憎愛の魔法
クプルフの復讐の結果はまだ出そうにない。
それもあってか暇を持て余しているギラ達。
冒険者ギルドの依頼などをこなしつ自由気ままに満喫している。
そんな暇を持て余す日々でもそれは充実しているという事である。
「あれ?リックさんは?ギラ様もいないんですか?」
「リックなら近くの林で魔法の練習だと、ギラは知らん」
「ギラって猫みたいに気まぐれだからねぇ」
「まあお腹が空いたら戻ってきますわよ」
気楽なものである。
だがそれは信頼しているという事でもあるのだろう。
「ギラはああ見えて憂いを感じるからな」
「そうねぇ、なんか突き抜けてる感じはあるかも」
「ギラ様は元々孤独ですから」
「孤独なのです?」
それはギラが自分の世界を滅ぼした事。
そして人間を醜悪だと思っている中での一面なのかもしれない。
メーヌと翠はそんなギラに生み出された存在。
それでも今の仲間達と一緒にいるギラを見ていて不思議と安心していた。
表向きは嫌いだと言いつつも内側では今に満足していると。
だから今が少しでも続いてくれるように、そう願っているのである。
その頃のギラは森でリックを見ていた。
「氷の槍よ、突き刺され!」
「見事なものですね、もうすっかり一人前じゃないですか」
リックも今までの経験の中で多くの魔法を覚えた。
賢者と呼ばれた人にも目をかけられた。
だが自信がどこかないのはリックの卑屈さなのか。
貴族の家の息子で冒険などとは無縁だった。
家が潰されて冒険者になりギラ達に出会った。
それでも仲間達と比べてもその実力差を感じどこか卑屈になっている。
「別に他人と比較なんてしなくていいですよ、比べるなど愚行です」
「それでも…」
「卑屈じゃのぉ、小僧」
「少しはシャンとしてくださいよ」
クロノスとドリアードにも言われてしまった。
そんな中ギラがリックに言う。
「では私が魔法を一つお教えします、これを使いこなせれば少しは自信になりますよ」
「ギラさんの魔法?」
「それは面白いな、我輩も見せてもらおう」
ギラはリックにしかと見ておくように言う。
そしてその魔法の詠唱を開始する。
「終わりなき憎しみよ、その憎しみは歪んだ愛の幻想なり、母なる憎愛、その手に眠れ!」
「今のは…女性の幻影が悪魔のように変わって…」
「なんじゃ今の魔法は…まるで憎愛、それを連想させる…」
「まさに憎愛、ですか」
リックに復唱してみるように言う。
「終わりなき憎しみよ、その憎しみは歪んだ愛の幻想なり、母なる憎愛、その手に眠れ!」
「ほう、出来てしまうものですね、この魔法は憎愛の魔法、どう使うかは任せます」
「ギラ、お主は…」
「こんな歪んだ魔法を生み出してしまったと言うのですか…」
とりあえずリックは思ったよりも簡単に出来てしまったようである。
「さて、お腹も空いたし戻りますよ」
「あ、待ってください!」
こうしてギラもリックにその目をつけている。
それは支配欲のようなものか。
なんにしてもそのリックを気に入っているのは確かだ。
だからこそ楽しみつつもその成長が羨ましいのかもしれない。




