復讐の理由
ブルクハルトの攻撃は確実に効いている。
クプルフの復讐はそんな不幸のどん底に叩き落す事。
だが人間嫌いの彼女が一人のために復讐をする。
その姿はそれだけ特別な存在であった事を窺わせた。
「あの、クプルフさんはその人をそんな大切に思ってたんですか」
「私の復讐の理由?そうね、あの子は私にとっては特別、だからよ」
「人間なのに天人のクプルフさんが見えていたんですよね」
「そういうケースもあるという事なのだな、まさにレアケースか」
クプルフはその子に特別な感情を持っていたのか。
天人が人間のために復讐をするその姿は天人としては異色の姿なのだろう。
「ならこっちからも訊くけど、復讐や憎しみが間違っているって言えるかしら」
「そうですね、死んだ人間を持ち出して復讐を否定するのは最低だと思いますよ」
「死んだ人間は何も語らない、だが霊でも呼び出せばぶっ殺してくれと思ってるかもね」
「要するに復讐なんか望んでいないというのは詭弁ですわよ、死人に口なしですわ」
それは創作の世界などでよく見られる話だ。
ギラからしたら簡単に折れる復讐心などゴミクズにも劣るものだという。
「復讐というのは果たしてこそです、ただしその先に待つ結末は保証はしません」
「ふーん、つまり自分が不幸になろうとも復讐は果たすもの、そういう事ね」
「許す事が必ずしも正しくなんかないさ、許しちまったらそれこそ泣き寝入りだ」
「ソウの言う通りね、やられたらやり返す、それこそ倍返ししなきゃ」
ソウとモレーアは復讐に対しては肯定的なように聞こえる。
とはいえ許してしまえばそれは負けだという考えはあるようである。
「でも私からしたらやり返せるだけの勇気って意外と難しいと思うよ」
「ハルミの言う事は尤もだな、だが心の傷を癒やすのは復讐しかない、私はそう思う」
「恋夜さんの言うように復讐は生きがい、そうなるケースもありますよね」
「あんた達意外と真面目に語るのね」
とはいえ復讐については必ずしも人を殺す事ではない。
ギラの言う復讐とはクプルフのように、相手を不幸にする事だ。
あいつを不幸のどん底に叩き落したい、あいつの苦痛に歪む顔が見たい。
復讐の理由などそれで充分だとギラは言う。
「要するに自分で手を下す必要はないんです、間接的でも不幸にするのが復讐です」
「ギラの言う通りだね、人を殺すだけが復讐じゃないって事さ」
「クプルフさんはレンゲンを不幸にしたいと思った、それは立派な復讐ですわ」
「ま、その子がそれを望んでなくても私はその子のために復讐する、それだけ」
何気に真面目に復讐について語るギラ達。
だがその復讐に対する考え方は頭ごなしに否定するものではない。
そして人を殺さない復讐もあるという事。
それが復讐なのだろうと。
「でも少しはいい話が聞けたわ」
「それはどうも」
「ギラさんなりの復讐論、ですか」
ブルクハルトの攻撃により徐々に追い詰められるレンゲン。
底なしの物欲を利用されるその姿はまさにマリオネットである。
クプルフの復讐、それは不幸に歪む顔を見る事で得られる快楽なのだから。