社交場の光
神像を追いミッドハークへ向かうギラ達。
どこまで流れていくのかと思いつつ、その街へ到着する。
今回の相手はミッドハークの元締めだ。
それはミッドハークの商売を取り仕切るという事を意味していた。
「今後こそは、と言いたいが」
「どうせないんでしょうねぇ」
「あはは、もう諦めムード…」
「というより今までの流れでそうならないのが無理なんじゃ」
まあそれもそうだ。
今までどれだけ動き回ったと思うのか。
この短期間で動き過ぎである。
恐らく大元を辿ればもっと前から流れていると思われる。
「それでここがその元締めの家ですね」
「たのもー」
「それで出てくるのか」
「はい、どちら様で」
本当に出てきた。
とりあえず交渉開始である。
「えっと、以前ガルベスっていう人が流した神像を買いませんでした?」
「神像?ふーむ、買ったような買わなかったような」
「はぐらかされても困るんで、素直に答えてくれるかな」
元締めはどうにも食えない人間のようだ。
「ふむ、では条件を出します、それを飲んでくれたら行き先を教えましょう」
「行き先って、結局ないんじゃないですの」
元締めはある条件を飲んでくれたら、行き先を教えるという。
その条件を一応聞いてみる事に。
「今夜私の家で商談も兼ねたパーティーがあるので、あなた達も参加してください」
「は?そんな事で…と言いたいが、単純な話でもなさそうだな」
元締めはそのパーティーに参加させる事で何か考えているっぽい。
とりあえずその条件を飲んでおく事に。
「かしこまりました、ではこのラズナー、最高の服を用意させていただきます」
「それで今夜って何時ですか?」
時間は夜の八時頃だという。
それの二時間前に着付けをするので、来て欲しいとの事だ。
そうしてその条件を飲み夜を待つ。
適当に時間を潰し二時間前の六時に再度ラズナーの屋敷を訪れる。
「お待ちしていました、それでは中へどうぞ」
中へ入ると衣装室へ通される。
ここで好きな服を選べという事らしい。
こういうセンスは皆無なギラだが、まあ適当に選んでみる。
「リックはタキシードか、元の素材がいいから映えるね」
「それにしてもペトラは貴族だけあって最初から似合っているな」
「こういうのはあまり好きではありませんのに」
文句を言いつつもドレスを着ているペトラ。
一方のギラはそのぺたんこな胸に何やら不服顔だ。
「ギラはなんというのか、体型が…」
「うるさいですね、そもそもみなさんなんでそんな胸が大きいんですか」
「ギラさんって元々小さいとは思っていましたが、服を脱ぐとその体格が…」
ギラはぶっちゃけ貧相な体格である。
というか周囲の女性陣が軒並み大きいのである。
「安心してくださいっ、私もそんな大きくないですっ」
「エレネは姿を変えられるけど、基本ぺたんこ」
「慰めになってないですが」
「あはは、その体格に合いそうな服を探しますか」
「というか、このメンツで一番小さいのか」
その後も小さな魔王であるギラの服を選ぶ。
時間はまだあるので。
「というか、胸が育つとかどこの都市伝説ですか」
「アタシや恋夜を否定にかかってるな」
「というか私は生まれたときからこの大きさなんだが」
「胸が育つのを都市伝説って、ギラさん体型にコンプレックスでもあるんですか」
まあそんなこんなでギラの服も決まる。
そうして商談も兼ねた社交場に出ていくのだ。
「お待ちしていましたよ」
「ああ、それでアタシ達は何をすればいい」
ギラ達をここに参加させた理由。
それは恐らく簡単な事だろう。
「簡単です、警護ですよ、私を守りつつ怪しい者を見つけたら報告を」
「やっぱりそういう事ですか、まあ報酬は出るんですよね」
ラズナー曰く、報酬は結果次第という。
それでも最低限の報酬と神像の行き先は教えてくれるという。
「では私は商談に行ってきます、料理は好きに食べて構いませんよ」
「やれやれ、まあ適当に食べて終わるのを待ちますかね」
「美味しい料理なのです」
そうしてギラ達は料理にがっつく。
メーヌはその料理の成分分析とかしちゃったりしてる。
「ふむ、作れなくはなさそうですね」
「メーヌは食べた料理の成分分析が出来るのか、メイドロボは流石だな」
「そりゃ私の自慢の従者ですから」
適当に駄弁りつつ時間を潰す。
ラズナーは次々と商談を成立させているようだ。
そこはやり手の商人だというのを窺わせる。
「それにしても見られているな」
「ですわね、こんな美女揃いですし」
すると一人の男性が近づいてきた。
「あの、そこの人はヘンゼルさん…では?」
「は?ヘンゼル?誰ですそれ、この人はリックですよ」
「人違いじゃないですか?」
その男性はリックをヘンゼルと呼ぶ。
人違い…にしてはどこか引っかかる。
「覚えてませんか?昔あなたの家に出入りしていた、ブルクハルトですよ」
「知りません、人違いなんじゃないですか?僕はリック・ショートです」
「と、本人は言ってるんだが、人違いか記憶違いかどっちかな」
そのブルクハルトという男性はリックを知っているとみて間違いない。
ギラはそう確信し、少し警戒する。
「うーん、でも確かにその顔はヘンゼル様ですよ、他人の空似ではなくね」
「そのヘンゼル様っていうのはなんなのさ、そもそもあんたは商人だろう」
ブルクハルト曰く昔リックの家の御用聞きをしていたという。
だがリックはそれを本気で拒否しているようにも見えた。
「僕は少し席を外します」
「仕方ないですわね、リックさんには私がついていますわ」
「一応話を聞こうか、いいかい?」
「私は構いませんよ」
リックはその顔色が明らかにおかしかった。
あのブルクハルトという男に拒否感を示すような。
「リックさん、あなたあの男を存じていますわよね」
「知りません、あんな人知らない」
リックは頑なにそれを否定する。
ペトラはそれを見て、確実に知っていると確信した。
「言いたくないならいいですわよ、でも抱え込んではいけませんわ、いいですわね?」
「はい…それは分かってます」
ソウ達もブルクハルトからリックの事を聞く。
彼は昔リックの家に御用聞きをしていた商人。
そしてリックの本名はヘンゼル・フォン・アンハルトというらしい。
その話がどこまで信用出来るのか。
恋夜が相手の状態を分析しつつ話をして、その言葉に嘘がないと感じ取る。
とりあえずはブルクハルトは話を聞かせてくれた後商談に行ってしまった。
だがソウは彼にどこか人知れぬ何かを感じ取っていた。
そうしてラズナーの商談は終わり、神像の行先を教えてくれた。
神像はウルゲントのドラジールのジョナサンという家に譲渡したらしい。
報酬もきちんと払ってくれたので、意外といい人だと思った。
夜明けを待ちドラジールへ向かうギラ達。
だがブルクハルトとの出会いは、リックとその旅路に暗雲を起こす事となる。