商人の在り方
今日も珍しい魔法を覚えようと燃えるリック。
ギラ達もそれに楽しみを覚えたのか、少しわくわくである。
今回は冒険者ギルドで依頼を受ける事にした。
早速目的地へ向かうギラ達である。
「それで来たんですけどね」
「ターゲットは砂漠のデザートフラワーですね」
「砂漠の花ですか、植物の魔物は厄介と相場が決まってますよね」
「相場ってなんの事ですの?」
まあそんなこんなで砂漠を歩き回りデザートフラワーを探す。
その魔物は茶色い色の花の魔物だ。
砂漠はサソリや蛇の魔物が多いので、見分けは簡単だろう。
そうして探していると明らかに場違いな魔物を見つける。
それがデザートフラワーである。
早速喧嘩をふっかけるギラ達。
「さて、陣形は崩さないようにね」
「分かっていますわ」
「リック、さっさと覚えてしまえ」
「はい!ソウルドレイン!」
開始早々にデザートフラワーから魔法を覚える。
その魔法はどうやら相手を眠りに落とす魔法のようだ。
「魅惑の花弁よ、汝に深き眠りを!」
「一応効くんですね、というか植物が寝るって」
「まあいいんじゃない?恋夜、焼き払って」
「紅の風よ、その炎を吹かせろ!」
恋夜の炎魔法でデザートフラワーは見事に消し炭である。
植物の魔物は炎に弱いというのは鉄板だ。
魔物から覚えられる魔法は攻撃だけではない。
補助から回復、さらには珍しい属性の魔法も覚えられる。
ただ一般的な魔法と違い、クセの強い魔法が多いのも事実だ。
それを扱えるかはリックの腕次第である。
とりあえずデザートフラワーは討伐したので、街に戻り報告を済ませる。
ランクの高い依頼をメインにこなすためなのか報酬も弾みウハウハである。
そして次の相手を考えているとき、思わぬ人物に出会う。
「おや、ヘンゼル様ではないか」
「お前、ブルクハルト!こんなところで何をしてるんだ!」
まさかのブルクハルトである。
商工会は追放されたが商売は今も続けているらしい。
そのやり方は感心しないものの、彼の信念には一貫性があるのは知っていた。
「ブルクハルト、あなたは今でも老人や貴族からお金を巻き上げてるのか」
「巻き上げるか、私は経済に貢献しているだけのつもりだけどね」
「相変わらずの歪んだ信念ですね、でもそれを貫いているのは立派ですよ」
ギラも彼の信念には見るものがあるようだ。
とはいえ彼の手口は老人や貴族を破産に追い込むような手口である。
「だがヘンゼル様は相変わらず魔法の道か、それを邁進するのなら私は応援するよ」
「なんか意外ですわね、もっと鬼畜な人だと思っていましたのに」
ペトラもストレートに言うものだ。
だがブルクハルトは挑戦するというのなら、それを応援したいとも言う。
挑戦すらしない人間は心底軽蔑するのが彼の考えなのだ。
「私はね、非効率というものが大嫌いだ、商人としてそれを見るとイライラする」
「あなたが稼いだお金もそんな効率よく巻き上げたお金なんですよね」
「こいつは言ってる事には一理あるんだが、基本的には詐欺師だろうさ」
以前資産を凍結したにも関わらず今はここまで立て直している辺り、その凄さが分かる。
ブルクハルトはどんなに手を打っても不死鳥のように復活するのだろう。
もはや不死鳥というよりはリビングデッドのような感じもする。
「私は通報されても構わないがね、少なくとも法に触れる手口は取っていないからね」
「極限までグレーに踏み込んでやってるのか、あんた怖いもの知らずだねぇ」
「法律を熟知してるでしょ、そうでなかったらこんなスレスレな真似は出来ないわよ」
モレーアの言う通りである。
ブルクハルトの手口は本当に法には触れていない。
法に抵触しない極限の位置での手口だ。
つまり通報したところで彼を逮捕するには証拠不十分になるだけである。
「当然だろう?商売というのは非合法スレスレでやるからこそ利益を生むんだ」
「そのリスクの大きな綱渡りを渡り切るあなたも大概ですよね」
「ですよねっ、頭が凄くいい人だって分かりますっ」
「まさに人生という荒波を泳ぐ生き方だな」
知識があれば法に触れない極限の位置を歩ける。
彼はそれを身を以て実践しているのだとリックは思う。
「少なくとも真面目に商売をしても利益は黒字でも半々ってところが現実だよ」
「つまり黒字を増やすには極限の位置を綱渡りする、か」
ブルクハルトの果敢さは利益を求め法に触れないスレスレの合法的手段だ。
つまり彼は限界を常に見ているのだろう。
合法のラインの極限が彼の黒字を増やしているのだ。
「でも僕はお前を許せない、人を路頭に迷わせるやり方は見逃せない」
「では訊くが、経済が停滞したらどうなると思う?」
「簡単だな、デフレになって物価が上がって税収が減って賃金も減る」
ブルクハルトはあくまでも経済を滑らかに回しているだけと主張する。
それでも非合法スレスレでリックからしたら親の敵だ。
それを見過ごせるほど人は出来ていない。
「私を憎みたければ憎めばいいさ、その憎しみは君の原動力になってくれる」
「意外と真理を突いてきますね、憎しみは原動力になるですか」
「感心はしないな、だがそれが間違っていると私には言えない」
「憎しみが生きる理由になるですか?」
人が生きる理由なんてなんでもいいのだ。
憎しみであろうと偽善であろうとそれは理由になる。
ブルクハルトは自分の生きる理由として経済に貢献するという事がある。
そのために手段を選ばないだけの鬼畜外道なだけである。
「さて、私はもう行くよ、次の商談があるからね」
「相変わらずの鉄仮面ですね」
去ろうとしたブルクハルトはその前に面白い話をしてくれた。
「ああ、そうだ、世界には魔道書や奥義書が多くある、強くなりたいなら探すといい」
そう言い残しブルクハルトは商談先へと行ってしまった。
だが彼の言い残した魔道書や奥義書が多くあるという言葉。
それは人知れずどこかに流れているのだろう。
お金で買い取るのもいいし、遺跡などで発掘してもいい。
彼の言うそれはギラ達の戦力アップへと繋がる助言だった。
幸い今はミリストスにいる。
王立図書館でそれについて少し調べる事に。
バドカの図書館ほどではないが、ここでもそれなりの情報は得られる。
リックの魔法習得のついでにその本を探してみる事にした。
ブルクハルトの思わぬ助言によりリック以外も強くなれる可能性を見出したのである。