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磯の香りと誓いの言葉

シルバーランク昇格の祝いから一夜。

ギラ達はアルセイム西部に向かってソルバードを飛ばしていた。

西部には港町がありオルバインへの船が出ているらしい。

あとは国の刑務所があり、厳しい監視の下で囚人が収監されている。


「西部には港町と刑務所があるらしい、オルバインへの船が出ているそうだ」

「なるほど、そのうちオルバインにも行ってみたいものですね」

「まあ今はアルセイムで何かと見て回りたいですよ」

「ですねっ、行くのは簡単ですけど」


そうしているうちにアルセイム西端に到着する。

そこには中規模の港町と街の外れには大きな刑務所が見えた。

ソルバードを近くに停めロックをかける。

そして港町へと向かうギラ達。


「ここが港町リバージですか、磯の香りがしますね」

「海産物が有名だからね、美味しい海の幸が食べられるよ」

「イカ焼きゲソ焼きイカ飯ですっ!」

「なんでイカづくし…」


そうして街の散策を始めるギラ達。

露店でイカ焼きを買い食べ歩く。

港にはオルバインからの定期船が何隻か入港していた。

街を歩いていると、街外れに少し寂れた屋敷があるのを見つける。

近くの人にその屋敷の事を尋ねる。


「あの屋敷かい?老婆が住んでるんだけど、あまり話した事はないよ」

「老婆…」


どうやら聞く限りでは独りだという。

ご隠居だろうか、そう思いつつ屋敷の近くまで行ってみる。

近くで見ると思ったよりも大きい事に気づく。

すると後ろから声がする。


「おや、お客さんですか?」

「あ、えっと…」


突然の出来事に少し困る。

だが老婆は優しく微笑んでくれる。


「せっかくです、少し上がっていきませんか?」

「いいんですか?」

「まあ断るのも失礼だ、ここは上がらせてもらうとしよう」


そうして老婆の住んでいる屋敷にお邪魔するギラ達。

家の中は思ったよりも広く少し古びた芸術品なども見受けられる。

そして老婆はギラ達に話し相手になって欲しいという。


「それは別に構いません、ですがあなた、目が見えていませんよね?」

「おや、鋭いですね、確かに私の目は見えていません」

「目が見えてないって…」


目の病気で光を失ったのだという。

だがそれは自分への罰なのかもしれない、老婆はそう語る。


「罰って、お婆さん、あなたは一体…」

「私はね、アルセイムの元第一王女なんです、昔の話ですけどね」

「元第一王女?それがこんなところでご隠居ですか?」


メーヌはその疑問をストレートにぶつける。

老婆は少し昔の話だと、昔語りを始める。


「今から70年ぐらい前ですか、私は一人の傭兵に恋をしたんです」

「傭兵ですか?」

「第一王女と傭兵の恋、そんな事が知られればどうなるかは言うまでもないな」


当然の話である。

国の王女と傭兵、そんな恋など王族だけでなく貴族達も認めるはずがない。

第一王女という事は王子がいない限りは王位継承権第一位なのだから。


「その傭兵は大地の傭兵団というところのハチロウという人でした」

「それで周囲は猛反対、言われるまでもなく引き裂こうと躍起になるでしょうね」


その言葉に老婆はその通りだと言う。

だが一度燃えた恋は簡単には消せない。

そして彼女は逃げた、そうしてこの港街に移り住んだという。


「私、アサリナは王位を捨てて彼と逃げました、でも現実は軟禁に近いものです」

「傭兵と恋に落ちたなんて事が知れれば大ニュースになりますよね」

「そうだね、少なくとも王室のイメージに泥を塗ったのは確かかな」


それでも後悔はなかったのだという。

例え半軟禁状態でも彼との時間は幸せだった。

そこに迷いも後悔も最初からなかったと言い切る。


「でも彼は去年亡くなりました、ずっと一緒にいると約束したのに、悲しいものです」

「それは…」

「人はいつかは死ぬんです、それが早いか遅いかの違いでしかないんですよ」


辛辣かもしれない、それでもギラは人の愚かさも美しさも知っているつもりだ。

だからこそ厳しい言葉が多くなるのかもしれない。


「そうですね、傭兵団も今はもうなくなってしまい私だけが残されてしまった」

「傭兵団がなくなった?それってどういう…」


その話に興味を示すギラ達。

アサリナに傭兵団の事を尋ねる。

返ってきた答えは意外なものだった。


「今から10年前ぐらいに国王暗殺未遂で解体、ドンは処刑されました」

「そんな…国王暗殺未遂って…」

「なぜそんな真似を…」


だが傭兵団はドンの処刑で解体、つまり団員達は生きている。

重罪に問われたものの死んではいないはずである。


「今はその傭兵団は大地の骨、そう名乗っていると聞きました」

「なっ!?」

「つまり何者かが元団員を集め再結成した、そうなるな」

「まさかとは思いますけど…」


恐らくギラ達の考えは当たっているだろう。

とはいえ彼女の前でそれは言わないでおく事にする。


「私ももう長くありません、この話が出来て嬉しかったですよ」

「アサリナさん…」


そして最後にアサリナは一つの言葉を贈ってくれる。


「愛は美しいもの、だが同時にそれは全てを狂わせる魔性でもある、ですよ」

「愛は魔性…言うじゃないですか」

「でも分からなくもないね、あなたを狂わせたのもそんな魔性なのだろう?」


アサリナは微笑みながらそうだと答える。

そして話し相手になってくれて嬉しかったと感謝を述べる。


「では私達はそろそろお暇します、アサリナさんも精々幸せに死んでください」

「ふふっ、はい」


そうしてギラ達は屋敷をあとにする。

別れ際の言葉はギラなりの優しさだったのだろうとメーヌと翠は思っていた。

幸せに死ねるというのは人にとっての幸福なのか、リックもそれを考える。


そうして街に出ると港の方が何やら騒がしい。

ギラ達は港の方へと向かう。


「どうすんだ、このままじゃ船が出せないぞ?」

「とはいえ海の主なんて相手にしてたら命がいくつあっても足りないからな」


どうやら海に何かが出るようだ。

ギラ達はその話を聞いてみる事に。


「海の主ってのはこのアルセイム近海に住んでる魔物だよ」

「そいつがたまに船を襲うんだよな、おかげで船の運行にも支障が出る」

「なら私達が討伐してあげますよ、その海域に連れていきなさい」


ギラはその海の主の討伐を買って出る。

船乗り達は不安もありつつも船に乗せてくれる事に。

そうしてギラ達は海の主討伐に向かう事になった。


大地の骨と大地の傭兵団、それは因果関係にある。

そして倒さなければならない相手だと再認識する。


ギラの心には大地の骨への憎悪が燃え盛るのだから…。

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