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善と悪の狭間で

リックを救うために薬草を採りに向かうギラと翠。

目的地のスカド山は西門を出て少し歩いたところにあった。

その薬草は山の中腹に自生するものらしい。


「そういえばどんな草なのか聞いてくるのを忘れていましたね」

「あ、そういえば」


それを思い出したものの今から引き返しても時間の無駄である。

とはいえ薬草の知識などないギラには困った問題だ。


「都合よく知ってる人が山にいたりしませんかね」

「そんな都合よくいったら苦労しませんって」


すると山から下りてくる一人の老人に出会う。

まさかの好都合なので、その老人にフェタミンの事を訊いてみる事に。


「すみません、少しいいですか」

「ん?ワシですか?」


その老人は比較的軽装だが装備自体はしっかりしていた。

つまり山登りには慣れているのだろうとギラは判断する。


「えっと、フェタミンっていう薬草がどんな草か分かりますか?」

「フェタミン…それならギザギザの葉をした甘い香りのする草ですよ」


知っていたようだ。

本当に都合よく助かってしまった事に、その運を感じる。

とりあえず老人にはお礼を言っておく事に。


「えっと、感謝します、それでは私達は行きますから」

「ああ、お待ちなさい、今この山には熊が出ます、気をつけなさい」


熊というのは魔物だろうか。

とりあえず心に留めておく事にする。


「助言感謝します、それでは私達はこれで」

「お爺ちゃんもお元気で」

「はい、お嬢さん方もお気をつけて」


そう言って老人と別れ山の中へと進んでいく。

だがギラは老人の隙のなさを感じていた。

その立ち振舞の中に隙が全くなかった事から、何かを隠していたと考える。

それは一旦保留にして山を進む。


「中腹辺り、この辺ですよね」

「そうですね、この山はそんな高くないですから」


山を登る事数十分。

中腹に到着したギラと翠はフェタミンを探す事に。

周囲を探し回るとそれは意外と簡単に見つかった。


「ああ、これですね、甘い香りのするギザギザの草です」

「結構生えてますね、では摘んでしまいましょう」


そうしてフェタミンをある程度摘む。

数も揃ったので熊に遭遇する前に下山だ。


「…どちら様ですか?」

「隠れてるのはバレてますよっ」


その言葉に茂みから覆面姿の男が出てくる。


「ククク、やはり貴様は只者ではないようだな」

「はぁ、その格好からして渓谷で襲ってきた下種野郎の仲間ですか」


その言葉に覆面は言葉を続ける。


「頭領はお前を悪人と認定した、よってその命に従い俺が貴様を断罪する」

「やれやれ、私が嫌いなものが何かも知らない最高にヴァカな人」

「ギラ様…」


ギラは正義というものを心底嫌っている。

正義を振りかざす人間にまともな人間などいない、そう知っているからだ。

そしてギラはその冷徹な感情を覆面にぶつける。


「とりあえず、ここで死んでくださいよ、あなたを見ていると心底気分が悪い」

「ほう、やはり貴様は悪の塊のようだな、ではその正義を執行させてもらう」


そうして覆面がギラに襲いかかる。

だがギラはその覆面の顔面を正面から鷲掴みにする。

そして心の底から憎悪の言葉を吐き出した。


「ぐっ!?なんだとっ!?」

「心底気分が悪いんですよ…!正義?そんなふざけたものは私が滅ぼします」


それは本物の憎悪だった。

覆面はその手を放す事も出来ずにやっとその恐ろしさに気づく。


「ひっ!?な、なんだ貴様…やめ…やめろ!やめてくれぇっ!!」

「死になさい、その愚かなる正義と共に…!」


そうしてギラの手から光が発せられる。

その光は覆面の頭部を消し飛ばし無残な死体となってその場に捨てられる。


「…気分が悪い、この覆面は大地の骨ですね、覚えましたよ」

「ギラ様…今でも…」


今度こそ下山しようとしたとき、人間とは異なる気配を感じ取る。


「はぁ、今度は熊みたいですね」

「はわわっ、熊さんですっ」


茂みから巨大な熊がその姿を見せる。

この土地にしては明らかに格が違うとギラは感じ取る。

とはいえ死ぬつもりなど毛頭ない、この熊を倒して帰る事に。


「さて、翠、やりますよ」

「あいあいさー!」

「グルルル…」


熊は明らかに苛立っていた。

だがそんな事は知らんとばかりにギラ達は攻撃態勢を取る。


「せーのっ、どーん!」

「ナイスですよ、それでは…せいっ!!」

「グアァァァァァァァァァァ!!!!」


翠の射撃で怯んだ熊にギラの斬撃が綺麗に決まる。

二人の能力ならそれだけで熊を一気に沈められるだけの強さはあった。

熊は絶叫しその場に倒れ込む。

ギラは念のため熊の心臓をその剣で突き刺し、確実に息の根を止める。


「さて、では下山しますか」

「ですねっ」


そうして二人は下山しカーミンスの宿で待つメーヌとティムの下へ向かう。


「戻りましたよ」

「お帰りなさい、ご無事でしたか」

「薬草は採ってきました、これを薬にするんですよね」

「ええ、この街の宿の隣が薬屋だからそこに行けば作ってもらえるわ」


ギラはメーヌにそれを任せる事に。

山で遭遇した大地の骨、それをギラは滅ぼす対象と定めていた。


「それじゃ私はもう行くわね、リックが目覚めたらありがとうって伝えておいて」

「ええ、ティムさんもお元気で」


そう言ってティムはギラ達の下を去っていった。

それと同時に渓谷でリックの言っていた生誕祭の話を思い出す。

近いうちという事はそう遠くない時期なのだろう。

せっかくなのでその生誕祭も見ていきたいと思っていた。


「戻りましたよ、薬が出来ました」

「ああ、思ったより早かったですね、ではそれをリックに」


思ったよりも早くメーヌは戻ってきた。

薬師に作ってもらったその薬をリックに飲ませる。


「う、あれ…?僕は…」

「目覚めましたか、それにしても即効性とは」

「何があったか覚えてますか?」


リックはそのぼやける記憶を辿る。


「渓谷で…そうだ、ティムさんは…」

「あなたにお礼を言って行ってしまいましたよ」


リックも回復したばかりで完全な状態ではない。

少しこの街に滞在してリックを回復させる事をメーヌが提案する。


「なら生誕祭を見ていきませんか、明日からって事みたいですよ」

「明日からなんですね、ならリックを回復させるついでに見ていきますか」

「お祭りですね!燃えるぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

「そういうお祭りじゃないと思いますけど…」


メーヌのテンションが一気に上がる。

まあなんにしても滞在ついでに生誕祭を見る事が決まった。


世界を滅ぼすついでにその世界を満喫してから。

そんなギラのお気楽思考はこの世界に何を見るのか。


魔王の憎悪はリックには知られない方がいい。

そうも思いつつその瞳は遠くを見つめる。

魔王の事を知るのは関係者だけでいい、そう思いつつ。


生誕祭は夜明けと共に幕が上がるのである…。

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