樹木の乙女
霊感を鍛えるべく精霊巡りを続けるギラ達。
その精霊巡りも佳境へと入っている。
全てが見えたとき天人は見えるのか。
天人へと手を伸ばすべく木の精霊のドリアードに会いにいく。
「ここですね」
「ここって人里離れた密林の島ですよね」
「でも木の精霊だからやっぱり木が多いところにいるんでしょ」
「なんにしても進んでみましょうか」
そうして密林の中へ足を踏み入れる。
そこは人の手が入っていない天然の原生林だった。
「凄いわね、まさに天然物の処女林だわ」
「にしても蒸し蒸しするなぁ」
「こういうところは湿気も多いですからね」
「寒さは着込めばなんとかなるけど、暑さは脱いでもなんともならんからね」
それは尤もな事である。
寒さは厚着をすれば軽減出来るが、暑さは脱いでも暑いのだ。
流石に脱ぐような真似はしないものの、暑さの厄介さを思い知る。
寒さよりも厄介なものが暑さなのだとこの気候が教えてくれているのだ。
「それにしても虫に刺されたりしませんよね」
「こういうところはざわわ、ざわわですよねっ」
「それ密林じゃなくてさとうきび畑ですよ」
「なんの事ですの?」
とりあえずそんなボケは軽く流しつつその密林を進む。
とはいえその湿度の高さにとてもジメジメする。
季節は変わらないはずなのに場所によってこうも環境が変わるものか。
自然の凄さを改めて感じる。
「どこにいるのかな」
「まあ適当に歩いてれば出てくるのでは」
「獣か何かですか」
「呼んでみるか?」
そんな他愛もない話をしつつ密林を進む。
湿度の高さもあってか楽な道ではない。
「流石に広いですね」
「木の精霊は本当に出るのかな」
「お呼びになりましたか?」
「えっ?この声…」
その声に耳をすませる。
すると新緑のドレスを身をまとう少女が姿を見せる。
「えっと、ここに何かご用ですか?力でも求めに来たとか?」
「いえ、力なら間に合ってますので、見えるかどうかですし」
「ギラは変わらないよね」
「羨ましいのです」
それに対しドリアードも少し困惑する。
「力を求めないのにここに?変わった人間さんです」
「だそうだが」
「まあ変人だとは言われます」
「確かにギラ様は変人ですねっ」
するとドリアードはリックにその気配を感じ取る。
「みなさんどうして…」
「我らもなめられたままでは終われんのだよ」
「それで勝手に力を貸してるんだ」
「というわけでして…」
ドリアードはなら自分もと名乗りを上げる。
「なら私も共に参ります、このままでは終われません」
「だそうだ、小僧」
「別に体に負荷をかけたりはしないから」
「まあ僕は構わないんですけど…」
こうしてドリアードまでもがリックに力を貸す事に。
それは精霊なりの誇りというかプライドというか。
そんな感情に触れてしまっているのだろう。
事実とはいえ力を求めないギラの態度にも何かとある。
とりあえずは密林をあとにして次の精霊を目指す事にする。
次は時の精霊のクロノスだ。
最高位の精霊は今のところ見えている。
天人との喧嘩までその拳はとっておくのがギラの流儀である。