研究対象を確保せよ
昨日の見学に満足してから一夜明けた。
ギラ達は今日はオルバインの冒険者ギルドで依頼を受ける事に。
冒険者ギルドでの依頼も国によって異なる。
そんなわけで今回も今回とてランクよりも高い依頼を受けたのだった。
「研究対象を確保するようにだそうですけど」
「ふむ、これを見る限り希少な魔物みたいだね、白いハウルウルフか」
「ハウルウルフ自体はそんな希少でもない、ただ白い奴となると話は別だ」
「そういえば魔物って稀に異なる色の個体が生まれるって聞きましたね」
今回のターゲットはそれ自体は珍しくない。
だが異なる色の相手となると話は別だ。
それは希少種であり、簡単には見つからない相手である。
「なんにしても、目撃された場所に行ってみません?」
「ですねっ、行動あるのみですっ」
そんなわけで目撃されたと言われる場所へ向かうギラ達。
ソルバードを飛ばし、西にある廃鉱の近くに移動する。
その場所は昔使われていた鉱山らしいが、今は使われていないそうだ。
要するに鉱物などが採り尽くされたという事であろう。
世界にはそんな採り尽くされて廃鉱になった鉱山は結構あるとか。
それも人の業なのだと、改めて思う。
そうしてその廃鉱近辺にソルバードを停めてロックをかける。
白いハウルウルフの確保は簡単にはいかないであろうため、長期戦を覚悟する。
とはいえこの依頼は無期限なので、難易度が高い以外は苦になる要素はない。
「本来の黒いハウルウルフばかりですね」
「流石に白い個体はそれだけ希少だよ、それも今回の依頼は生け捕りだ」
「殺さずに捕まえる、そんな上手くいきますかね」
「それでもやるしかないさ、それが冒険者ってもんだろ」
そうして白いハウルウルフを探し始めて一時間が経過する。
やはり希少だという事もあり、簡単には姿を見せない。
ハウルウルフ以外の魔物も同時に襲いくるため、それの処理も楽ではない。
「はぁ、だる」
「とはいえ受けた以上は責任を持たないと」
「ですよねっ、こういうのは根気しかありませんから」
「結局はそうなるんですか」
「私としてはそういう根性論や精神論は嫌いなんだがね」
そんなこんなで駄弁りつつ探し続ける。
オルバインは自然はあるものの、海の向こうに比べると少ない。
つまり隠れられる場所は少ないのだ。
そんな中遠くから狼の遠吠えが聞こえた。
群れのボスか?ギラ達はその声のした方へと向かう。
声のした方に行くと、ニュクス教団が白いハウルウルフを追い詰めていた。
「さて、追い詰めましたよ、あなたは研究材料になってもらわねば」
どうやら奴らも研究材料としてそれを狙っているらしい。
とはいえ同じ研究対象にするなら、彼らの手に渡すのは気が引ける。
ギラ達はニュクス教団を追い払い、そいつを確保する事にした。
「はい、そこまでです、そのハウルウルフは私達がいただきますよ」
「誰だ!?」
信者の数はざっと10人、これなら負ける理由はない。
「あなたは…なるほど、ならば先にあなたを始末するとしますかねぇ!!」
「喧嘩は買うまで、やりますか」
そんなギラにはもう慣れたものである。
全員が武器を取り臨戦態勢を取る。
「かかりなさい!!」
そうして信者達が襲いかかる。
とはいえ10人程度なら相手にもならない。
今までの戦いでリックも経験は積んでいる。
ギラ達だけでなく、リックも今では立派な戦力だ。
そんなこんなで華麗に敵を捌いていく。
もはや相手の数の暴力など簡単に捌けるようになった。
「こんなものですか?弱いですねぇ」
「ぐぬぬ…強いとは聞いていましたが…」
リーダー格はそれでも抵抗を試みる。
その後ろでは白いハウルウルフが警戒しつつ睨んでいた。
「ならば…せめてあいつもろとも!」
そう言うとリーダー格は白いハウルウルフの方へ走る。
どうやら巻き込んで自爆でもするつもりなのだろう。
そうはさせないとばかりにソウが暗器を飛ばす。
それは空気を切り裂くように一直線に飛んでいき、リーダー格の背中に突き刺さる。
それでも抵抗するかのようにハウルウルフの方へ向かう。
だが暗器に仕込まれた毒が徐々に体に回り、動きが鈍くなる。
そうして息も絶え絶えにその場でもがき始めた。
「さて、暗器の毒は致死性じゃない、徐々にその体に回るよ?」
「ぐっ、甘く見るな…」
必死に抵抗を試みるも毒が体に回ったのか、その場に崩れ落ちる。
これが暗器の恐ろしさである。
殺傷能力は低いが、その毒により相手を確実に弱らせる。
それも近接としても飛び道具としても使えるため、確実に相手を狙える。
暗殺者などの職業以外にも幅広く愛用される、売れ筋武器なのだ。
「それで?死ぬ覚悟は出来ましたか?」
「やめ…ろ…」
ギラはリーダー格の首を掴み岩壁に叩きつける。
そこに光の魔法で心臓を射抜き勝負ありである。
「さて、凄く警戒されてますけど?」
「まあ、あんな場面見せたら警戒されますよねぇ」
「私は動物に嫌われるようでね、奴を確保するのは向かないぞ?」
そんなこんなで揉めていると、ハウルウルフはリックに近づいてくる。
そしてそのままリックに懐いてしまった。
その光景に一同は驚きを隠せない。
「気は引けますけど、僕に懐いてるなら連れて帰れそうですね」
「まあ気は引けますよね、とはいえ依頼主も殺したりはしないと思いますよ」
そうして依頼を達成するギラ達。
その白いハウルウルフは依頼主の研究者に引き渡された。
依頼の報酬としてもらったのは金銭と、レストランの無料券だった。
せっかくなのでその無料券を使い食事を堪能する事に。
手軽な食事が発達しているオルバインでも、レストランはある。
とはいえマナーにうるさいような高級レストランではなく、ファミレスの類だ。
レストランにまで手軽さが重視される辺りはオルバインのお国柄を示している。
「はぁ、満足でしたね」
「ギラ様相変わらず食べますねぇ」
「前から思ってたんですけど、ギラさん大食いなんですか?」
元々種類をたくさん食べるタイプなのがギラである。
その影響なのか気づいたら大食いになっていたと本人は言う。
「まあいいじゃないか、女の子が肉にがっつくのは見てていいもんだよ」
「ソウは肉しか食べてなかったけどね」
「肉食ですっ、野生の波動を感じますっ」
そんなわけで食事を満喫し楽しい食事になった。
とはいえニュクス教団にマークされている以上、油断は出来ない。
今後もしばらくはオルバインでの活動になるが警戒はしておく事に。
ギラのスタイルは売られた喧嘩は買うし大安売りする事である。