極上の相手
一夜明け今日も修業を続けるギラ達。
昨日の事もあり、極上の相手を選択していた。
その相手は今までの生半可な相手とは比べ物にならない相手だ。
リックの修行も兼ねその極上の相手に挑む。
「それで、ここですよね」
「はい、マンイーターというプラチナランクの最高の相手です」
「人喰いって、また物騒な名前だね」
「ふふ、それぐらい僕は構いませんよ」
リックもギラに毒されているようである。
以前なら勝てない相手に挑むような事はしない人だった。
だが今では無謀な挑戦もガンガン進んで引き受ける。
実力は弁えているらしいが、仲間をそれだけ信じているのだろう。
そうしてマンイーターを探していると明らかに異様な空気を感じ取る。
どうやら近くにいるようだと、警戒する。
すると近くに何やらカバンらしきものが落ちていた。
まさか誰かが襲われたのか?それを思いつつ警戒を強める。
そして次の瞬間。
遠くから魔法が飛んできた、恐らく遠くから見ているのだ。
気配はしない、ならばとギラは特殊な領域を展開し相手への感度を高める。
第二波の魔法が飛んできたのを確認し、その感度の強い方へと一気に走り出す。
「いたぞ!」
「あれを見なさい!」
「女の子が襲われてる…いや、あの怪我で生きてるのか?」
「ふふふ、燃えますね」
完全に火がついている。
冒険者達の誰もが戦う事を避ける相手、それがこのマンイーターである。
ちなみにマンイーターは移動式の殲滅兵器だ。
中型ながらも物理的な攻撃から科学的な攻撃まで多様な兵器を搭載している。
国が放棄したのだが理由も分からないまま起動し冒険者を襲っているらしい。
そんなモンスター兵器を相手にするなど、熟練でもお断りの相手である。
倒すとしたら最低でも熟練の人間が十人は必要になるぐらいだ。
「とりあえずあの女の子の確保もしないとね」
「ですね、生きてるかは微妙ですけど」
「どんな魔法を覚えられるんでしょう」
「今回ばかりは手は抜けませんねぇ」
そうしてマンイーターはギラ達に照準を合わせる。
一気にこっちに走り出すマンイーターに陣形を整える。
「光の鎖よ、動きを止めろ!」
「熱の海よ、足を焦がせ!」
「動きが鈍った!ソウルドレイン!」
「凶暴化しましたよ!危険度爆上げです!」
ソウルドレインの効果で凶暴化するマンイーター。
ターゲットがどうとかはどうでもいいとばかりに兵器の雨霰が飛んでくる。
さっさと仕留めないと確実に危ういと判断したギラはその力を込める。
「人喰いの牙よ、その生命に幕を引け!」
「マンイーターらしい魔法だ、ギラ!」
「やっちまってくださいっ!」
力のチャージを終えたギラがそこに立っていた。
そして地面に拳を叩きつけると同時に凄まじい光の雨が降り注ぐ。
その光に飲まれるかのようにマンイーターはどんどん損壊し足を落とす。
そのまま地に伏せたマンイーターを追撃で確実に破壊する。
それはギラだからこそ出来る事であり、魔王の強さのおかげである。
「なんとか破壊出来ましたか」
「こんな化物ギラ抜きで勝てる気がしないねぇ、クワバラクワバラ」
「それよりあの女の子を」
「出血が酷い…でも一命は取り留めてます、街に運んで手当しましょう」
その女の子を街へと運ぶギラ達。
報酬はリックに受け取りに行かせ、その間に宿で彼女の介抱をする。
「それにしてもこの怪我で死んでないとか」
「奇跡ですよね、どんだけ生命力が強いのやら」
「メーヌ、治せそうか?」
「止血とかは出来ましたけど、この怪我だと治癒魔法は効かないかと」
なんとか命は繋ぎ留めたものの怪我が酷い。
マンイーターに襲われて生きているだけでも奇跡なのだ。
「あ、容態はどうですか」
「一命は取り留めてますけど、すぐに目を覚ますのは厳しいですね」
「うーん、ならこれを使ってみる?」
「それってモレーアが作った薬か?」
モレーアの作った薬、それは過去の事もあり効果が大きいのは知っている。
だが彼女曰くその薬は一度もテストをしていない試作品らしい。
一応どんな怪我にも効く成分になるように調合はしたという。
だがそれは完全なギャンブルだ、それでも助けるにはそれに懸けるしかない。
それでもやらずに後悔するぐらいならやって後悔する、そうして薬を使う事に。
「どうだ?」
「ん…あれ…私…ここは…」
どうやら無事に効いたようで、瞬く間に傷が癒えていった。
そして彼女に話を聞く。
「えっと、家出して…それで田舎の方に行こうとしたら…」
「マンイーターに襲われてってか、でも助かってよかったね」
彼女からもギラ達の事を訊かれる。
「マンイーターを討伐に行ったときに助けただけです、別に善意なんかはありません」
「そっか、でもありがとう」
「それであんたこれからどうすんのさ」
彼女はギラ達についていくと言う。
だが危険に巻き込むのはあれなので丁重に断る。
「それでも私は一緒に行く、剣術ぐらいは出来るもん」
「意外と強情だねぇ、他はどうさ」
「私は異論はありませんわよ?」
「エレネも別に構わない、ソルバードの席は譲る」
他のメンバーも特に異論はないようだ。
とはいえ家出娘を冒険者の仲間にするというのも複雑なものである。
だが彼女は意地でも一緒に来るつもりのようだ。
「それで、あなた名前は?」
「ハルミ、ハルミ・ミズキ」
「ハルミさんですね、よろしく頼みます」
「アタシと同じ東の国の名前…珍しいもんだ」
とりあえずハルミを仲間に迎える。
ソルバードの定員的にもこれ以上仲間は増やせないだろう。
それでも彼女の堅い意志の前には断り切れなかった。
「それでとりあえず体は動かせます?」
「うん、問題はないかな」
「本当によく効く薬ですねぇ」
「なめてもらっちゃ困るわね」
そんなこんなで一旦落ち着く事に。
そこにリックから報告があるという。
「実は、冒険者ランクがゴールドになりましたよ」
「おぉ~、ついに来ましたか」
「へぇ~、ゴールドの冒険者なんて凄い人なんだ」
ハルミもそれにはわくわくである。
「ただ、プラチナランクにはそう簡単にはなれません、ここからが厳しいですよ」
「それでもここまで来たらプラチナランクを目指してやろうじゃないか」
「ですね、ヤッテヤルデス」
そうしてゴールドランクになったギラ達。
だがプラチナランクへの道は険しいものとなる。
ハルミを加え、さらに賑やかになるそのメンバーはここからが本番だ。
修行はもう少し続くものの、不穏な影は確実に迫っている。
変人ホイホイのギラが次に引き寄せる相手とは…。