憎しみと哀れみ
商工会からの連絡を待つギラ達。
神像を追っていたら思わぬ事に巻き込まれたものである。
しかも大地の骨の残党まで出てくる始末。
ギラも本当に溜息が止まらないものだ。
「連絡がありました、発信機によると場所はストロソーの街だそうです」
「なんか意外な名前が出たね、もっと大きな街かと思ってた」
「そこにブルクハルトが…」
「相手が勘付いてるかは分からん、警戒はしていくとしよう」
そうして宿を出てソルバードに乗り込みストロソーへ向かう。
そこはカーミンスとゾルゾーラの中継地点になる小規模な街。
隠れるには意外性という意味でも適任だったのかもしれない。
本人にやっとご対面なのか、リックも彼から全てを聞き出してやろうと思っていた。
そう時間もしないうちにストロソーの街に到着する。
連絡にあったのはストロソーの裏通りの民家だ。
ギラ達はその言われた民家へと押し入る。
「お前達…!?」
「本当にいましたよ、流石とでも言っておきますか」
そこにはブルクハルトと彼の仕事をサポートする仲間が数人いた。
彼の仕事は少数で回すものらしい。
「ブルクハルト、僕はあなたに訊きたい事が山ほどあるんです、吐いてもらいますよ」
「これはヘンゼル様、私から何を聞くというのですか」
「しらばっくれるな、神像の在り処とリックの家の事を話してもらう」
ブルクハルトはその言葉に少し間を置いて語り始める。
「ふむ、では一つ質問です、経済がどうやって回っているか、ご存じですか?」
「そんなの簡単な事だ、金を使えば経済は回る、当然だろう」
そしてその経済についてだ。
「では経済が停滞する理由も、その答えが出せるなら言うまでもありませんよね?」
「金を使わないから…それがお前と何が関係していると言うんだ?」
ブルクハルトは哀れみを表に出してその真意を語る。
「私はね、経済を回しているだけですよ、金を貯め込んで使わない老害どものね」
「まさかお前が貴族の家などに法外な金額を使わせたというのは…」
「老人の資産を経済に還元させるため…ですか」
ブルクハルトは哀れんでいた。
金を貯め込んで使おうとしない老人達を心底憎んでいた。
商人という仕事柄経済とは密接な関係にある。
金はあの世には持っていけない、相続するにしてもそのままさらに貯め込む事もある。
不安だと言うが、金を使わなければ国の方が危険になるのだと。
「だから私は老害どもから金を合法的に奪ったのさ、使わない金はゴミでしかない」
「だからって僕の家を…あなたのせいで父も母も首を吊ったんですよ!!」
「そうですね、お金を奪う事での間接的な殺人、あなたは人を殺したんです」
ブルクハルトはだからなんだと言わんばかりだ。
彼は金は使わなければゴミクズでしかないという信条を持っている。
資産家や貴族を狙ってそんな連中の求めるものを売りつける。
所有欲を満たすものをリサーチして、それを買わせ金を使わせていた。
「法外な金額とは言うが、品物一つ一つは合法的な値段だ、何か問題があるかな」
「どこまでも開き直って…それで路頭に迷って死んだ貴族や資産家の事はいいのか!!」
「同意ですわね、あなたは経済を回すという目的に固執して人を殺しているのです」
だったら金を使ってから死ね。
人はいつかは死ぬ、今使われずに眠っている資産がいくらあるのか。
ブルクハルトの言葉は、悪意すらも超越した老人達への断罪だろう。
金を使わない結果そのツケが誰に回るのか、それが彼の憎悪を生んだのだろう。
「この世界には眠っている資産が兆単位である、経済が死ねば国も死ぬんだ」
「はぁ、だからって目的は手段を正当化しませんよ?」
「あなたのした事は間接的な殺人、それなのに経済のためと開き直るんですか」
ブルクハルトの憎悪は経済や金の意味を知るからこそだ。
だがそれを許すつもりなどない。
当然ここで確保する事となる。
「私を逮捕するか、ならやってみたまえ」
「言われるまでもなく…覚悟しろ!!」
だが次の瞬間だった。
窓から凄い風が吹いてくる。
そこには騎竜が待機しておりブルクハルトはそれに乗り込む。
「ああ、そうそう、神像は地下にある、私には必要ないから持っていくといい」
「なんだって?」
「待て!逃げるのか!」
ブルクハルトと部下達は騎竜で逃げていった。
結局は取り逃がしてしまった、リックは心の底から悔しそうに顔を歪める。
するとそこに一枚の手紙が落ちてきた。
「手紙?」
「えっと、ヘンゼル様へ、私を捕まえたくば経済を学び、手段を行使するといい」
「資産は返すつもりはない、だがあなたはその志を世界の役に立てる事を願う…」
「あいつ…よくも抜け抜けとこんな事を…」
だがそれは彼なりのリックへの心配なのだろう。
私をいつか捕まえてみせろ、私は逃げも隠れもしないという宣言だ。
リックはその思いを確かなものとし、改めて決意を固める。
「僕はあいつをいつか必ず捕まえてみせますよ、でも憎むのはもうやめます」
「それでいいんですね?」
「なら何も言わないさ、リックは彼を逮捕する事を目的とすればそれは裏切らない」
「それより神像だ、地下にあるって言ってたね」
ギラ達は地下室へと向かう。
「こいつだ、確かにうちの国から持ち出された太陽神の神像、本物で間違いない」
「やっと目的達成ですか、散々走らされましたねぇ」
「それよりもう一つ目的がありますよ、フェリード族の母親に頼まれた件も」
「確か娘のクラエスさんでしたっけ、それの情報も得たいですし、バドカですね」
ギラ達は目的を一つ達したと同時に、次の目的も片付けてしまおうと思う。
その足でバドカへ飛びクラエス、有翼人の情報を調べてみた。
するとオルバインの病院に怪我をした有翼人が運び込まれたという記事を見つける。
それがクラエスかは不明だが、ギラ達はそこへ向かい話を聞いてみる事に。
神像の国への返還はソウが正式な手続きを踏んで返還するという。
そしてクラエスの一件を片付けたら、ソウが休みを与えてくれると言っていた。
そっちも楽しみにしつつギラ達はオルバインへと飛ぶ。
ブルクハルトには逃げられたが、リックは改めて彼を捕まえると決意した。
彼の商人としての信念、そして目的のために手段を選ばない狡猾さ。
それは見習わねばならないのかもしれない。
金はあの世には持っていけない、金は使って初めて意味を成すと知ったのだった。