたが珍しいものを求める貴族ですか?」
そのお嬢様はベッドに寝たきりになり動けないという。
そこで誰かに代わりに依頼を頼みたいという事らしい。
だが今までに来た人達は全て断念してしまったらしいが。
「実は秘境を見つけてほしいんです、その秘境の写真を撮ってきて欲しくて」
「秘境?そんなものがあるんですか」
「初耳ですね、大陸もオルバインも結構見てきたつもりなんですけど」
「それでその秘境というのはなんなんだ?」
お嬢様曰く普段行かないような場所にあるから秘境だという。
それは当然として、そんな場所の存在が疑わしい。
そこでお嬢様はメイドにあるものを持ってくるように言う。
そのメイドが持ってきたのは一つのアルバム。
ギラ達はそれを見ると、そこには未知の景色の写真が多数あった。
「これって…」
「父が撮影したものです、今は亡くなってしまいましたが」
「それで秘境の写真を撮影してこいという事か」
お嬢様は父の遺志を継いで秘境を今後も探したいという。
だが自分はこんな身、他人に頼るしかないのだ。
怠惰と言われるだろうが体が動かないのだから、そうせざるを得ない。
「分かりました、では出来る限りはやってみます」
「感謝します、では最初は蜃気楼の塔という遺跡を探し撮影してください」
「こうなるとカメラが欲しいな」
お嬢様はメイドに頼みカメラを貸してくれた。
このカメラは高性能なのでブレなどがなく撮影出来るという。
「すまないね、では早速調べて探しにいくよ」
「日数の制限は設けません、焦らなくて構いませんから」
「分かりました、では早速行ってきます」
その前にお嬢様に名前を聞いておく、ついでにメイドにも。
「私はアヌシス、こちらのメイドはキスカといいます」
「お見知り置きを」
「ええ、よろしく頼みますね」
「それじゃ私たちは行くから、見つけたら撮影して戻ってくるわ」
行こうとするとお嬢様から一つ言われる。
「秘境は複数見つけてもらう事になります、期間は設けませんからどうか頼みますね」
「ええ、それでは見つけたら撮影して戻ってきますよ」
そうしてキスカに見送られ屋敷をあとにする。
「にしても秘境探しとは、難易度の高い依頼を受ける事になったね」
「いいではないか、私としても秘境を生で見られるのは嬉しいぞ」
「とはいえどうやって探すんですか」
「まずは情報が欲しいですね」
少し考える。
蜃気楼の塔と言うからには恐らくは砂漠だろう。
だとしたらフィーアに訊いてみたら何か分かるかもしれない。
ギラ達はその望みに託しアルセイムの砂漠へと向かう。
そして以前の小屋へ行きフィーアにそれについて尋ねてみた。
「蜃気楼の塔、私も噂には聞いた事がありますね」
「本当ですか?それはどこに…」
フィーアの話ではこの砂漠の最南端にあるらしい。
だが砂漠の南部は危険な魔物が多数出現する事に加えジャイアントモンスターも出るらしい。
冒険者ですらまず行かないという未開の地が砂漠の南部なのだそうだ。
「それでも行くというのなら私は止めませんが」
「仕方ないですね、引き受けた以上反故にするのは性に合いませんから」
「ギラ様って変に意地っ張りですよねぇ」
「まあいいよ、情報ありがと」
フィーアにお礼を言って小屋を出る。
「さて、砂漠の南部は未開の地、面白くなりそうですね」
「そんな危険なとこに行くとは、怪我の一つでも覚悟しとくかね」
「でも長期的な旅になりますよ?野宿は必須になりますよね?」
「なら面白いものを持ってるわよ、これで宿は気にしなくていいわ」
そう言ってモレーアがおもちゃの家のようなものを出す。
それに合言葉を言うと、その家が巨大化した。
「こいつは私が作った簡易的なコテージハウスよ、これで宿は問題ないわ」
「モレーアさん、凄いですね」
「こんな技術は初めて見るな」
「やっぱり異世界人なんですねぇ」
そんなわけで宿の確保は出来たようだ。
ソルバードでは砂漠の南部に行くのは困難なので、徒歩移動になる。
「それじゃ行きますか」
「なのです、わくわくするのです」
「まさかの砂漠の横断とか、長旅になりそうですわ」
「それも楽しみですね」
そうして砂漠を南下する。
南部との境目は途中にあるオアシスらしい。
そこから南に進むと砂漠の南部に入るとの事だ。
砂漠を進むギラ達。
砂嵐が吹き暑さに体力を奪われる。
準備は入念にしてきたものの、やはり辛いものである。
「はぁ、暑いですね」
「我慢ですよ」
「砂漠の徒歩移動、今日は時間的にオアシスまでが限界だろうな」
「ならさっさとそのオアシスへ向かいますわよ」
そのまま砂漠を南へと歩く。
熱と嵐がその体力を奪っていく。
「はぁ、流石に辛いですね…」
「リックは体力がないからな、辛かったら言うといい」
「無理だけはさせませんからね」
リックを気遣いつつも流石に余裕はないようだ。
砂漠の移動はただでさえ消耗が激しい。
オアシスまでの辛抱とはいえ油断は出来ない。
それでも砂漠を進むギラ達。
そして日が傾き始めた頃になんとかオアシスに到着する。
「時間的にも今日はここで休むよ、ここから南は未開の地、覚悟を決めときな」
「それじゃコテージハウスを設営するわね」
「身の回りのお世話はメーヌにお任せを」
そうしてコテージハウスを設置して夜を迎える。
砂漠の夜は冷えるがこの家の中なら快適だ。
「にしても砂漠の南部は未開の地か、油断は出来ないかね」
「私としては知らない事を知れるいい機会だ、昂るね」
「なんにしても夜が明けたら南部に突撃ですからね」
「強い魔物、未開の地らしいですわね」
そうして夜は更けていく。
蜃気楼の塔を目指すギラ達の最初の大冒険は始まったばかりだ。
アヌシスからの依頼の秘境探しは経験とその精神を培う事となる。