孤独に寄り添う少女
ティムと別れてから一夜明けた。
今日はリックの希望によりアルセイムの南部にある砂漠に向かう。
その砂漠には昔の遺跡などが埋もれているという。
学者や研究者もその研究のためによく足を運ぶ土地だ。
「さて、行きましょうか」
「リックさんウキウキですね」
「まあ私も楽しみだがな」
「そういうところは学者肌ですねぇ」
「でも楽しそうですっ」
そんなわけでウキウキの二人と共に南部へと飛ぶ。
空から見ても分かる通り、そこは広大な砂漠だ。
本来この砂漠に入るには山を抜けねばならないが、空路なので問題はない。
そのまま山を越え砂漠の入り口にソルバードを着陸させる。
そしてリックと恋夜は砂漠へと一足先に入っていく。
ギラ達もそのあとをゆっくりとついていく。
「あっ、ありましたね」
「うむ、今分かっている限りの遺跡群だな」
「こんなところにも文明があるものなんですね」
「砂漠の古代文明は鉄板ですよねっ」
「とはいえ少し砂も舞ってますね」
そうしてリックと恋夜は遺跡群を調べ始める。
こういう場所は昔に文明が栄え、滅ぶと同時に忘れ去られる事が多い土地だ。
この遺跡群もそんな滅びた文明の名残なのだろうか。
「それにしても意外と原型を留めてますね、もっとボロボロかと思ってました」
「この砂漠の遺跡群は状態のよさが研究者達からも評価されているからね」
「へぇ~」
その後も遺跡の調査を続ける。
とはいえ砂漠は暑いもの、それはお約束である。
「にしてもあっついですねぇ、氷魔法でも使いますか」
「メーヌは冷却機能がフル稼働ですよ」
「汗が出ますねっ」
そんな三人を尻目にリックと恋夜は楽しそうに調査を続ける。
その姿は暑さなんてなんのそのだった。
そうして砂漠の遺跡群をどんどん調べていく。
全部を調べ尽くすには時間が足りないのでこの近辺だけでも調べておく。
そんな中ギラが砂漠の向こうに何かを発見する。
「あんなところに小屋?こんな砂漠にですか?」
「確かにあの崖の下に小屋がありますね」
「誰か住んでるんですかねっ」
そこにリックと恋夜もやってくる。
「どうしました?」
「いえ、あの小屋が気になって」
「小屋?こんな砂漠にか?」
二人もその小屋が気になるようだ。
ならとばかりにギラはその小屋に向かっていく。
「…人の気配はしますね」
「勝手に聞き耳立てていいんですかね」
「はい、どちら様でしょうか?」
中から声がした。
その声は比較的若い女性のものだ。
そして扉が開く。
「えっと、どちら様ですか?」
「この砂漠の遺跡を調べてたら偶然この小屋を見つけまして」
「少し気になったので」
中から出てきたのは見た感じ20代前半ぐらいの女性だ。
だがギラはその少女に何か違和感を感じる。
「とりあえず立ち話もなんですから、中へどうぞ」
「ならお邪魔しようかな、失礼するよ」
そうして小屋にお邪魔するギラ達。
その女性は見た目に反して少女のような顔立ちだ。
だがなぜこんな場所に一人で暮らしているのか、ギラはそれをぶつけてみた。
「私がここに暮らす理由ですか、ここでしか暮らせない、というのが正しいです」
「どうしてですか?」
リックもその答えには疑問がある。
そして少女はその理由を教えてくれる。
「私は竜なんです、名前はフィーア、この世界に残る最後の個体ですね」
「竜だって?だがどう見ても…」
それに対してギラが答えを教えてくれる。
「その胸の石ですよね?それに竜の力を閉じ込めて人の姿を取っている」
「その通りです、よく分かりましたね」
つまり竜の力を特殊な石に封じ、人としての姿を取っている。
だがそれでも人里で暮らすのは難しいと彼女は言う。
「昔、大規模な竜狩りがあったんです、そのときに仲間は狩り尽くされました」
「そんな…」
「だが待ってくれ、野生の魔物などのドラゴンはどう説明するんだ?」
恋夜はそれが疑問だった。
彼女が竜だというのなら魔物としてのドラゴンはなんなのだと。
「あれは恐らく自我を失った仲間達です、それが人の手で繁殖させられたものかと」
「なんと…では魔物のドラゴンは人の業だと言うのか…」
「そんな事って…」
リックと恋夜はその真実に言葉もなかった。
だがそれをやっている相手の名前がさらなる驚きを与える。
「確かニュクス教団、そう名乗る人達が竜を人工的に繁殖させていると」
「ニュクス教団…そういえば昨日そんな名前を聞きましたね」
その話からしてニュクス教団は昔からあるのだと分かる。
今まで表舞台に出なかったのは別の障害があったから、そうギラは考える。
そしてその直後小屋の外から複数の人の気配を感じ取る。
フィーアはギラ達にここで待つように言い外に出ていってしまう。
「どうします?」
「そうですね、義理はないですがこのままというのも納得出来ませんし」
「なら決まりですねっ」
「行きましょう」
「やれやれ、喧嘩を売るのだけは好きだから困るね」
そうしてギラ達も外に出る。
そこにいたのはローブ姿の人間がざっと20人程度。
昨日の記憶が確かならこいつらはニュクス教団で間違いない。
「見つけましたよ、神竜のお嬢さん」
「私はあなた達になんか屈しない、屈するぐらいなら滅びを選びます」
その強気の姿勢に信者達は笑みを浮かべる。
「あなたの子供を作り繁殖させたいのですよ、我らの兵器としてね!」
その言葉に恋夜とリックは怒り心頭だ。
同時にギラも胸糞悪いものを覚えていた。
「はぁ、悪趣味ですねぇ、とりあえず喧嘩を売っておきますから、あとはご勝手に」
「なんだ、貴様達は?」
「ただの冒険者ですよ」
その言葉に信者達は微笑を浮かべる。
そして攻撃命令が発せられた。
「彼女達も殺しなさい、我らに歯向かう者を消すのです」
「やれるものならやってみなさい、喧嘩なら売りますし買ってあげますから」
そして信者達は一斉に襲いかかる。
ギラは魔力で光の球体を作り出し、その光が広がっていく。
それと同時に信者達は消し飛んだ。
「なっ!?」
「とりあえず喧嘩なら売買してあげますから、さっさと退け、この下郎が」
ギラが殺意を込めた目で睨みつける。
リーダー格の信者はそのまま逃げていった。
「さて、あなたは今後どうしますか?」
「今まで通りここで暮らします、どのみち私が死ねば絶滅ですしね」
その言葉にギラはある事を提案する。
「なら私があなたにある魔法をかけます、それで狙われる事もなくなるかと」
「それって…」
そしてギラはフィーアにある魔法をかける。
これでフィーアが狙われる可能性は大きく減るそうだ。
「さて、私達はもう行きますね、精々満足して絶滅してください」
「あ、ギラ様!」
「えっと、それじゃ失礼します!」
「フィーアさんもお元気でっ」
「興味深かったよ、いい話をどうもね」
そう言ってギラ達はその場を立ち去る。
フィーアもギラ達に不思議な何かを感じていたようだ。
そのあとフィーアは小屋に戻りいつもの暮らしに戻る。
美しき竜の少女はこの地で孤独に寄り添い生きていくのだ。
そしてギラ達は新たな喧嘩を売買した事で、新たな渦中に身を委ねていく。
ニュクス教団に喧嘩を売った以上、今後のゴタゴタは避けられなくなるのである…。