骨は狂いて夢を見る
聖女を追うギラ達はグラテーロに来ていた。
昨日の情報ではこの街に来たというのは確実だ。
とりあえずは街の人から情報を集める事に。
「どうでした?」
「やっぱり来てたみたいです、でもすでに立ち去ったとか」
「僕も来てたって聞きました、助けてもらったっていう人もいましたよ」
「同じくです、助けてもらった人曰く南に向かったとか」
「ここから南、国境付近の死の境界線の近くか」
そう、このグラテーロは国境から物流を最初に運ぶ拠点だ。
王都は国境から見て南西、ここはその手前の山の麓だ。
昨日の農村が山の向こう、そしてラビニアが国境から見て王都方面。
このグラテーロはラビニアの北にある街だ。
それにより国境近くであるため、死の境界線にも近い。
「だとしたら…」
「南ですから死の境界線の先では?」
「その先は確かエルフの隠れ里があると噂の土地だね、噂だから本当かは知らん」
「エルフ…僕も噂では聞いた事はあります、ただ閉鎖的な種族ですよね?」
南に向かったのならそのエルフの隠れ里へ向かった?
ギラ達はその噂を信じて南へ向かう事に。
ソルバードで死の境界線を飛び越え南へと向かう。
そこにあったのは広大な森だった。
エルフは森の妖精とも言われる種族、隠れ里があるならこの森の中だろう。
ギラ達はその広大な森に足を踏み入れる。
「ふむ、この森は…」
「おかしいですね、メーヌの位置情報機能が上手く働きません」
「私もだ、位置情報を記録しようとすると同じ場所になってしまう」
「つまり不思議な力で迷わせてるんですかねっ」
「だとしたら同じ場所を巡ってる?どうしますか?」
二人の位置情報機能を狂わせる森。
それは侵入者を拒むかのように森が牙を向いているのだろう。
だがギラはそんなのはお構いなしに森の奥へと進んでいく。
「あれ?こっちは…」
「こんなの簡単な視覚トリックですよ、森という土地だからこそです」
「そうか、魔法で視覚に干渉しているのか、それで堂々巡りしているかのように…」
「だとしたら…」
「あっちです、ギラさんの言う通りなら僕にもそれは見破れるはず」
そうしてギラとリックが森の視覚トリックを見破る。
そのまま二人についていくと、人里らしき場所に出る。
「人ですか、ここに来れるなんて凄いです」
「ここがエルフの隠れ里ですよね?」
人里にいる人にそれを尋ねる。
その言葉からしてここがエルフの隠れ里で間違いないと分かる。
歓迎はされていないが里を見る程度なら許してくれるそうだ。
ギラ達は里の中を見て回る事にした。
「どうにも嫌われてるっぽいですね」
「仕方ないさ、エルフは閉鎖的な種族、人間嫌いで有名らしいからね」
「でもなんとか仲良くなりたいです」
そうして里を見ていると、長老と思われるエルフを見つける。
ギラ達は長老に聖女の事を尋ねる。
「聖女…そういえばそんな人が先日来ていましたよ」
どうやらここに来ていたのは確定らしい。
その行き先を尋ねる。
「行き先は森の奥地ですね、そこに用があるとかで」
「森の奥地?そこに何があるんでしょう」
森の奥地、そこはエルフの狩場だ。
それと同時にエルフ達が崇める精霊も住んでいるという。
「恐らく我らが崇める精霊に会いにいったのでしょうね」
「精霊、実に興味深いな、本物だとしたらこの上ない好奇心がうずく」
聖女と精霊の事を尋ねると思わぬ返事が返ってくる。
「とりあえず今夜は泊まっていきなさい、それで戻らないなら行くのを許可します」
「分かりました、では明日になっても聖女が戻らないときは私達も奥地に行きますね」
そうして今日は里で一泊する事になった。
聖女は森の奥に、そしてまだ戻っていない。
やっと追いついた、明日になれば待望のご対面である。
そしてその日の夜、ギラは一人でどこかへ行こうとしていた。
「ギラ様?」
「メーヌ、少しやんちゃしてきます、この事は黙っていなさい」
その言葉にメーヌは察した。
この森が死の境界線に近い事、そして死の境界線には大地の骨のアジトがある。
今後の旅のためにも、そのアジトを一人で叩きにいくのだと。
「分かりました、黙っておきますから派手にやってきてください」
「ええ、それでは」
そう言ってギラは一人大地の骨のアジトへ向かう。
メーヌはそんなギラの気持ちを理解し何か言う事はしなかった。
そしてギラは死の境界線にある遺跡へ足を踏み入れる。
突然の来客に骨達はテンションが上がる。
「てめぇあの…自分から来てくれるとはなぁ!」
「デリーラでしたっけ?彼女に会わせなさい」
その言葉に覆面は意気揚々と言い放つ。
「なら俺達を倒してからだなぁ、ここにいる全員を相手に出来るならだがなぁ!!」
「分かりました、つまりこういう事ですね?」
次の瞬間その場にいる覆面達が次々に爆発四散し無惨な肉片と化す。
ギラはそのままデリーラのいる奥へと歩き出す。
「行かせねぇ!」
ギラはその言葉を無視するかのように歩を進める。
ギラに近づこうとした覆面は次々に爆発四散し無惨な肉片となっていった。
「ひっ!?ひいぃぃぃぃぃぃぃっ!!」
「何人か逃亡しましたか、まあ何か出来るとも思えませんがね」
逃げた奴は無視して奥へと進む。
勇猛に向かってくる覆面は一人残らず無惨な肉片としていくギラ。
そしてデリーラにご対面だ。
「あんた…よくもあたしの仲間達を…」
「ご託はいいです、何人か逃げたようですが、あとは一人残らず殺しておきましたよ」
その言葉にデリーラは完全に逆上する。
仲間意識だけは高いが、しょせんは家族ごっこにすぎないとギラは嘲笑う。
デリーラは完全に我を忘れギラに襲いかかる。
「貴様あぁぁぁぁぁっ!!」
「ふふ、殺してやるかと思いましたが、もっといい苦しみを思いつきました」
ギラは不敵に笑いデリーラを挑発する。
デリーラはもはや完全に怒り狂い我を忘れていた。
「はあっ!!」
「がはっ…!?」
ギラはデリーラを壁に叩きつける。
そしてその恐怖が顔を見せていた。
「さて、では始めましょう、永遠の苦しみを」
「やめ…ろ…ふざ…け…」
次の瞬間デリーラはその場に崩れ落ちる。
そして凄まじい絶叫を上げる。
「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「これが死をも越える恐怖、永遠の悪夢ですよ」
そう、それは永遠の眠りと同時に永遠の悪夢を見せるもの。
デリーラは夢の中で死よりも恐ろしい体験を永遠にし続けるのだ。
その場に崩れ落ち眠り続けるデリーラ、その叫びは死よりも苦痛な叫びだった。
そうしてギラはアジトをあとにして里に戻る。
逃がしてしまった骨達に何か出来るとも思えないので、放置である。
こうしてギラの鬱憤は晴らされた。
翌日何事もなかったかのように聖女探しへと向かうのである…。