耐え忍ぶ心
翌日も張り込みを継続するギラ達。
目の前で魔女を逃がした先日から未だに腹の虫が収まらない様子。
探偵になったつもりでもはや意地である。
今日も依頼班と張り込み班に分かれ仕事を遂行する。
「さて、絶対に捕まえてやりますからね」
「完全に意地を張ってますわね」
「ギラ様はこう見えて頑固な人ですからねぇ」
「曲げるのが嫌いなのです」
そんなこんなで完全に意地になっているギラ。
もう何を言っても諦める事はないだろう。
「とりあえずメーヌは別の場所を張り込みますね」
「何かあったら私達にも連絡してくれ」
そう言ってメーヌと恋夜は別の場所へ移動する。
ギラ達も広場で入念に張り込み、それを観察する。
「むぅ、やはり簡単にはいきませんよね」
「ギラさん、あなた本当に意地っ張りで頑固なのですわね」
「凄い執念なのです」
ペトラとエレネもその頑固さには呆れてしまう。
ギラは負けるのが何より嫌いなのだから無理もない。
それが意地を張らせてしまっているのだ。
「絶対に捕まえてやるんですから」
「眼光が鋭くなってますわね…」
「ビームでも出そうなのです」
思考は比較的柔軟なのだが、意地っ張りで頑固な性格は引く事を知らない。
負けず嫌いもここに極まれりである。
「にしても移動が速すぎませんかね、あの魔女なんであんな移動が速いんですか」
「確かに確認してから追いかけても姿を消していましたわよね」
「実は韋駄天なのです?」
適当に駄弁りつつ張り込みを続ける。
もはやギラも意地だけで張り込んでいるようなものだ。
自分の目の前から逃げるその魔女を絶対に捕まえてやると意地になる。
こうなってしまうとメーヌや翠でも説得は難しい。
「はぁ、それにしても日向は辛いですね、焼けちゃいますよ」
「そもそもギラさん肌が白すぎですわ、心配になる白さですわよ」
「色白も結構なもの」
ギラは肌が凄く白い、それは見てて心配になるぐらいだ。
とはいえ日光で体調を崩すほど軟な体でもない。
それはそれを見てきた仲間達は知っている。
「むむむ、念じてみますか」
「それで出たら苦労しませんわ」
「でも願いは願わなきゃ叶わないのです」
少し念じてみる。
まあ出てくるわけもなく。
そのまま張り込みを継続する。
一方のメーヌ達は住宅街に来ていた。
「ここなら遭遇する可能性はありますよね」
「病人か怪我人が暮らしていればね」
二人は住宅街を機能を活用しつつ隈なく探す。
微かな音も取り漏らさないように集音機能を研ぎ澄ませる。
「それにしてもメーヌは優秀なのだね、ご主人にそこまで尽くせるのは凄いものだ」
「メーヌはギラ様の従者ですから、少しは理解しているつもりですよ」
メーヌはギラが自分に忠実な存在として生み出した。
そのため命令に逆らえないように枷があるのだ。
ギラはその枷を外せるものの、本人はその事に恐怖しているのかもしれない。
忠実で裏切らない存在がギラは欲しかったからだ。
「でもメーヌはギラ様の理解者でありたい、あの人の孤独を埋められれば」
「忠犬なのか、それとも本物の献身か、まあ本人が幸せならそれでいいのだろうね」
恋夜もメーヌの正体には気づいている。
だが自分よりも遥かにスペックの高いメーヌには嫉妬しているようだ。
心のあるアンドロイド、恋夜はそれも昔から学習してきた。
そんな学習の結果人と変わらない人格が形成された。
学ぶ事で人の心をほぼ再現しきっている辺り、その性能の高さが分かる。
「なんにしても繋がりってそういうものですよね」
「そうだね、学習するというのは大切な事だ」
恋夜は学ぶ事で人に近づいてきた。
彼女自身学ぶ事には貪欲な性格である。
あらゆる知識を吸収し自身に反映させる、そんなオーバーテクノロジーである。
「それにしても人通りは少ないですね」
「そりゃ住宅街に人がそんな歩いていたら不審者に見られるしね」
住宅街に彷徨く不審者、メーヌ達もそう映るのだろうか。
怪しまれないようにしつつも張り込みを続ける。
一方の翠達は冒険者ギルドの依頼で以前の森に来ていた。
「キノコ狩りですねっ」
「薬用のキノコねぇ、精力剤とかそんなとこか?」
「あはは、夜は~みたいな感じですかね」
「それよりさっさと集めちゃいましょうか」
翠達はキノコをどんどん摘んでいく。
そのキノコは薬用のキノコだからなのか独特な匂いがする。
「毒キノコじゃないから食べても平気らしいが、ギンギンになっちまうのかね」
「ソウさんってそういう話を平気でするんですね」
「抵抗とかないですよねっ」
「あはは、少し羨ましいというか」
そうしてキノコを摘んでいると先日の女性に出会う。
「あら、あなた達は」
「あんた先日の、あんたもキノコ狩りかな?」
その女性のカゴにはソウ達のものとは別のキノコがたくさん入っていた。
それも薬用なのだろうか。
「さて、私はもう採り終えたし行くわね、バーイ」
女性はそのまま立ち去っていく。
だがソウはその女性を尾行しようと言い出す。
先日は見逃したが、その女性に違和感を感じていたからだ。
リック達も巻き込み、気づかれないように尾行を開始する。
「あいつ、どこまで行くんだ?」
「森の奥に入っていきますね、キノコは採り終えたって言ってましたけど」
「怪しい匂いがプンプンするぜぇーッ」
「追いかけますよ」
そのまま追いかける。
今のところ気づかれている様子はない。
だが次の瞬間だった。
「消えた!?そんな馬鹿な…どこへ消えたっていうんだ…」
「あれ?あの、ここなんですけど…」
「ここですかっ?」
「翠さんの手が…」
テュトスの示す場所に翠が手を伸ばすと、空間に手が飲み込まれた。
ソウはそれで確信した、この森には結界で隠された場所があると。
女性は見失ったものの、それに気づかなかったという落ち度。
この事は報告せねばならないと、キノコは足りているのでそのまま街へ引き上げる。
街でクエストの報告を済ませギラ達に合流する。
そして森で見たものを伝える。
「女性が消えて、その先に結界に隠された場所…臭いですね」
「ああ、恐らくあの女が魔女だ、森に結界を張って隠れてると見て間違いない」
「夜の森は危険です、明日その森に改めて行ってみましょう」
「そうですわね、では明日その森に行きますわよ」
そうして今日の張り込みが終わる。
森で見つけた秘密に迫るのは明日だ。
隠された先にあるものを求め森へと足を踏み入れる事となる。