成長の証
魔女の行方を追うギラ達。
ムゲメロの話を頼りにストロソーにやってきていた。
この街はそんなに大きくないので少しは情報も得られるだろう。
教団の力が強い街でなければある程度の話は出来るのだから。
「どうでした?」
「駄目だね、話は出来るんだが手がかりはなしだ」
「こっちもですね、ただそれっぽい人に会ったという話はあるんですが」
「同じくですわ、目撃情報らしきものだけはありますのよ」
やはりその情報は不確定なものが多い。
会ったという話や目撃情報自体はそれなりにあるのだ。
だが肝心の行き先がさっぱり掴めない。
ウルゲント国内という話は聞くが、短期間に広範囲を移動しているとしか思えないのだ。
「それでどうします?この街じゃ規模としても大きくないですし」
「興味深いんですけど、尻尾が見えなさすぎなんですよねぇ」
「ですが国内のどこかには必ずいるんですよね?」
「そのはずですよっ」
そんな悩みの表情をしているとどこかで聞いた声がする。
「おや、あなたは…仲間が増えているようですね」
「あのときのお爺さん、うわ、久しぶりですね」
それは以前魔道書の話をした例の老人だった。
久しい顔にリックは嬉しそうな顔をする。
「このご老人はどなたですの?」
「おや、美しいお嬢さんだ、私はジョン・ズーバーという者です」
「ん?ジョン・ズーバー…どこかで聞いた気がするが」
「なんでも魔道書を託せる人を探しているとか」
その話に恋夜が突然食いついてきた。
「まさかあの賢者ズーバーか!その本人だというのか!」
「えっと、何か存じてます?」
恋夜はとても高揚していた。
その老人は賢者とまで呼ばれた魔道の達人だという。
「おや、そこのお嬢さんはご存知のようですね」
「当たり前だ!あの有名な賢者ズーバーを知らないなど失礼だぞ!」
「そ、そんなに凄い人なんですか?」
「ほっほっ、そう興奮しなさるな、体に障りますよ」
とりあえず恋夜も落ち着く。
そして改めて話を聞く。
「それにしても成長しましたね、見違えたじゃないですか」
「そんな事は…でもそう言ってくれると嬉しいですね」
「あの賢者がリックを褒めているだと…明日世界が滅ぶとでも言うのか…」
「大袈裟だねぇ、恋夜は何を知っているのさ」
恋夜曰く賢者ズーバーはとても厳しい人だという。
他人を褒めるのは本当に自分がそれを認めた場合だけらしい。
「それは昔の話ですよ、今ではただの老人ですからね」
「歳を取って丸くなったという事か」
「このお爺ちゃんは優しそうなのですよ」
そんな中ズーバーはあの話を切り出す。
「それで、この魔道書をもらってくれる気にはなりましたか?」
「そんな恐れ多い…あなたが賢者と呼ばれていた人ならそれこそ僕なんか…」
「でもズーバーさんはリックさんに託そうと思うんですよね?」
ズーバーはリックに目をかけている。
他の人も見ているが、リックが一番純粋で綺麗な目をしているらしい。
「おや、でも私はもうあなたに託そうと決めているんですよ?」
「ええっ!?本気ですか!?」
「あのズーバーがリックに…これは本当に世界が滅ぶ前兆か…」
本当に恋夜が失礼極まりない事を言っている。
とはいえ彼も歳を取り自分の事は分かっているのだろう。
だからこそリックにそれを託すのだと決めたのかもしれない。
「ふむ、今はどうしても受け取ってもらえないと?」
「今はというか…せめてもっと相応しいと思えるぐらいにならないと…」
「別にもらっといてもいいと思いますけどねぇ」
ズーバーは諦めるつもりはないようにみえる。
それならと言わんばかりに別のものを取り出す。
「ならこれなら受け取っていただけますか?」
「なんです?これ」
それは何やら指輪のようなものだ。
それをリックに付けてみて欲しいという。
リックもよく分からないままそれを指に通してみる。
「えっ?ちょっ、なんですかこれ!?」
「ああ、やはり平気みたいですね、それであなたも魔法をより多く使えるかと」
「どういう意味です?あの指輪なんなんですか?」
ズーバーの話では、それは一定の経験を積んだ魔法使いの力を引き出すものらしい。
特殊な魔法が施してありそれを指に通すと潜在的な力を引き出してくれるという。
「どうです?少し体が軽くありませんか」
「確かに…自然と体が軽い…」
ズーバーはリックの成長を見抜いていたからこそ渡したのだろう。
これによりリックはさらなる魔法の高みへと進めるようになった。
「えっと、すみません、こんな貴重なものを…」
「別に構いませんよ、どうせ使える人なんて限られてますしね」
そんなこんなでズーバーとの話も進む。
「やはり魔道書は受け取ってもらえないと」
「ええ、今は…」
だがズーバーも食い下がるつもりはない。
「それならもっと知識を得なさい、経験を積みなさい、そのときこそ受け取らせます」
「僕が相応しいと判断したらですからね」
「なんかどっちも頑固ですわね、お堅いというか」
結局魔道書を今は受け取らない事に。
それはそうと本来の目的だ。
駄目元でズーバーに魔女の事を尋ねてみる。
「ふむ、魔女…噂は私も聞いていますね、ウルゲント国内の多くの場所で見たという」
「その魔女に会いたいんです、なんか方法とかないですか?」
それにズーバーが一つ提案をする。
「恐らく移動しても追いつけないでしょう、なら追うのではなく待ち伏せるべきかと」
「待ち伏せですか?」
要するに街などに張り込み向こうから来るのを待てばいいという。
それはまさに逆転の発想だった。
そんな簡単な事も見落としていた事になんか悲しくなる。
「その魔女は国内を常に移動している、どこでもいいので街に張り込みなさい」
「分かった、ならそうさせてもらう」
ズーバーは楽しそうに笑ってみせる。
そしてリックに改めてその思いを伝える。
「私はあなたに決めています、死ぬ前に必ず受け取っていただきますからね」
「はい、そのときになったら必ず」
そうしてズーバーは今はそれを諦め再び漫遊の旅に出ていった。
ギラ達はその意見を参考に街で待ち伏せをかける事にする。
とりあえずそのままドラジールへ引き返す事に。
冒険者ギルドでの依頼も同時に進行しつつ魔女を待ち伏せる。
待っていれば向こうから来るはずだ、それを信じてドラジールへ飛ぶ。
魔女は姿を見せるのか、その忍耐力が今ここに試される事となる。