商人の不良債権
魔道書と奥義書を手に入れそれを習得に励む恋夜とペトラ。
ギラ達はそれを見守りつつリックの次の相手を探していた。
魔物相手に覚えたり、本から覚えたりそれを習得する方法は様々だ。
だからこそその経験は強さへと繋がるのだろう。
「それで今回の相手って誰なんですかね」
「えっと、ギガバットっていうコウモリの魔物ですね」
「それで夜の森ね、ここは常に暗いからコウモリぐらい出るわよ」
「暗い場所は苦手なんだがね」
そんなこんなで森を彷徨いているとコウモリの群れに遭遇する。
「いました!」
「取り巻きが多いですね」
「そんで中心にいる明らかにデカいあれがギガバットか」
「さっさと片付けません?」
すると向こうもこちらに気づいたようだ。
大群を相手にするものの取り巻きを倒すのは簡単だ。
「翠!」
「合点です!せーのっ、どかーん!」
翠の組成変更によるナパームで取り巻きを一掃する。
ギガバットのみになったところで、リックに指示を飛ばす。
「ソウルドレイン!」
「決まったわ!陣形を整えるのよ!」
凶暴化したギガバットがギラ達に襲い来る。
とりあえずそれに応戦する。
「闇の牙よ、その生命を吸い尽くせ!」
「ふむ、吸血魔法ですね」
「それよりさっさとやるよ!」
「負けませんわよ!」
そのままギガバットを撃破する。
冒険者ギルドでの討伐依頼も慣れたものである。
他の冒険者からは格上殺しと最近は呼ばれている。
今のランクはシルバー、それに対しゴールドやプラチナランクの魔物を倒している。
そんな凄腕から冒険者の見る目も変わりつつある。
「さて、それでは…」
「待て、誰かがいる、奥に進んでるっぽいね」
「ソウさん、耳がいいですわね…」
「追ってみましょうか」
ソウに従いその人の気配を追う。
その先にあったのは以前ヤマブキと出会った社だ。
扉が開いているようで中に誰かいると思われる。
様子を窺い、声を発する。
「ひゃあっ!?」
「ん?あんたもしかしてアメリアか」
そこにいたのは神像の一件で世話になったあのアメリアだ。
「あなた達…こんなところで何してるのよ」
「冒険者ギルドの方での魔物討伐で来てたんですけど、アメリアさんは何を?」
アメリアはここに珍しいものがあると聞いて来てみたという。
それで見つけたものを見せてくれる。
「ボロい本ですね」
「こんなの売れるのかしら、どう考えても不良債権にしかならなさそうな…」
「ふむ、ならこいつはアタシが買ってやる、言い値で構わないよ」
その言葉にアメリアは驚いている。
まさかの言い値での買い取りだ、ここはぼったくっておくかとも考える。
「本当に言い値でいいのね?ふっかけるかもしれないわよ?」
「ふっかけてもいいさ、金ならある」
その言葉にアメリアは完全敗北のようだ。
とはいえちゃっかり言い値を提示してくるのは商人としての逞しさか。
ソウはその言い値に現金で一括で支払い、その本を買い取る。
「にしても本当に言い値で…明らかにふっかけたって分かってるわよね」
「分かってるさ、分かっててそれを払ったんだ」
もはやアメリアはぐうの音も出ないようだ。
ソウは札束を渡し確かにその本を買い取る。
「はぁ、まあいいわ、それでその本何なのよ」
「こいつは魔道書さ、それも神聖術のね」
「神聖術?なんなのですそれは」
ソウの話だと神職や聖職者が使う魔法の総称らしい。
主にアンデッドを浄化したり、傷を癒やす治癒魔法の事だという。
「ふーん、そういえばあなたシスターなのよね」
「まあね、肉食シスターだが」
「がっつりですよね」
アメリアも本の中身を見せてもらうが、ちんぷんかんぷんのようだ。
「そんなの本当に読めるの?なんて書いてあるかも分からないわよ」
「こいつは聖職者や神職なら必修科目なんだが」
「そういう職業柄の必修科目ってありますわよね、私も騎士道でありましたもの」
とりあえずアメリアは思わぬ稼ぎを得たものの収穫はなしだという。
「あたしはそろそろ行くわ、珍しい品でも仕入れたいしね」
「ああ、それじゃ機会があったらまたどこかで会えるといいね」
そうしてアメリアは新たな商売を求めその場を去っていった。
ギラ達もこの場所には何かとある事もあり、思うところはある。
とりあえず森から引き上げミリストスに戻る事に。
「さて、次はどうする?」
「オルバインに行って少し腕試しも兼ねてみたいです」
「ならそれで決まりかな、時間もあるし今日中には行けるよ」
そんなわけでそのままオルバインに飛ぶ。
ふと思うがバドカの討伐依頼からなら珍しい魔法を覚えられるのでは。
リックはそう思いつつ、あとでそれを話す事にした。
そうしてそのまま空を飛び、オルバインに到着する。
「ああ、そうだ、商工会に少し用事があるんだ、付き合ってくれ」
「分かりました、では行きましょうか」
ソウに連れられ商工会にやってくる。
ドンとは知り合いになっている事もあり、すんなり通してもらえる。
「ドン、あんたとの約束通り商談を持ってきてやったよ」
「商談を?まさか例の東の島国か」
それは旅行で行ったときにソウがいくつかまとめていたものだ。
ドンが東の島国と商売がしたいと言ったのもあり、きちんと商談をまとめていた。
「それで商売を検討してもいいっていう、店のリストだ」
「ほう、結構な数を持ってきやがったな」
「ソウさんって仕事しますよね」
「いい加減に見えて凄く律儀な人なんですよね」
ドンはそのリストに目を通す。
そこには工芸品から食品など、様々な店がリストアップされていた。
「ふむ、これなら面白い事になりそうだ」
「ただ、行くにしても自前の飛行機なり船なりがないと厳しいけどね」
そこはドン、そんなの持っていると胸を張る。
「あと行くなら秋の終わりから冬の始まり辺りがいい、その時期が気候も落ち着くしね」
「了解だ、今の季節は海も荒れそうだしな」
そうしてドンはソウに感謝を述べる。
東の島国との商談がまとまれば面白い事になるからだ。
商売人としてその血が騒いでいるのは間違いなさそうである。
そうして商工会をあとにし、今日は時間的にも宿を取る事にする。
何かと仕事はきちんとこなすソウの手腕は見事なものだと感心する。
こんな大雑把な性格の反面、凄く几帳面な一面もあるのだろう。
信頼には応えるというのがソウの信念だ。
そうしてオルバインでの腕試しが始まるのである。