修行と実戦
昨日の思わぬ出会いで少し複雑なギラ達。
だが彼との遭遇に備えつつも修行は継続する。
今日もそんな魔物との戦いのために近くの森に来ていた。
王になる男、それは常に上を見続ける精神なのだろうか。
「さて、その魔物というのはなんですか」
「えっと、グリーンエレメントですね」
「精霊系の魔物ね、魔法に特化してるから油断してると危険よ」
「私も少しは戦力になれるといいけど」
そうして森を彷徨いていると、その魔物が姿を見せる。
早速臨戦態勢に入るギラ達。
魔物が気づいたようで、リックを守りつつ戦いを開始する。
「リック!先手必勝だ!」
「はい!ソウルドレイン!」
「凶暴化したわよ!守りを固めなさい!」
グリーンエレメントが凶暴化し襲い来る。
さっさと倒してしまおうと攻撃に転じる。
「新緑の輝きよ、風に乗り踊れ!」
「流石にらしいね、それじゃさっさと倒すよ!」
そのままグリーンエレメントをサクッと片付ける。
報酬もそれなりに弾む相手なので、今夜は少し贅沢が出来そうだ。
するとどこかで聞いた声がした。
「よう、相変わらずちまちましてんな」
「ベゼスタか、あんたも仕事かい」
どうやら彼も仕事で来ていたようだ。
「まあな、傭兵とは言ってるが食いっぱぐれないように冒険者ギルドもやってんだ」
「それで、討伐は出来たんですか?」
ベゼスタは採取系の依頼は一切やらないらしい。
常に討伐系の依頼のみを受け、単騎でそれを叩きのめしているという。
「そうだ、せっかくだし俺がてめぇらに手解きしてやるよ」
「こっちは戦いの技術なら足りてるんだが、それに教わる事もないよ」
「同意ですね、メーヌは教わる必要はありません」
とはいえ彼もやる気満々のようだ。
適当に負かして追い返してしまおうと考える。
「やれやれ、では私が相手になりましょう、このペトラ、手は抜きませんわ」
「あんたが相手してくれんのか、なら全力で潰しにいくぜ!」
そうしてペトラも剣を抜く。
そしてその洗練された剣術がここに冴え渡るのだ。
「少しはやるじゃねぇの!」
「そっちこそ盾の使い方を知っていますわね!」
ベゼスタは盾を巧みに使いペトラの攻撃を流していく。
だがそこはペトラ、盾持ちの相手への対策など熟知している。
「盾ぐらいで私の攻撃を捌き切れると思わないでもらいますわよ!」
「あんた、相当な熟練だな、若いのに見事なもんだ!」
それに対してベゼスタも的確に捌いてくる。
斧を使うというのに全く引く構えもない。
それは熟練の傭兵であるという事を語るには充分すぎた。
「つっても、俺も譲れないんでな!」
「同じく、負けるつもりなどありませんわよ!」
その華麗な戦いにギラ達は目を見張っていた。
今まで見れなかったペトラのその剣術の真髄。
魔物相手とは違う、対人戦用の剣術だからだ。
「ふふ、燃えますわね!」
「あんた、大概な戦闘狂だな!それでこそ戦いは面白いってもんだ!」
ペトラは常に攻め立てるが、ベゼスタも攻め立ててそれを返している。
攻めと攻めの衝突はまさに刃の衝突だ。
「ですが、傭兵の戦術で正規の型に勝てるなどと思わないでもらいますわよ!」
「それに抗うってのも面白いもんだぜ!」
ペトラの剣術はウルゲントの神殿騎士団の正式な型だ。
戦いにおいて正式な型や流派とはどんな相手とも平均以上に戦えるものである。
我流で勝てる相手は少なくともそうそういない。
だがベゼスタの戦術は我流ではない、ペトラについてくるのがその証拠である。
「あなた!我流ではありませんわね!斧なのに剣術のような攻め、どこで覚えましたの!」
「そいつは傭兵としての経験ってやつだぜ!雇われてたとこで盗んでんのさ!」
その吸収する能力からも彼の強さが分かる。
傭兵として所属したところで、その場所の技を盗んできた。
それにより斧を使いながらも剣術のような攻めを可能にしている。
まさに斧から放たれる剣閃、そんな言葉が似合う。
「それなら!その盗んだ技で今まで勝ち続けたと!」
「当然だ!強くなるってのは相手からそれを吸収する事も必要だぜ!」
その戦いを見ているハルミは本物の剣戟に感動していた。
これが剣士としての戦い。
自分を高めるための糧にすべくそれを見つめる。
「なら!それを!打ち破ってやるまでですわ!」
「そう簡単に負けるほど!俺も甘くねぇって教えてやるぜ!」
そして次の瞬間。
「もらい…ましたわよ!!」
「んなっ!?」
ペトラの渾身の技が炸裂する。
それによりベゼスタの斧が弾き飛ばされる。
「チェックメイトですわね」
「やれやれ、俺の負けか、とはいえ面白い勝負だったぜ」
ペトラも無駄な殺生はしない主義だ。
そのまま剣を収める。
「甘いねぇ、ここが戦場なら後ろから刺されてるぜ?あんた」
「戦場では、の話ですわよ」
ベゼスタもそれに対し笑ってみせる。
「ははっ!まあそうだな、つっても忘れんなよ、戦場で相手を見逃せば死ぬぞ」
「ええ、戦場に出る機会があればそのときは」
ベゼスタはそのまま斧を手に取る。
とはいえ負けを認めた以上これ以上の戦意はないようだ。
「そんじゃ俺は仕事の報告しに行くわ、あんた達も精々死ぬなよ」
そう言ってベゼスタはその場を立ち去っていった。
「ペトラ、あんた凄いじゃないさ」
「流石は騎士様ですね」
「驚きましたっ」
ペトラはそれに対し騎士として当然だと返す。
正規の型を修めている以上あの程度に負ける事はないと。
「正規の型というのはどんな相手とも戦えるように教わる、それが活きるな」
「我流が強いとか創作の世界の話ですしね」
「ペトラさんの強さの理由が分かった気がしますよ」
とりあえず目的のグリーンエレメントは倒してあるので、街に戻って報告だ。
思わぬ相手に遭遇したものの、特に怪我もなくなんとかなった。
そしてペトラの凄さを垣間見る事も出来たのだ。
ギラもそんなペトラに対し騎士の凄さを見ていた。
やはり本物は強いのだと改めて思う。
自分なら負けはしないと思いつつも、それを認めている。
ハルミもペトラの剣を盗もうとその視線を向ける。
強くなるとは教わると同時に盗む事もその秘訣なのだ。
相手の技を盗む、それは難易度が高く同時に才能も求められるからである。
討伐報酬を得たギラ達は少し贅沢な食事にありついた。
強い相手ほど報酬も弾む、それが冒険者ギルドの仕組みだ。
ベゼスタは今後もギラ達の前に現れる、それを確信していた。