人は誰しも魔王になれる
リックに対する魔王としての教育が終わった。
そして今日はその新たな魔王のお披露目である。
とはいえ特に何か変わった様子もない。
だが新たな魔王は確かにそこに生まれていた。
「さて、では魔王のお披露目といきますか」
「あの、お披露目って何をするんですか?」
「決まってますよね?ギラ様」
「全世界に宣戦布告ですよっ」
まあ魔王と言えばそれなのだろう。
仲間達も見守る中で全世界への宣戦布告が始まる。
「ほ、本気ですか!?僕全世界を敵に回すんですか!?」
「安心してください、声は加工してあげますから」
「リックも魔王デビューか、お母さん嬉しいよ」
「ハルミはいつから母親になったんだ」
そんな困惑するリックにそれが魔王だとギラは言う。
別に人を殺す必要などない。
あくまでも魔王としてその存在をその世界にアピールすれば良いのだ。
それに対しリックも覚悟を決めたのか、ギラにそれを頼む。
「いいでしょう、では全世界に声が届きリックさんだとバレなくします」
「は、はいっ」
「こうしてみるとギラって魔王らしくないというか」
「ギラは怠惰で時折見せる優しさと残虐さが特徴だからね」
そうして声の加工の魔法を施し終わる。
次に全世界に声が届くようになりリックの声がその世界に響く。
世界中の人々はその声に驚いていた。
そしてリックは自分が魔王だと名乗る。
全世界に対して魔王として宣戦布告を本当にしたのだ。
ギラもそれでいいと太鼓判を押した。
元々リックは文才のある方である。
なので台詞を考えたりするのは得意なのだろう。
世界中の人々は魔王という言葉に最初は怯えていた。
だがリックは命を無駄に奪う事はしないと言い放つ。
そしてそれに加え自分は魔王だが、世界中の誰もが魔王になれるとも言った。
それはギラの教え、人は誰しも魔王になれるという事でもあった。
そうして20分に渡るリックの魔王としての演説が終わる。
そんなリックを見てギラはとても嬉しそうにしていた。
「見事でしたね、文才があるというのは本当のようです」
「あはは、僕だって気づかれてたら困りますけど」
「大丈夫なのです、きっとバレてないのですよ」
「はい、なので安心して今後も冒険者ライフを送れますね」
魔王になったのはいいものの今までと生活が変わるわけでもない。
寧ろ魔王として今後新たな生活が始まるのだ。
まさか世界中の人々もあの演説の魔王が身近で冒険者をしてるとは思うまい。
ギラはそれに対し魔王とは称号であり概念だと改めて釘を刺す。
人の心が魔王を生みそれは悪意でも善意でも変わらないのだ。
魔王が必ずしも悪であるという事は忘れてしまえと言う。
「これでリックさんも魔王デビュー、今後は冒険者として、魔王としてですわね」
「かっかっか、愉快じゃのぉ、こんな初々しい魔王様とは」
「クロノスは本気なんですね」
「はぁ、とはいえ魔王としての概念は確実に壊してくれそうですね、この少年は」
精霊達もそのままリックについてくる事で満場一致である。
そして仲間達がその場に集まる。
それを影から見ていた館長もそれを楽しそうに見守っていた。
今後もこの図書館の客として何かと話がしたいと思っていた。
魔王はこうしてここに誕生した。
その初々しい魔王は何も知らない人々の役に立つべく世界を駆け巡る。
駆け出しだった自分が出会った不思議な少女。
その少女に引き寄せられ導かれるかのように嵐を経験した少年。
魔王と少年はどこか不思議な関係を構築し、少年は魔王になった。
ギラの残した爆弾で100年後にはこの世界は滅ぶ。
魔王は少年の手を取り仲間達はそれを見守る。
そして少年はその教えを改めて胸に刻むのだった。
その教えとは、人は誰しも魔王になれるという事である、と。
冒険はまだまだ続いていく、それは少年が魔王と誰も気づかないお話。
魔王とその仲間達はこれから先も嵐を巻き起こしていくのである…。
今回のお話で「人は誰しも魔王になれる」は完結となります。
俺たちの戦いはこれからだという結末ですが、新たな船出だと思ってください。
この先も行く先々で何かと巻き起こしてくれるでしょう。
今まで読んでくれた皆様、本当に感謝いたします。
では新しい小説で再びお会いしましょう!