施しと怠惰
今日は修行を休み一日休暇にしたギラ達。
とりあえずドラジールで各自自由にする事にした。
各々街で自由に時間を潰すものの暇な人もいる様子。
そんな中思わぬ人の側面を見る事になるのである。
「ふぁ、リックさん、なんで私を誘うんですか」
「別にいいじゃないですか、普段から怠惰な生活のギラさんなんですから」
「それで私も一緒なんだ」
各自好きに過ごす中リックはギラとハルミを誘い街を歩いていた。
なんというのかバランスは取れているのだろうか。
「それにしてもこの世界にも怠惰な人はいるものですね」
「あの物乞いですか?」
「ああいう人って本当に働けなかったりするのかな」
街には物乞いも少なからず見られる。
それは今までに行った他の街でも少し見ていた。
やはり貧しさは存在するのか、とはいえギラがそれを見る目は冷たかった。
「でもやっぱり助けてあげたくなるじゃないですか」
「リックさんは甘いですね、砂糖一袋使ったアイスよりも甘いです」
「その例えはどうなのかな」
ギラはお人好しのリックに厳しい。
それを悪いとは決して言わないが、それが正しいとも決して言わない。
「どうしてですか?困ってる人は助けてあげるべきじゃ…」
「人っていうのは人の善意につけ込んで悪事を働く生き物ですよ」
「ギラも随分と辛辣だね」
とはいえギラの言う事も一理ある。
それはリックへの社会勉強になるだろうと見本を見せてくれる事に。
「ではそんなサンプルをお見せします、あの物乞いの顔に注目ですよ」
「はぁ、顔を見ればいいんですね」
「何をするんだろ」
そう言うとギラは物乞いに近づき一枚の紙を与える。
リックはそれが商品券である事を確認した。
すると物乞いは少し不満げな顔をする。
そしてギラが戻ったタイミングで舌打ちをしたのだ。
「あれって…」
「あの物乞いは現金を求めています、なので私は無料で交換可能な商品券をあげました」
「そしたら露骨に不満そうな顔を…」
ギラ曰くあれが物乞いの本質らしい。
現金を与えればさらなる怠惰へと堕ちるだろう。
そこで商品券を与えると露骨に嫌そうな顔をされる。
つまり彼らにとって商品券は役に立たないものという事らしい。
国の貧困支援で現金を与えたところでその人間が働くわけがない。
現金を与えるという事は貧困の解決にはならない、というのが今の流れらしい。
「例えば、貧困に喘ぐ国に現物や現金を支給してその人達は働くと思いますか?」
「それは…難しい…ですよね」
「そういうニュース知ってる、物資を売ったとか聞いたよ」
ギラの言いたい事、それは施しを与えるぐらいなら井戸の掘り方でも教えろという事だ。
冷酷と言われようとも本当に貧困を解決したいならそれが最善だという。
貧民に現金や物資を与えたところで貧困は解決しない。
それどころかその貧民はさらなる怠惰へと堕ちていくだろう、というのが言いたい。
「それが物乞い、指しては貧困という現実ですよ、いい社会勉強になりましたか」
「ギラさんは意地悪です、僕がそういう人だって知っててそれを見せて」
「でもギラなりの優しさなんでしょ?理想で飯は食えないって事かな」
理想で飯は食えない。
だがその理想は捨ててはいけないともギラは言う。
理想とは現実にしてこそ理想なのだとも言う。
「理想を語るな、その身を以て理想になれ、そういう事です」
「その身を以て理想になる…」
「理想とは自分がそうなるもの、って事かな」
ギラなりのリックへの勉強会である。
リックもそれを複雑な思いながらも受け止めねばならない。
ギラが見せた現実とはそういう事なのだ。
「結局物乞いというのはそれで生きていけると知っているんですよ」
「働かなくても貧しさをアピールすれば助けてくれる…」
「ギラって本当に冷血女だね」
冷血だろうとそれがギラである。
社会勉強という名の現実を見せる。
リックもそんな現実に奥歯を噛み締める。
「貧困を理由に何をしても許されたら世界の誰もが自分は貧困だと言うでしょうね」
「貧しいから、そんなのは理由にならないって事なんだね」
「でもどうしてそういう空気があるんでしょうか」
ギラ曰く貧民の悪事は日常的にあるという。
だがその悪事は政治家などの大きな悪事によって飲み込まれるそうだ。
それにより貧民の悪事は知られにくいという。
「そもそも貧民や平民が清らかで貴族や王族が悪なんてのは創作の話ですからね」
「確かに創作を見てるとそういう傾向が凄く強いような…」
「でもそれは創作であって、現実はそれとは異なるかな」
結局は人の本質はそんな怠惰なのだとギラは言う。
誰だって楽に生きられるなら楽に生きたいと願うのは当然だ。
その手段の一つが物乞いである、という事に過ぎない。
「以上で簡単な社会勉強はお終いです、あの商品券は換金されるでしょう」
「やっぱり意地悪ですよ…ギラさん」
「まさに無垢な子供の心を抉ってるねぇ」
とりあえずその場をあとにする。
露店で食べ物でも買って適当に食べて歩く。
「やっぱり辛いものに限りますね」
「ギラさん、本当に辛党なんですね」
「その真っ赤な串焼き、物凄く辛そう」
ギラの食べているのは見るからに辛そうな串焼きだ。
その香りからもそれが凄く辛いと伝わってくる。
「辛いものは美味しいですよ、代謝をよくしてくれますしね」
「でも胃をやられそうですね」
「私には食べられそうにないなぁ」
リックとハルミは塩焼きである。
ギラだけがスパイスたっぷりの激辛焼きだ。
それを見ているリックとハルミは苦笑いである。
ギラもそんな超辛そうな串焼きを美味しそうに食べている。
二人とも辛いものが苦手というわけではない。
だがギラの食べているものは明らかに無理だろうと思わせる。
「もう少し辛くてもいいんですけどね」
「うわぁ~、味覚音痴なんですかね」
「辛いものが平気な人の舌ってどうなってるのかな」
二人とも散々な言い様である。
そりゃあれだけ赤い串焼きを見たらそうも思ってしまう。
だがそんなの知らンがなと言わんばかりにその辛い串焼きを頬張っていた。
今日は一日自由に過ごせた。
とはいえリックはギラに少し意地悪されたようで、不服である。
ギラもリックを思っての事なのだが、その真意は口に出す事はない。
貧しさとは甘い汁の味を知った事、それがギラの教えだ。
本物の貧困とファッション貧困を同列に語るなかれ、である。
明日からは再び修行とベゼスタとの勝負に戻るのだから。