懐かしのアイツ
翌日はソルバードを飛ばしてウルゲントに戻ってきたギラ達。
アルセイムとオルバインの様子は把握したので、あとこの国である。
とりあえず最初の街の近くにソルバードを下ろす。
ロックをかけた後久しぶりの街に足を踏み入れる。
「ここも変わってませんね」
「そうですね、僕とギラさん達と出会った場所です」
「ほう、このドラジールの街が運命の地だったか」
「熱いねぇ、若いの」
リックを茶化す恋夜とソウ。
リックもそれに満更でもなさそうである。
そうして少し街を散策する事に。
「ふむ、変わった様子は特にないですね」
「そうですね、ここは端の方ですし、教団の手も及んでいないのかも」
「まあ信者を集めるなら都会の方が簡単に騙せそうではあるしね」
「あんたもズバッと言うねぇ」
とはいえ恋夜の言う事も嘘ではない。
宗教において信者を増やすなら、人の多い場所に越した事はない。
ニュクス教団もそんな都会、王都や首都などで積極的に動くのだろう。
もう少し様子を見てみる事にする。
「おや、一応勧誘はしてるんですね」
「でもウルゲントは宗教国です、簡単に鞍替えするような国民でもないですよ」
「そうだね、少なくともこの国の国民の信心はそんな簡単なものじゃない」
「だとしたら、より有利な条件でも提示しないと難しいですかね」
それはある。
国民の八割が女神リリベルを信仰する国だ。
そんな簡単にニュクス教団に鞍替えするほど国民は甘くない。
「まあ、よほどの馬鹿でもないならこの国は安全ですかね」
「その馬鹿が厄介なんですけどね、現実では」
「だね、組織や戦いにおいて最も危険なのが行動力のある無能だ」
「つまりその少数の馬鹿が危険だと?」
「馬鹿につける薬は無いですか?」
とはいえそれも正論である。
その少数の馬鹿がニュクス教団に参加する事は、この国としても何かとある。
ニュクス教団の勧誘の広告と同時に、邪教の勧誘に気をつけるようにと貼られている。
宗教国としてのプライドや威信もあるのだと感じさせる。
「まあここは流石にそんな酷くはないみたいですね」
「あっ!てめぇは!!」
どこかで聞いた声がする。
そこにいたのはこの世界に来たときにボコボコにしたあの戦士だった。
「久しぶりだな、少しはランクも上がったか?」
「一応シルバーランク上がりましたよ、えっと、なにさんでしたっけ?」
すっとぼけるギラ。
そもそも興味のないものは覚えない主義なので。
「ダンだ!ダン・ゴンザレスだ!」
「ああ、ダンさんでしたね、すっかり忘れていましたよ」
「ギラ様も容赦ないですねぇ」
「変なものに好かれるね、イロモノ好きかな」
それでもダンは冷静に言う。
「別に決闘しようとは言わねぇさ、あんたの実力は分かってる」
「おや、最初の決闘で弁えていましたか」
「でもあんた、結構な強さだろ?アタシの目は誤魔化せないよ」
ソウはダンの実力を見抜いていた。
仮にもゴールドランクの戦士だ、相応の実力はあるのだろう。
あくまでもギラに喧嘩を売った事が愚かだっただけである。
「にしても仲間を増やしたんだな、少しは立派になったじゃねぇか」
「そうですね、まああなたのような人が寄ってくる変人ホイホイのようですが」
「ははっ、変人ホイホイに釣られたのはあるかもしれないね」
「だね、アタシ達もそんな変人なんだろうさ」
その言葉にダンも豪快に笑う。
そして改めてギラにライバル宣言をするのである。
「実力差があろうと、お前は俺の認めたライバルだ、いいな!」
「格下の相手にライバル宣言されても困るんですけどね」
「相変わらず容赦ないですね」
ギラが辛辣なのはいつもの事である。
とはいえダンもそんなギラが気に入ったようである。
「でも負けても懲りない相手は嫌いじゃないですよ」
「そうかい、なら少しいい情報をやるよ」
「いい情報?」
ダンは何やら情報を持っているらしい。
一応それを聞いてみる事に。
「実は街の外れにある鉱山で新しい道が見つかったらしい、冒険者はそこに夢中だぜ」
「新しい道ですか?」
「そういえば確かに冒険者の姿が多いと思ってたら、そういう事ですか」
その新しい道の先には何か未知のものがあるのか。
そんな奥を目指し歴戦の冒険者達が集っているらしい。
とはいえ駆け出しに行けるような場所でもないらしい。
「俺もそこに行ってみるつもりでよ、あんた達も行ってみるか?」
「ふむ、それも面白そうではありますね」
「そうですね、僕達も行ってみますよ」
そんなわけで次の目的地は、その鉱山の新しい道に決まる。
この国ならニュクス教団の脅威も特に気にしなくてもよさそうだからだ。
「鉱山自体は誰でも入れるぜ、その道のとこにキャンプも出来てるからよ」
「分かりました、では後ほど行ってみますね」
それにダンも乗り気だった。
そうしてダンは一足先に去っていく。
「さて、鉱山に向かう前にもう少し見ておきますか」
「ですね、時間に余裕はありますし」
街の散策に戻るギラ達。
街を見て回ると冒険者達は鉱山の話で持ち切りだった。
「冒険者の人達は好きですね、こういうの」
「でもそういうのっていいですよね、冒険してるって感じがします」
「ですねっ、わくわくします」
冒険者達もそうやって生きている。
この世界はそうして成り立っているのだ。
「そういえば店の品揃えよくなってません?」
「確かに、新商品が入荷したんですかね」
「僕も新しい杖が欲しいですし、何か見ていいですか?」
「構わないよ、何かいい武器があれば私も買うとしよう」
そうして武器屋を覗くギラ達。
ギラは先日購入した刀があるので、買う必要はない。
リックと恋夜は新たに入荷した杖と暗器を購入する。
武器も揃えたところで戦力も上がった。
「さて、では鉱山に行ってみますか」
「そうですね、燃えますねぇ」
「メーヌさんは気温上げかねないので程々で頼みますね」
「ははっ、いいねそれは」
そのまま鉱山に向かうギラ達。
鉱山の新しい道は下層にあるらしい。
下層へはショートカットがあり、そこから一気に下へ向かう。
下に到着するとそこには冒険者達がキャンプを張っていた。
ダンもそこにいてやる気満々だ。
ギラ達も軽く体をほぐし気合を入れる。
そうして鉱山の新たな道の先に進む長い一日が始まる。
ここからはとても時間が遅く感じる事となる。
その道の先には何が待っているのだろうか。