炎の先へ
再生の火竜を求めるギラ達。
幻の炎が燃え盛るその過酷な谷を進む。
谷の途中で結界石を使い一夜を明かした。
今日も谷を奥地へ向けて進み続ける。
「本当に過酷ですね」
「流石にこいつはしんどいというか」
「でも進むしかない、そうだろう」
「ええ、リックさんを助けるんです」
その決意は本物のようだ。
そのためにも今こんなところで倒れてなどいられない。
「はぁ、この谷長いねぇ」
「昨日だけで相当進んだはずなんですけど」
「炎が幻なら実は我々も幻に飲まれている、とかか」
「そうだとしたら永遠に先には進めないじゃありませんの」
とはいえ幻ではないようだ。
その証拠に周囲の岩壁には感触もあるし触ると少し崩れたりもする。
幻ならこんな器用な真似は出来ないはずだ。
恋夜はそう思っていた。
「本当にどこまで進むのさ」
「幻の炎だから暑くはないとはいえ」
「体力的にきついんですよ」
「ふぁいとですよっ」
流石に環境が過酷すぎる。
そんな過酷な土地をそれでも進み続ける。
それは孤独だった魔王が初めて誰かを助けたいと思った事。
自分を信じてくれていた人すらも殺してしまったその過去。
だから今度は救うのだ。
信じてくれる人だけでも救うのだと誓ったのだ。
「はぁ、本当にどんだけ進めばいいのさ」
「流石にまる二日進んでも着かないとかになったら少しは疑いを持つべきか」
「幻に飲まれている事を、ですか」
「この谷は一体何なんですのよ」
ペトラも流石にストレスが溜まっているようだ。
とはいえそれでも行くのだ、我儘は言ってなどいられない。
谷を進む事一日と半分。
まだ奥地どころか半分にも感じない。
谷からは炎が吹き出し続ける。
そんな中炎の壁が行く手を遮る。
「おいおい、今度は炎の壁か」
「…やはり焼けますね」
「ギラ様!?」
「幻と分かってても焼ける炎に手を突っ込むなど…」
炎に手を突っ込んだギラの右腕は炎に焼かれ焼失していた。
だがそこは魔王、この程度放っておけば再生するという。
とはいえそれには時間を使うのでしばらくは右手はないままだ。
そしてこの炎の壁をどうするか考えていると、声が響く。
「まさか炎に手を突っ込むとは、ただの馬鹿なのか勇敢なのか」
「誰ですか!」
「気配も姿もない、集音機能を使っても音すら拾えん」
「どこにいますの!出ていらっしゃい!」
そして声の主は言う。
我を求めるのならさらなる炎を越えて来いと。
「我は谷の最奥にて待つ、心が折れぬのならきっと辿り着けるだろう」
「要するに来いよって事ですかね」
「相手も挑発しているんですの?」
「それなら行ってやるさ、私のプライドが退くなと命じている」
そうして谷の奥へと再び進む。
炎の壁は声が消えると同時に消えていた。
「ギラ様、その右腕…」
「どうせ放っておけば再生しますしね、これでも人なんて捨てた身です」
「ギラ…あんたって奴は…」
「ならさっさと進むのみだ、ギラ、帰ったら体を調べさせろ」
そうして谷をさらに奥へと進む。
もはや体を失うという感覚の麻痺なのか。
ギラの魔王らしさが少し垣間見えたのだった。