人を信じるという事
リックに魔王としての教育を施すギラ。
そんな中仲間達もそれを本気だという事に気づいていた。
とはいえ魔王であるなどとは信じきれない様子。
別に信じろとは言わないためそれを観察する者もいる。
「少しは覚えましたか」
「覚えましたけど、流石にスパルタですよね」
「ギラっては容赦ないよね」
「そうね、でも本気でリックを魔王にしようとしてるみたい」
魔王とは概念である。
つまりリックを人々から畏怖される存在に仕立てる事がその教育である。
「でもギラさんは僕を信じてくれるんですね、魔王にでもなるって」
「そうですね、人を信じられなかった私がこんな子供を信じるのはあの件もあります」
「子供に何かあるんだ」
「あのギラも子供にはどこか甘い一面があると思ってたけどね」
ギラが子供に甘い理由。
それは信じるという事への後悔なのだろう。
「昔の話です、私を信じ続けてくれていた子供すらも手にかけた話ですよ」
「そんな…」
「信じてくれてた人まで殺したんだ、薄情だね」
「とはいえその裏には何かしらがあるんでしょ」
ギラは当時は人など誰も信じられなかった。
だからその世界の人間を滅ぼしたのだ。
「簡単に人を信じればしっぺ返しを喰らいます、ですが人を信じなければ生きていけません」
「それはそうですけど…」
「でも確かに簡単に信じる人は騙されても信じ続けるっていう気がするわ」
「なんか分かるかも、依存してるとそうなっちゃうよね」
人を信じるとはそういう事である。
人は独りでも生きていけるがそれだと生きる事しか出来ないと。
「簡単に人を信じるなんていう人はただの馬鹿ですよ、でも信じ続けられるのは強さです」
「信じ続けられるのは強さ、ギラにしては前向きな事を言うのね」
「それだけ信じるという行為はハイリスクハイリターンなんだって事かな」
「ギラさんは人を信じるのを恐れているんですよね、きっと」
ギラはどこかで信じる事を恐れている。
だがその一方で拠り所も求めているのだろう。
この世界を滅ぼしにきて出会った仲間達。
そんな温もりがギラを変えたのかもしれない。
「何かを変えたければ自分が変わらないといけない、それが世の常です」
「変えたくば変われ、それは理想は自分が理想となれって事でいいの?」
「つまり理想を語るのではない、その身を以て理想になるのだ、って事ですか」
「なんか難しいなぁ」
とはいえ人を信じる事、何かを変える事とはそういう事である。
相手にだけそれを求めるのはただの我儘なのだから。
「ギラってお婆ちゃんみたいだよね」
「若年寄ね、可愛いじゃない」
「はぁ、体は幼いまま精神だけ老けてますからね」
「魔王って本当なのかも」
なんにしてもギラの過去話はどこか刺さるものがある。
ハルミもモレーアもそれは感じていた。
「何か食べにいきますよ」
「ギラの奢りでね」
「ちゃっかりしてるなぁ」
「ハルミらしいわね」
ギラの教育は厳しい。
だがそれはリックを信じているからこそである。
厳しさとは同時に優しさでもある、それが教育というものなのだから。