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ギラの心情

オルバインで新たな魔法を覚える事に挑むリック。

ペトラやソウなども本から得たものを少しずつ物にしつつある。

とはいえ直接得るリックとは違い、本からの習得は理解が必要だ。

そのため完全に使えるようになるには理解が出来なくてはならない。


「さて、それでどんな相手とヤるんです?」

「ギラ様、それには語弊があります」

「えっと、プチヘッドっていう小型の機械の敵みたいです」

「ふむ、まあそれも面白い、では探すとしよう」


そうしてそれを探し始めるギラ達。

オルバインでは時折放棄された機械が勝手に人を襲ったりする事がある。

そのため定期的に国がそれを除去しているという。

これはオルバインの国の問題でもあり、完全に片付かない難題だという。


「それにしても機械が勝手に人を襲うとか」

「それってまさにサイエンスフィクションですよね」

「あはは、ですよねぇ」

「寧ろ命令がなくなって動かなくなるものだと思うが、自立した思考でもあるのか?」


そうしているうちにその魔物が姿を見せる。

小型の駆除兵器、それが今回のプチヘッドだ。

元々は害虫などを駆除する目的で作られ、それが軍事に転用されたものらしい。

国が試験的に野に放ちその性能をテストしていたりもするが、暴走も少しだけあるとか。


「それじゃリック、さっさと覚えちまいな」

「はい!ソウルドレイン!」

「機械でも凶暴化するんですね、正しくはバグったとでも言いますか」

「ソウルドレイン恐るべしですね」


とりあえず覚えたので、そのまま臨戦態勢に入る。


「偽らざる閃光、空を切り裂け!」

「機械の魔物だけにレーザーですか」

「かっけーですね」

「それより仕留めるわよ!」


そうしてプチヘッドをそのままスクラップにする。

ちなみにプチヘッドと言いつつもジャイアントモンスターなのである。

ジャイアントじゃない?ツッコんだら負けだ。


「それじゃ街に戻って次の相手を探しますか」

「そうね、リックも少しずつ逞しくなってるし」

「個人的には奥義書が欲しいですわねぇ」


そう言いつつ街に戻るギラ達。

だが雲行きが怪しく、街に着いたタイミングで少し強い雨が降り始める。

一旦宿に戻り雨が上がるのを待つ事に。

オルバインはゲリラ豪雨がたまにあるらしく、貴重な水なのだそうだ。

今でこそ浄化されているが昔は河川の汚染が酷く、国がそれの浄化をしたという。

技術の国だからこそ抱える闇であり、業なのだと思った。


「はぁ、私としても目的を忘れそうですね」

「ギラ様も楽しいものは好きですからね」

「ですねっ、でもこのままでいいんですか?」


人気のない廊下でのそんな雑談。

本来の目的はこの世界を滅ぼすために来ている。

とはいえ今はこの世界も楽しくなり、それを躊躇っているのか?

ギラも冷酷な中に苦しさと優しさがある。

それは今でも夢で見る罵声と恐怖の声だ。

人は自分を恐れる、だが自分を生み出したのは他ならぬ人自身だ。

そんな身勝手な世界を滅ぼし、新たな世界を滅ぼそうと立ち上がった。

だが今の楽しい時間がそれを迷わせる。

ならすぐに滅ぼさなくてもいい、時限爆弾のようなものをこの世界に残せばいいと考える。


「滅びの美学、そんなものは戯言ですよ、本当の滅びは恐怖と絶望なんです」

「敗者の憎しみは勝者を殺す、ですか」

「でもこの世界を本当にやるんですか?」


そんな話をしているところにリックが通りかかろうとする。

だが何かを話しているのに気づき、それに聞き耳を立ててみる事に。


「負けが美談になるというのは人を堕落させます、負けても褒められると」

「勝者こそが絶対の正義、敗者に人権なんてないですか」

「悪い事をした人には人権なんかないです、殺されても自業自得です」


リックはそんな言葉に息を飲む。


「結局この世界を滅ぼすにしても、将来滅べばいい、だから私はそうします」

「それがギラ様の答えですか」

「今でもそれを悔やんでるからこその選択ですよね」


リックはその言葉に驚きを隠せない。

ギラが世界を滅ぼす?何を言っているんだと思った。


「私の生きる意味は憎しみしかありませんから、それが私の全てです」

「でも今は楽しそうにしてますよ」

「はいっ、自然と丸くなった感じがします」


ギラもその言葉には否定はしない。

だがギラの心の中は憎しみしかないのだ。

空虚な憎しみ、それは行く宛もなく彷徨っているのだろう。

虚しさは心を空っぽにした、その結果空虚な憎しみが生まれてしまった。


「それで、リックさん、隠れてないでいいですよ」

「…今の話って」

「リックさんはギラ様が遠い未来この世界を消してもいいと思いますか」


リックもその言葉には複雑な顔だ。


「僕はそれを否定したりはしません、人も世界もいつかは必ず滅ぶんです」

「おや、もっと激おこするかと思いましたが」


その返事にギラも少し驚いている。


「でもそうするっていうのは僕達に対する配慮ですよね?違いますか」

「そうですね、私も毒に侵されてるんでしょう、人情っていう」


リックはそんな人情がギラを変えたのだろうと思った。

でも彼女の中の憎しみや苦しみはリックには理解出来ないほど大きい。


「それなら僕がギラさんを楽しませますよ、それで満足してくれるなら」

「おや、言いますね、まさか私にフォーリンラブですか」

「ギラ様も茶化しますね」


だがリックの目は本気だ。

とはいえ愛や恋という事ではなく、敬意を示す目である。


「それにしても私に敬意なんて示してもあなたが次の魔王になるだけですよ」

「別に構いません、僕は魔王になってもそれに後悔とかはありませんから」

「ここまで言わせておいて恋愛感情がないとか、リックさんもなんていうのやら」


それにギラは小さく微笑む。

長らく笑っていなかった、そんなギラが小さく微笑んだ。

それを見たメーヌと翠は二人を茶化しにかかる。


「はぁ、もうそこまで言うなら俺と子作りしろよ、ぐらい言ってくれませんかね」

「まーた、とんでもない事言うんですから」

「僕は独身貴族でいいですよ、養うのも面倒ですから」


リックの正論が突き刺さる。


「リックさん、そういうところだけ本音をぶっちゃけないでもらえますかね」

「ふふっ、僕は他人を養うためのお金は持ち合わせていませんから」


それにメーヌと翠も呆れ顔である。

だがそんなリックにギラはどこか信頼を感じていた。

彼の覚悟を見届けるのが自分のすべき事、そう思う。

すると雨が上がったとエレネが呼びにくる。

ギラ達は次の仕事に向け歩き出す。


次の仕事は冒険者ギルドで最高の相手を選んでやる、そう思っているのだった。

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