科学者の作る野菜
オルバインでの初夜から一夜明けた。
本日はソウの提案でこの国の植物プラントの見学に行く事に。
この国の工場などは基本的に見学が自由に出来るようになっている。
学校などでも工場見学はよく授業に組み込まれるらしい。
「それでその植物プラントってどこにあるんですか?」
「この先の大きな白い建物がそれだよ」
そうして道を歩く事数十分。
そこには言われた通りの大きな白い建物があった。
どうやらここが目的地の植物プラントらしい。
「さて、それじゃ見学の許可もらってくる」
そう言ってソウは申請カウンターで見学の許可をもらってきた。
そしてギラ達は植物プラントの中へと足を踏み入れる。
「これって全部野菜ですか?」
「そうだよ、この国独自の技術でね、室内で野菜栽培をしてるんだ」
「へぇ~、大規模な施設を作ればこんな事も…」
その光景にはリックも驚いていた。
室内の、それも大きな部屋での野菜の栽培。
それは技術大国でもあるオルバインの凄さが分かる光景だった。
「それはそうと試食も出来るらしいよ、食べてみるかな?」
「ならいただいてみます、メーヌとしては味が気になりますし」
「野菜はそんな好きじゃないんですけどね、まあ食べるのは構いませんが」
そう言ってこの建物の食堂へ移動する。
そこではこの建物で作られた野菜のメニューが格安で食べられるという。
「ふむ、このトマト凄く美味しいね、程よい酸味と甘さが絶妙だ」
「こっちのキャベツも美味しいです、ザワークラウトがこんなに美味しいなんて」
「確かに下手なものよりははるかに美味しいですね」
恋夜とリックもその味には驚いていた。
とはいえウルゲントのものに比べたら劣るというのが率直な感想か。
この野菜はまさに科学者が作る野菜だからだ。
農家とは別のベクトルで美味しさを追求した野菜。
そんな道は違えども追求するものは同じという感じがした。
「それにしてもオルバインって本当に技術が発展してますね」
「なんかこの国だけ別の世界みたいですよ、異世界って感じがします」
ギラもその技術には感心するしかなかった。
他の二国が小さく見えるレベルの技術大国である。
なぜこの国だけこんなに技術が発展したのか。
「元々この国は島国という事もあって他国よりも劣る部分が多かったのさ」
「それでその劣る部分を補おうと国を挙げて技術に全振りしているという事か」
恋夜の意見は大体正しい。
他国と対等になるべく技術を徹底的に発展させる事に心血を注いだ国だからだ。
その結果今の技術大国になり他の二国にも負けないどころか追い越すレベルになった。
「私としてもこの国の成り立ちには興味があるね、実に興味深い」
「僕も同じですよ、この国の歴史は追いつき追い越しの歴史なんですね」
「他の二国に負けないための国策ですね、あっぱれです」
そうしてプラントの見学を終えたギラ達。
次はどうしようかと考える。
「そうだね、なら地下見学でも行こうか」
「地下見学?」
要するに建物の地下を見学出来るという。
この国は地下も有効に使う程度にはその土地を最大限活用するらしい。
そしてその地下見学をやっている施設へ向かう。
そこでも許可をもらい、その施設の地下へと移動する。
そこは広大に広がる圧倒されるような空間だった。
「この国の地下ってこんなになってたんですか…」
「地下に貯水施設を作ったりしている辺り、使い方の上手さが分かるね」
「わしほー」
「響きますねぇ」
そうして広大な地下見学も満足に終わる。
この国の技術の凄さを改めて感じた一行。
そんな帰り道、街道でお約束の気配を感じ取る。
「さて、この開けた場所でそうきますか」
そうして現れたのはニュクス教団だった。
この国にも本部から伝わっているのだろう。
ギラ達が危険人物であるという事が。
「ここなら通り魔で片付きますからねぇ、覚悟はいいですか?」
「はぁ、なんでこんな変人ホイホイになったんですかね」
信者の数はざっと見て20人。
この程度なら負ける理由はない。
「あなた達はなぜ邪教なんて…」
「我々は女神ニュクスを崇めているに過ぎません、神の名の下にやっているだけです」
「やれやれ、都合のいい解釈だ、神の名の下にと言えば許されるとでも?」
ソウの言う事も正論である。
神の名の下にという名目で虐殺を繰り返すテロリストでしかない。
表と裏の顔があるという事である。
「あなたはシスター?どこの信者ですか」
「アタシかい?そいつは勝ったら教えてやる」
ソウは暗器を取り出す。
どうやら完全にやる気のようだ。
ギラもそれに乗っかり臨戦態勢を取る。
メーヌ達も武器を取り戦いの姿勢に入る。
「やってしまいなさい!」
そうして信者達が一斉に襲いかかる。
だがギラ達はそれを軽快に捌いていく。
多くの人数を相手にするなど今では慣れっこだ。
「さて、この程度ですか?」
「この人数がたったの六人に…少しは出来るようですね」
「それで、あんたはかかってこないのか?」
リーダー格の男は余裕の表情だ。
そして次の瞬間だった。
「これは…!?」
「かかりましたねぇ!!あなた達は最初から罠の上なのですよ!」
巨大な方陣がギラ達を拘束する。
「さて、一人ずつじっくりとその服を剥いでやりましょう、あと男は死ね」
「うわぁ~、こんな人に舐め回されるとか屈辱ですねぇ」
「要するにロリコンですねっ、エロ同人みたいに!」
この状況でも余裕の悪ノリを見せるメーヌと翠。
リーダー格はそれに声を荒げる。
「黙らっしゃい!私の人形になるんですよ!」
「はぁ、悪趣味な奴」
「こんな奴に愛玩されるなら自爆でもするかな」
「僕は眼中になしですか…」
そしてその直後だった。
「この程度でなんとか出来るほど、私達は甘くないですよ?」
「なっ!?この束縛を自力で抜け出しただと!?」
ギラからしたらこの程度遊びにもならない。
そして後ずさるリーダー格に一気に距離を詰め、そのまま地面に叩きつける。
「ぐはっ!?」
「喧嘩なら買ってあげますよ、だから貴様はここで死ね」
そのままリーダー格を力いっぱい地面に圧迫する。
その衝撃に耐え切れずリーダー格は絶命する。
「やれやれ、いつ襲撃されるのやら、とりあえず行きますよ」
「僕達も変人ホイホイになったなぁ…」
「ギラ様も手を抜くつもりが微塵もないという」
「恐るべしですっ」
「ギラは本当に興味深いね、ふふ」
「やっぱり只者じゃない、面白いねぇ」
こうしてニュクス教団に完全にマークされた。
とはいえ振りかかる火の粉は払うのみである。
オルバインで今後もしばらくは活動していく。
その異国の景色にギラ達は楽しみを覚える。
売られた喧嘩は買うのがギラ流である。