リックの受難
修業を続けるギラ達は今日も魔物の討伐に出ていた。
リックの覚えた魔法も徐々に増えていて戦力は確実に上がっている。
モレーアの教え方も意外と悪くないと、思っていた。
そして今回も強敵と対峙するのである。
「この辺りですか」
「はい、今回はキングドビーですね」
「それにしても懐かしい名前ですね、以前もドビーを倒してますし」
「ですねっ、それもありました」
そうして洞窟を彷徨いていると、お約束のように向こうから姿を見せる。
ゴブリン系のモンスターの最上位種であるキングドビー。
当然その強さは桁違いなのである。
「さて、構えますか」
「はい、しっかり頼みますよ」
「それじゃ、始めるとしましょうか」
そうしてキングドビーとの交戦に入る。
「いきます!ソウルドレイン!」
「相手が凶暴化したね、守りを固めつつさっさと倒すよ!」
凶暴化したキングドビーは広範囲に矢を飛ばしてくる。
それを前衛やメーヌの防御魔法で凌ぎつつ攻めの機会を窺う。
「悪鬼の拳よ!打ち据えろ!」
「ゴブリンパンチとは面白い魔法を覚えたものですね」
「隙が出来ました!一気にいきますよ!」
そうしてキングドビーを撃破する。
凶暴化した魔物はあらゆる能力が強化されるので戦いも厳しくなる。
だからこそ単独では行くなとモレーアはしつこく忠告するのだ。
とりあえず街に戻り冒険者ギルドで報酬を受け取る。
その後は少し自由時間にする事に。
各自一旦解散し、何かあったら携帯端末に連絡するようにと伝える。
「それで、なんで私はリックさんに誘われてるんですかね」
「別にいいじゃないですか、ギラさんと一緒にいたら悪いですか」
リックもギラを今では気に入ってしまっている。
ただここまで気に入っていならも恋愛感情がないのも周囲に茶化される。
それもリックらしさとは言えるだろうが。
とりあえずそのまま露店で串焼きでも買って食べる事に。
だがそこから始まるリックの受難は厄日を感じさせてくれる事となる。
「っ~!?けほっ、これ…激辛の…」
「本当ですね、店側が間違えたんでしょうか」
どうやら店側の手違いで激辛の串焼きを渡されたらしい。
文句を言っても意味はないとしてリックはそれを無理矢理食べてしまう。
「無理しなくてもいいんですよ?私が代わりに食べてもいいのに」
「それは、遠慮しておきます、男たる者、そんな簡単に折れられません」
リックも変なところで強情な性格をしている。
負けず嫌いというか、意地っ張りというか。
「あれ?財布がない、落としたんですかね」
「なんか災難続きですね」
今度は財布がないというリック。
その財布の特徴は覚えているので、探しにいく。
街の自警団の詰め所に届いていたらしく、とりあえずは財布は戻ってきた。
「はぁ、焦りましたよ」
「今日って厄日なんじゃないですか?」
すると今度は明らかに怪しい店の客引きに絡まれる。
「はーい、そこの人、うちで少しゆっくりしていかない?」
「まーた、露骨に胡散臭い店ですね」
「えっと、僕達は…」
どうやらその店は軽食の店のようだ。
とはいえギラは明らかに胡散臭いと思っていたので、素直にお断りである。
「私達はそんなお金も持ってないので、お断りします」
「えっと、ご免なさい」
「ちっ、いいカモかと思ったのに」
そんなわけで街の少し外れで飲み物を片手に少し休む。
「はぁ、なんか今日災難続きですよ」
「やっぱり厄日なんですかね」
二人は今日に限ってやたらと大変な目に遭う。
それを信じるわけでもないが、ギラはリックの厄日なのかとも思っていた。
「でもギラさん、本当に粛々と断ってますね」
「あれぐらい出来ないと生きていけませんよ?」
リックのお人好しはなかなかのものだ。
騙される事も意外とあったようで、ギラがそれについての教育的指導である。
明らかに怪しいと思ったらさっさとその場を離れるようにリックに言い聞かせる。
「でも本当だったらって思うと、やっぱり…」
「その甘さが命取りですよ?人なんてものは常に疑ってかかれというものです」
ギラはまさにリックとは正反対である。
何かと言われたら最初は疑いから入る。
何事も常に疑ってかかるのがギラの流儀だ。
「そんななんでも疑ってて楽しいんですか」
「そうではないですよ、簡単に信じるような人はカモにされるという事です」
ギラの言う事も尤もである。
怪しいものは最初に調べるのが鉄則だ。
それが難しいのも人間心理ではあるのだが。
とりあえず飲み物を飲み干しその場をあとにする。
ギラは少しリックを気にはかけているようである。
「それで、リックさんは私をどう思っているんです?」
「どうって、少し怖いけど人生の先輩とは思ってますよ」
人生の先輩、まあリックの何倍も生きているのだからそれはそうか。
恋愛に関してはお互い無関心なので、それでいいと思った。
「にしてもなんか不服ですね、女体に無反応なせいですかね?」
「何か言いました?」
適当に誤魔化す。
とはいえリックも何かと慣れてしまったのか、それには不服なギラだった。
「それよりリックさんってこういうの興味あります?」
「ありますよ、生物学的に」
本屋にあるエロ本を指して言ってみる。
だがリックにとってエロ本は生物学なのか。
それに対してギラも呆れ顔である。
「はぁ、男の子なんですから少しはエロに興味ぐらい示してくださいよ」
「それに対して慣れさせたのは誰なんですか」
見事な反論が返ってきた。
普段から女性に囲まれてたらそりゃそうもなる。
リックのエロへの感心の薄さはそんなギラ達のせいである。
「それにしても、リックさん今日は本当に何かと不幸続きですね」
「今日だけでなんでこんなに不幸な目に…」
これまでもリックの災難は続いていた。
小さな不幸が連続して続くような感じなのでギラも何かと思っていた。
「それよりみなさんと合流しましょう」
「ですね、行きますよ」
そうして宿に戻り皆と合流する。
「おや、デートだったのかい」
「違います、というかリックさんが仙人に見えて困惑してます」
「何があったんですかね…」
リックが仙人に見えた。
ギラも上手く言うものである。
「とりあえず少し場所を移動しましょうか、バドカに行きません?」
「いいですね、そこでの討伐依頼をやりましょう」
そうしてドラジールを飛び立ちバドカへ向かう。
ベゼスタは今回は出会わなかったが、いつでも準備はしておく。
ギラはリックの恐れを知らないその性格に少し感心していたのだった。