愚民の末路
バドカに戻り情報を求めるギラ達。
とりあえず恋夜の言う情報局とやらに向かう。
そこは大図書館にある情報機関、世界のニュースを取り扱っている。
「さて、聖女に関係するものは…」
「あっ、これじゃないですか?」
メーヌが見つけたのは最近の新聞だった。
ここは新聞からネットまで幅広く情報を揃えている。
機械関係はオルバインのおかげでもあるが。
その新聞記事を読み進めると、アルセイム北部の農村らしい。
そこに聖女が訪問し村人を救ってくれたという。
その後の行き先は不明だが西に行くと言っていたそうな。
ギラ達はとりあえずこの農村へ行き情報を集める事にした。
そのままソルバードに戻り、その農村へ向け飛び立つ。
聖女、彼女は何者なのか、日が落ち始めた空でそれを考える。
そうしてしばらく飛び、日暮れの時間に農村に到着する。
農村とはいえ小さな宿はある。
宿を確保し今日のうちに得られるものは得ておく事に。
手分けして村の人から聖女の情報を聞き出す。
「どうでしたか?」
「やはり来ていたのは間違いないね、ただ去ったのは二日前だよ」
「向かった先はやっぱり西みたいですね、国境とは逆ですよ」
「カーミンスの聖女がアルセイムで人助け、ですか」
そうして情報を整理する。
その聖女は間違いなくこの村に来ていた事。
そして二日前に西に向けて出発したとの事。
ちなみに西には山があり、その山には行商人の近道があるらしい。
なんにしても得られたのはその程度である。
とりあえずもう日も落ちているので、今日は休む事に。
ギラ達は宿に戻り、明日の予定を確認する。
明日はその西へ向かい、山の先へと向う。
その山の先にはアルセイムの商業都市があるという。
二日前にこの村を発ったのなら、すでに到着しているだろう。
それも踏まえ次の行き先はその商業都市に決まる。
宿でくつろいでいると、外から怒号が聞こえてきた。
ギラは少し外すと言い外に出る。
「匿えないたぁ、どういう事だよ」
「あんた国に指名手配されてんだろ!犯罪者を匿えるか!」
そこにいたのはあのときの青年だった。
彼も結局は逃走し指名手配されたようだ。
村人に匿うように上から目線の偉そうな態度でふてぶてしく言っていた。
だが村人も馬鹿ではない、そんな話を引き受けるわけもなかった。
「ふざけんなよ…あのおっさん殺してやる」
「物騒ですねぇ、殺して解決しようとか典型的なヴァカですか」
ギラは青年を挑発するように言う。
青年はそれに対し逆上気味に返す。
「てめぇ、あのときの…!」
「さっさと自首したらどうです?そうすれば少しは減刑してもらえますよ?」
だが青年は聞く耳を持たない。
「ふざけんな!俺は何も悪くねぇぞ!」
「ああ、悪い事が当たり前になり過ぎて、善悪の区別もつきませんか」
ギラはこれでもかと青年を挑発する。
青年はブチ切れそうになりながらもそれをこらえる。
「それで自分のした事も分からない、能なしチンパンが人を殺す?笑わせますね」
「んだと…!俺は大人だぞ、てめぇみたいなガキに言われる筋合いはねぇんだよ」
ギラはその言葉に呆れ返る。
そして挑発を続ける。
「大人、それなら何か分かるんですか?見た目は大人頭脳は子供のおガキ様」
「んだと…!?」
ギラは徹底的に青年を小馬鹿にする。
その青年は愚民そのものだった。
「国は弱者を守らなきゃいけない、そんなの当たり前だろ!!」
「やっぱりヴァカですね、弱者は何をしてもいい、そんな愚かな思考ですか」
青年は自分は弱者だと言う。
だがそれが免罪符になるなら世の中はもっと酷い事になっているだろう。
「まあこれ以上言っても無駄ですよね、あとはご勝手にどうぞ」
「おい、待てよ!このクソガキ!」
立ち去ろうとするギラを青年は憎しみのこもった声で呼び止める。
ギラはそれに対し見下すような目で睨み返し、その場をあとにする。
「ふざけんな!クソがぁ!」
それから夜も更けた深夜。
ギラは村の外にいた。
「こんな時間に呼び出すとは、肌が荒れたらどうするんです?」
「知るかよ、てめぇはここで死ぬんだ」
青年は武器を持っていた。
完全にブチ切れ、ギラを殺す気満々のようだ。
それに対してギラも気怠げに青年に言い返す。
「殺して解決、そんな狂気の思想があるとは恐ろしい人です」
「うるせぇ!ごちゃごちゃ抜かしてんじゃねぇぞ!」
ギラは面倒になっていた。
もうこいつ殺していいよね、割と本気でそう思っている程度には。
「それで、覚悟は出来たんだろうな?」
「…ああ、それなら自分の腕を確認してからにしてもらえます?」
青年は意味も分からず自分の右腕を見る。
なんと青年の右腕はそこにはなく、鮮血が滴っていた。
「うわあぁぁぁぁぁぁぁっ!?な、なんだよ…なんだよこれ!!」
「私を殺す?出来るものならやってくださいよ、ほら、さあ」
青年はその異様な雰囲気に完全に飲まれていた。
そしてギラは青年の切り落とされた右腕を見せそれを目の前で握り潰す。
「俺の腕…てめぇ…ふざけんなよ!!俺の腕を返せよ!!」
「ああ、てめぇみたいなゴミクズのゴミ虫に腕なんか贅沢だろ?」
ギラは完全にお冠な口調で青年を罵倒する。
そして言い放つ。
「なら謝っていただけますか?惨めに!惨たらしく!頭を地面にくっつけて!」
「ふざけんな…悪くないのに謝る理由なんかねぇよ!!」
青年はこの状況ですら意地を張り続ける。
ギラはもう飽きたと言わんばかりの顔で言う。
それは事実上の死刑宣告だった。
「もう飽きました、死んでください」
「嫌だ…死にたくない…助けて…助け…」
次の瞬間青年の体がバラバラに斬り刻まれる。
ギラはそれを見て快楽に満ちた笑みを浮かべる。
そして何事もなかったかのように宿に戻っていく。
この出来事は内緒にしておく事にした。
そして夜が明けギラ達は村を発ち聖女を追う事に。
向かうは西の山を越えた先にある商業都市グラテーロである。
ソルバードに乗り込みグラテーロを目指して飛び立つギラ達。
夜の出来事は秘密にしておく事に。
「商業都市グラテーロ、オルバインは国そのものですが今回は街ですか」
「ああ、その街はアルセイムの物流の拠点になる街だ」
「聖女、彼女は何のために…」
そうして飛んでいくとグラテーロの街が見えてくる。
次の街で聖女は見つかるだろうか。
そう考えつつグラテーロの近くに着陸する。
聖女、謎に包まれたその存在はギラ達を弄ぶかのように。