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神を否定すると言うのなら

鍛冶屋に頼んだ武器が完成するまではニュクス教団を追うギラ達。

とりあえず再度ウルゲントに戻り今の状態を確認する。

今来ているのはカーミンス、リリベル教団の総本山だ。

久しぶりのカーミンスではあるが、様子は特に変わったようには見えない。


「ふむ、やはり宗教国だけあるのか、影響は少ないようで」

「そうだね、とりあえずどうする?」

「あの、あれは何なのです?」


エレネが屋台を指差す。


「あれは屋台ですよ、せっかくですし食べます?」

「食べる」


そういうわけでメーヌが屋台でチュロスを買ってくる。


「どうぞ、熱いのでお気をつけて」

「はふ、美味しい」

「それにしてもチュロスですか、私はシナモンが好きです」

「僕はシナモンは苦手なんですよね、あの独特の臭いが駄目というか」


そうしてエレネが美味しそうに食べている横で今後を考える。


「ふむ、この国にニュクス教団が入り込むとしたら…」

「流石にそこまで馬鹿とは思えんが、国王の側近に入り込んでたりはないね」

「そうなってたら危険極まりないじゃないですか…」


まあ流石にそんな事はないと思いつつ少し街を見て回る事にした。

各自適当に見て回る事で一致し、一旦解散して街へと出ていく。


「うーん」

「やはりこの国は布教活動も難しいのだろうね」


リックと恋夜はこの国の事情を改めて感じる。

宗教国という国柄、他の宗教は入りにくい。

国民の八割がリリベル教団の信徒なのだから、無理もない話だ。


「とはいえ勧誘はしてるんですね」

「そのようだ、二割の人間をどうやって引き込むかだろうな」


そんなこんなで二人は特に気にする事もなく街を見て回る。


一方でメーヌはエレネとお勉強会だ。


「本に興味があるんですか?」

「ある、本は学習には最適」


エレネは本が好きなようだ。

リックと恋夜とは気が合いそうだとメーヌは思っていた。


「では買っちゃいますか、好きなの言ってください」

「それならこれとこれ」


手にしたのは哲学書とエロ本だった。

対極にあるようなチョイスにメーヌも少し苦笑いである。


「まあ別にいいですけどね、ギラ様の従者として慣れてますし」

「お買い上げ、喜んで」


そうしてメーヌとエレネはお勉強を続ける。


一方の翠とソウは教会に来ていた。


「特に何も変化はないですかね」

「そうだね、まあ宗教国という立場上、他教には排他的な国でもあるし」


ソウはシスターという立場でも神に対して独自の価値観を持っている。

それはその眼帯の下にあるものが関係しているのか。


「ソウさんは神様を信じてますか?」

「難しい事を訊くね、でも神はいると思うよ、とはいえそれに頼るつもりはないさ」


それがソウなりの神への考えなのだろう。

神の存在は否定しないが、それに頼るのはしたくないという。


「今のアタシがあるのは神様のおかげだろうね、でも頼り過ぎはよくないさ」

「神様も便利屋じゃない、ですね」


神を信仰するのは個人の自由だ。

だが神に願えば叶ってしまうような世界はソウもお断りなのだろう。


「さて、他に行くよ」

「合点ですっ」


一方のギラは暇そうに街を散策していた。

たまには一人もいいかと思いつつ、街をぶらつく。

するとベンチに座る杖を持った少女を見つける。


「横、いいですか?」

「構いませんよ」


そう言ってギラは少女の横に腰を下ろす。


「あなた、目が見えないんですか」

「ええ、幼いときに病で、もう光は戻らないと」


盲目の少女。

彼女はこの街で神に祈りを捧げて暮らしているという。


「あなたは神様を信じてるんですね」

「はい、もしも神が願いを聞いてくれたら、そんな希望にすがっているだけですが」


神が願いを聞いてくれたら。

ギラからしたら、馬鹿げた話である。

だが神に祈るしかない人間も世の中にはいるのだ。


「仮にですよ、あなたの目を神様が治してくれたら、あなたはどうしますか?」

「そうですね、世界を見てみたい、自分の目で見る世界を」


彼女らしい答えだ。

だがそれが叶う事は決してないという事もギラは分かっていた。

希望を与えるというのは、その反動で絶望も大きいと知っているのだ。


「もし、神様を否定する人がいたら、あなたはその人をどう思いますか?」

「激しく嫌悪すると思います、神様に頼って悪いのですか?」


その口調は環境が与えたものだろう。

激しく憎悪を表すかのように彼女は神を否定する人を恨むと言い切る。


「そうですか、あなたはその憎悪を大切にしてください、それは力になります」

「…本当は憎しみなんてよくないって分かってます、でも私にはそれしかない」


彼女なりにその目の問題から思うところはあるのだとギラは感じる。

だがギラに言えるのは、そんな憎しみでも生きる糧になるのだという事だった。


「憎しみ、それは意地でも生きてやるという思いに繋がりますから」

「意地でも生きてやる…あなたは変わった人、まるで憎しみを知っているような」


彼女は小さく微笑んだ。


「私はそろそろ行きます、付き合ってくれてありがとう、顔も分からない人」


そう言って少女はその場をあとにする。

それを見送ったあと、ギラは不幸や憎しみについて改めて思っていた。

自分の経験した事、その結果選んだ事、それは間違っていないと言い聞かせる。


その直後広場の方が騒がしくなった。

ギラはそっちへ向かう。


そこにはさっきの少女が分かりやすいチンピラに絡まれていた。


「返して、返してください!」

「なら少し付き合ってよ、少しでいいからさ」


その光景にギラは少しイラッとした。

そして少女をかばうように、チンピラの前に出る。


「おい、そこの小さな落花生のポークビッツ野郎、あなた恥ずかしくないんですか?」

「ななななっ、なんだとこのクソガキ!!」


その汚らしい言葉にチンピラも流石に激おこである。


「それとも、自分より弱い相手しかナンパ出来ない最低なゴミクズですか?」

「さっきの…」

「てめぇ…流石にその発言には俺もキレるぞ?」


そしてギラは高々に言う。


「この人は盲目の少女に、淫らな行為をしようとした粗チン野郎です!粗チンです!」

「てめ…本気でぶん殴るぞ!」


チンピラはギラに掴みかかろうとするが、逆にギラがアイアンクローを決める。


「何か言いましたか?この粗チンのチンカス野郎」

「いだだだだ!!は、離して!俺が悪かった!悪かったから!」


ギラは楽しそうに死なないギリギリの握力で握ったあとに解放する。


「ちくしょー!覚えてろよ!」

「大丈夫ですか?」

「は、はい…なんとか…」


ギラは少女に杖を渡す。

そして一つ助言をする。


「あなたは神を大切にしなさい、信じていればきっと見ている、そう思いますから」

「は、はい…えっと、それじゃ私は行きます、ありがとうございました」


そうして少女は去っていった。

そこに他の仲間達が戻ってくる。


とりあえずこの街は平気そうだとお互いに報告をする。

そして相談の結果次の目的地は王都ゾルゾーラに決まった。

そのまま街を出てソルバードでゾルゾーラへと飛び立つ。


宗教国という環境は様々なものを育むとギラは思っていた。


さっきのような下品な事も平気で言えるのがギラらしさでもあるのだから。

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