精霊の予見
骨の壊滅から一夜明けた。
ギラ達は長老に許可をもらい森の奥地へと向かう。
聖女と呼ばれる彼女がまだ森の奥にいるはずだ。
「さて、森の奥に行くのには長老の言う通りに、でしたか」
「えっと、鳥の鳴き声が聞こえる方向に進め、ですね」
「ならそれを信じて進みましょう」
「自然の道案内ですねっ」
「エルフらしいとも言えるな、では行くよ」
そうして森を進んでいくギラ達。
鳥の鳴き声のする方向に丁寧に進んでいく。
森の中は不思議な空気が漂っていて、とても癒やされる。
ギラは魔王ではあるが、この手の空気に触れたからといって死にはしない。
魔王とは言うが根本は人間と変わらないのである。
「えっと、こっちです」
「にしても森は広いですね、こんな広大な森で暮らすエルフは大したものです」
「自然の中で暮らしてる、でも外の世界は…」
「そればかりは難しい問題だよ、エルフがなぜ閉鎖的な種族と言われるかも分かる」
「人間は自然を破壊する、ですか」
確かにエルフから見たら人間はよくは見えないだろう。
自然を破壊しそこに暮らす人間はエルフから見れば悪にも見える。
とはいえ生きていく以上自然を破壊しなくてはならないのも人間の業だ。
人はそうやって発展し文明を築いてきたのだから。
「さて、次はどっちです?」
「あっちですね」
「流石はメーヌさんの聴覚ですっ」
「ではさっさと行くとしようか」
「ですね、聖女も外に出てはいないと思いますから」
そうして鳥の鳴き声を頼りに森をどんどん進んでいく。
そして目的地と思われる場所へと到着する。
「ここのようですね」
「あれ?どこかで見た背中ですね」
そこにいたのは以前カーミンスの一件で世話になったティムだった。
彼女が聖女なのか?ギラ達は彼女に声をかける。
「あなた達は…どうしてここに?」
「聖女を追いかけてたんですよ、まさかあなただとは」
とりあえず事情を聞く。
今までの経緯なども含めてだ。
「そうね、それは精霊に会うためにと、元々にある人助けよ」
「精霊に?」
「その精霊というのは本当にいるのか?実に好奇心をそそられるのだが」
ティムは答える。
精霊はここにいるのだと。
「聖女、それと面白い者も来ているようだな」
「誰だ!?」
「まさか…精霊?」
そしてそこに精霊が姿を見せる。
見た感じは筋骨隆々な男性の姿をしている。
ティムは精霊に語りかける。
「精霊スルスよ、私はあなたに予見を授かりに参りました」
「予見、何が聞きたい?」
予見、それは精霊だからこそ出来るものなのだろう。
その光景を前に恋夜はとても高揚感を覚えていた。
「はい、今世に潜むとある邪教についてです」
「邪教、そいつらは近く表舞台に姿を見せるだろう、それは混沌の引き金となる」
「邪教?そんなものがあるんですか?」
リックのその問いに精霊スルスは答える。
「小さき魔法使いよ、お前は知識を欲するか、ならば世の深淵を覗くがいい」
「世の深淵を覗く…」
「それより邪教ってなんなんですか?」
ギラもそれを訊く。
その邪教についてはスルスも完全には把握はしていないらしい。
「奴らは今までは表舞台からは見えていなかった、だが世の悪は入れ替わるもの」
「それって…」
メーヌはその言葉になんとなくではあるが察しがついていた。
今までの悪、それは恐らく大地の骨だろう。
そしてそれをギラが壊滅させた、それによりその邪教が表に出るのだろうと。
「私に詳しい事を話すだけの未来は見えぬ、だがその動きは確実に加速している」
「分かりました、では世界各国においてその邪教の動向を注視します」
「邪教、新たな悪、世の中には常に悪がある、ですか」
精霊スルスは続ける。
「それにしても面白い者が来ていたものだ、そこの少女よ」
「私ですか?」
精霊スルスにはギラの正体もお見通しなのだろう。
そしてギラに目的を尋ねる。
「お前はこの世界に何を望む?滅びか?それともその好奇心か?」
「そうですね、それを判断するのは今でなくてもいいと思ってますよ」
「えっと、どういう意味…」
リックにはその意味がよく分からないようだ。
まあギラは元々この世界を滅ぼそうとして来ているのだ。
それを現実にするかはこの先を見てからでも遅くはないという事である。
「そうか、人にあらざる乙女、そして狂気の乙女よ、この世界は好きにすればいい」
「おや、意外とそれを受け入れるんですね」
「なんかもっと怒るものかと思ってました」
それに対しスルスは続ける。
「どうせなら徹底的にやられた方が我々としてもいいからな」
「そうですか、ならそのときは遠慮なく」
そうしてスルスは最後に助言をくれる。
「世の悪は常にそこにある、悪なき世界は怠惰と傲慢だと知れ」
「分かりました、その言葉を御心に」
そしてスルスは姿を消した。
ティムは今後の事も確認する。
「私は今後は世界を見て回るわ、あなた達はどうするの?」
「私達は今まで通り自由気ままに旅をしますよ」
それは今までと変わらないという事である。
とはいえスルスの言っていた邪教の事は頭の片隅に留めてある。
「分かったわ、なら私はもう行くから、あなた達も気をつけるのよ」
そう言ってティムは先に行ってしまう。
ギラ達も森を戻り今後の確認をする。
「さて、今後はどうします?」
「一旦ミリストスに戻りましょう、それからアルセイムの南部に行きたいです」
「南部というと砂漠地帯か?あそこは古びた遺跡ぐらいしかないぞ」
アルセイム南部は砂漠が広がっている。
ウルゲントの自然豊かな土地とは異なり、様々な自然の環境がある。
そしてアルセイム南部は学者や研究者がよく足を運ぶ土地でもある。
「僕としても遺跡とかを見ておきたいんです、いいでしょうか?」
「私は別に構いませんよ、なにか面白いものでもあるかもしれませんしね」
「私も特に異論はない、以前から調査をしてみたいとは思っていたしな」
「遺跡探検ですねっ、わくわくします」
「では決まりですね、一旦ミリストスに戻って、明日南部に向かいましょう」
それで一致したギラ達。
そうしてエルフの長老にお礼を言って、森をあとにする。
そのままソルバードでミリストスへ。
ミリストスに着いたそのとき演説らしき声が聞こえた。
ギラ達はそっちへ行ってみる。
「みなさん!我らニュクス教団はその魂をお救いします!我らにそのお力を!」
宗教の信者だろうか?
一人の若者がそんな布教活動をしているようだった。
ニュクス教団、ギラはその名前を覚えておく事に。
新たな悪は少しずつその顔を覗かせ始めるのだ…。