高級な餌を要求します
マギイル滞在の日の夜。
ギラ達は上に話をした上で政治学科の教授に囮になってもらった。
当然犯人が出現したら即座に踏み込める状態である。
そうして日付が変わった直後、外で張り込むギラ達に教授の声が届く。
「そこまでですよ、愚かな暗殺者さん」
「やはり来たな」
その暗殺者はまるでギラが来る事を知っていたかのような口振りだ。
「この教授を殺すのは当然だが、同時にこいつはお前を釣る餌だ」
「ああ、安っぽい餌ですねぇ、個人的には高級な餌を要求したいものです」
「私を殺すと言ったな、だがこの状況でどうするというのだ?」
教授のその質問に暗殺者は楽しそうに笑う。
「どうするだと?ククク、つまりは殺すっていう事なんだよ!」
暗殺者が教授に斬りかかる。
だがそれを瞬時にメーヌが阻止する。
「させるとでも?」
「ちっ、だが逃げ道は仲間が塞いでいる、逃げようとすれば首が落ちるぞ」
「つまりその仲間をぶっ殺せば解決ですか、翠!」
「了解です!」
翠が部屋の外に飛び出していく。
それから少し経過して外から多数の悲鳴が響く。
翠が外にいる暗殺者を片っ端から排除しているのだ。
それから間もなくして悲鳴は聞こえなくなった。
恐らくこの近辺の暗殺者を一人残らず片付けたのだろう。
「さて、あとはあなただけ、外にはもっと待機しているのでしょう?」
「ぐっ…ならばそのクソ眼鏡だけでも…殺してくれるわあぁぁぁぁっ!!」
「ふっ!」
教授に斬りかかろうとする暗殺者にメーヌの暗器がヒットする。
的確に急所を狙ったため、生きてはいないだろう。
「これで全部かな?」
「この近辺は、ですね」
「教授さんはここを動かないでください、残りを排除してきます」
そう言ってギラ達は部屋を出る。
教授はギラ達の優秀さに驚いていた。
部屋の外には翠が片付けた暗殺者の死体が転がっていた。
ギラは気配を研ぎ澄ませる。
この近辺にはどうやら人の気配はないようだ。
だとすれば仲間は外にもっと待機している。
大学を出たギラ達はそこに待ち伏せていた約50人の暗殺者に囲まれる。
「ククク、あのクソ眼鏡を殺し損ねても…貴様を殺せれば…」
「やれやれ、釣り針は大きい方がいい、そうお思いですか?」
「あなた達のやってる事は正義なんかじゃない!ただの殺戮ですよ!」
リックも今までの大地の骨のやり方を見て心底怒りを覚えていた。
だが覆面達はそんな事は知らんとばかりに言い放つ。
「黙れ…同胞を惨殺し、デリーラ様に醜態を晒させた…それを許せるかぁっ!!」
「つまり駆除されるのがお望みと、害虫は駆除しないといけませんからね」
その言葉に覆面は完全に怒り狂っている。
「害虫だと…ふざけるな!我らは益虫だ…この世の悪を喰らう益虫なのだ!」
「もう何を言っても無駄ですね、では一人残らず消してあげます、かもーん」
「貴様…!殺せ、殺せえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!」
その挑発に覆面達は我を忘れ一斉に襲いかかる。
だがそれを嘲笑うかのように、ギラは拳を地面に叩きつける。
それはギラの得意とする光の力。
その拳を中心に光がドーム状に広がっていく。
覆面達は回避する間もなく光に飲み込まれ骨すら残さず全員消滅した。
当然死体は残らない、完全な消滅である。
「加減はしたんですけどね、流石に街に被害を出したら何を言われるかですし」
「す、凄い…」
「ギラ様ったら加減してもあれなんですから」
「やっぱり力こそが正義って事なんでしょうか」
そうしてギラ達は教授に報告をする。
そのあとは宿に戻り朝まで休む事にした。
そして日が昇った朝、街は何事もなかったかのようにいつも通りに戻る。
ギラ達は次の目的地を考えていた。
「さて、どこに行きますか?」
「あ、あの、僕行ってみたい場所があるんです」
リックが行きたい場所。
それを一応訊いてみる事に。
「えっと、ここから南の方角にある大図書館なんです」
「大図書館?それって国が管理する施設か何かですか?」
メーヌの質問にリックはその大図書館の事を教えてくれる。
「そこは冒険者ギルドの総本山なんです、もしかしたら何か得られるかも」
「ふむ、それはそれで面白いかもしれませんね、ではその大図書館に行きますか」
「何か面白い本とかあるといいですね」
「図書館は大好きですっ、ではそこに決まりですねっ」
そうして次の目的地はその大図書館に決まる。
そのついでに冒険者ランクをせめてシルバーに上げようとも考える。
総本山なら面白そうな依頼もあるだろうと踏む。
街を出発したギラ達はソルバードに乗り込み、その大図書館へ向け舵を切る。
「朝の空は気持ちいいですね」
「そうですね、それに空からの眺めもいいですし」
「あのギラ様が朝を気持ちいいなんて…」
「もうヒキニートは卒業ですかね」
そんな他愛もない話をしているとラジオからニュースが流れてくる。
この小型飛行機にはラジオがついていて、電波を受信出来るのだ。
ちなみにラジオ局はオルバインにしかない。
アルセイムとウルゲントはオルバインから電波を買っているのである。
同じ理由でテレビ局もオルバインの専売特許で、両国はその電波を買っている。
オルバインは島国故に三国の中では平和が保たれているそうだ。
とはいえ戦争回避のために、三国は常に三すくみ状態を維持しているという。
「ふむ、どうやらアルセイムの王都で平民の一部が逃げたそうですよ」
「それってあのヨーゼフさんが言ってた浄化作戦の…」
「でしょうね、国境や港などの警備が強化されているかと」
恐らくミリストスで下町の浄化作戦が決行されたのだろう。
それにより一部の平民が逃走、それにより国境や港の警備が強化されるのは確実だ。
同時にアルセイム国内においても、その逃げた平民達に手配書が出回るだろう。
「まあそれはアルセイムに戻ってから考えますかね」
「ですね、今はそれよりもその大図書館にマンマミーアします」
「政治の問題じゃないとはいえ何かと荒れるなぁ…」
リックもそんなニュースに不安を覚えつつも、今は旅を楽しむ事にしている。
ギラ達と出会わなければこんな楽しい今はなかったのだから。
今が楽しい、リックはとても充実しているのである。
そうして大図書館のある島が見えてくる。
ギラの暇潰し、それは滅ぼすとかよりも邪魔者を消す事になりつつある…。