深淵よりも黒い黒
ドリアード討伐のために目的地の森にやってきたギラ達。
この森は国境に近く、死の境界線と呼ばれる場所でもある。
そんな森の魔物を討伐するともなれば報酬は弾むだろう。
「ふむ」
「ほ、本当に倒せるんですよね?」
「大丈夫です、ギラ様を信じましょう」
「私達もついてますから」
そう言いつつ森を散策する。
そういえばこの森がなぜ死の境界線と呼ばれるのか。
ギラはその理由が気になっていた。
「えっと、この森がそう呼ばれる理由は暗殺集団の拠点があるからって言われてます」
「暗殺集団…大地の骨ですかね」
「だと思いますよ」
「怖いですっ」
とはいえそんな簡単に襲われはしないだろう。
だがギラは奴らにマークされている。
襲われたのなら返り討ちにするまで、それがギラの考えだ。
「とりあえずさっさとドリアードを倒してしまいますかね」
「そうですね、どこにいるんでしょう」
「植物の魔物って事ですね」
「なら擬態とかしてるかもしれませんね、くまなく探しましょう」
そうして森を歩き回るギラ達。
すると明らかに怪しい木を発見する。
「…えいっ」
ギラがその木を蹴り飛ばすと、木が怒り狂ったように動き出す。
どうやらこれがドリアードのようだ。
ギラ達は戦闘態勢に入る。
「さて、リックさんは火属性の魔法を連発しなさい、私達は前線に出ます」
「は、はいっ!」
「燃えてきたぜえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
「焼き尽くしそうな勢いでメーヌさんが燃えてます」
ドリアードはその長い枝でギラ達を薙ぎ払おうとする。
だがそれを巧みに回避し飛び道具による反撃に転じる。
メーヌの暗器は投擲にも使えるのでこの手の戦いには強い。
翠はある程度距離を取り組成変更による射撃で攻撃していく。
「炎の螺旋よ…その心を燃え上がらせたまえ!てりゃっ!」
「ガササッ!!」
リックのファイアストームがドリアードを直撃する。
植物だけあって火の魔法がよく効いているようだ。
それに怯んだところにメーヌと翠の連携が決まり、さらなる炎上を起こす。
ドリアードの枝は燃え上がり攻撃どころではない。
そこにギラは炎の魔力を込めた竜の闘気を放つ。
それによりドリアードは一気に大炎上、そのままその場に倒れ込む。
「…やったんですかね」
「討伐の証拠として枝か葉を持ち帰るみたいです」
「なら回収ですねっ」
「あれだけ燃えたのに枝や葉が原型を留めてるのも魔物だからなんですね」
そうしてギラ達は討伐の証拠であるドリアードの枝を手に入れる。
そんな中ギラが近くに遺跡がある事に気づく。
「こんなところに遺跡がありますね、地下遺跡みたいです」
「本当だ、遺跡自体はこの世界にもそれなりにありますけど」
「誰か来ます、隠れましょう」
「はわわっ」
メーヌが人の気配を察知し近くの茂みに隠れるギラ達。
茂みから様子を観察していると、それは大地の骨だと分かる。
その覆面達は楽しそうに談笑していた。
「あいつもちょろかったな、やはり正義のための殺しは許されるべきだ」
「そうだな、資金もオシドリの羽の方で潤沢に稼げてる、活動に支障はない」
「にしても国の要人を100人以上も殺せば両国ともだんまりだよな、ははっ」
その言葉にギラは心底虫唾が走っていた。
リックもその狂った言動に恐怖を覚えていた。
メーヌと翠もあまりの狂気に拳を震わせる。
そのまま大地の骨達は遺跡の中へと消えていった。
「ここが大地の骨のアジトですか」
「今踏み込むのは危険です、引き上げましょう」
「ですね、行きますよ」
「はいっ」
そうして森の出口へ向かうギラ達。
だが話は簡単には進まないようだ。
「ククク、まさかそちらから我らのテリトリーに入ってくれるとは」
その声と共に覆面がざっと30人、ギラ達を取り囲む。
「貴様だけは生かしておくなと頭領に言われていてな、ここで死んでもらう」
「大地の骨…この人数で勝てるんですか?」
リックは不安そうな顔をする。
だがギラの心にはドス黒い炎が燃え盛っていた。
「たった30人で私を殺す?あなた達は笑いの天才ですね、笑い死にさせる気ですか」
「抜かせ!この数でそっちは4人、勝てると思っているのか!」
だがギラは不敵に笑う。
そして次の瞬間だった。
「えっ?う、うわあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
「貴様…何を…何をしたあっ!!」
覆面の一人がその場で両断され無残な死体と成り果てる。
それは何よりも黒い黒、深淵よりも黒い黒だった。
「ギラ…さん…?」
「リックさんのいる場所ではやりたくなかったんですけどね」
「こ、殺せ!あいつを殺せえぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
リーダー格の言葉と同時に覆面が一斉に襲いかかる。
だがギラのドス黒い炎は全てを焼き尽くす劫火となって覆面達に襲いかかる。
「嘘…だ…貴様…何を…何をしたんだ!!答えろ、答えろ小娘ぇっ!!」
「あなた達はそれを知る必要はない、なぜなら…ここで死ぬんですから」
その後も覆面達は次々と両断され無残な死体と成り果てる。
剣で斬り裂いたような気配はない、これは魔法なのか?覆面は恐怖に駆られる。
リックはその凄惨さに言葉を失っていた。
「一人も生かしてはおきません、ここで果てなさい」
「助け…助けてくれえぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!」
残った覆面達が一斉に逃走を図る。
だが逃げようとした覆面達も次々と両断されていく。
そうして一人残らず覆面達は無残な死体と成り果てた。
「さて、戻って報酬を受け取りますよ」
「リックさん…大丈夫ですか?」
「平気…です…」
「と、とにかく戻りましょうっ」
ギラ達が立ち去ったあとデリーラがその場に現れる。
「あたしの仲間達を…あいつだけは殺してやる…無惨に…惨たらしく…」
街に戻ったギラ達は冒険者ギルドで討伐の報酬を受け取る。
「シルバーランクまでもう少しですね」
「あ、あのっ…ギラさん、あなたは…」
「それは言わないといけませんか?」
「気になってるのは分かってます、でも言いたくない事もあるんです」
リックはどうしても気になっていた。
最初のレッドドラゴンのときも規格外の強さを見た。
そして今回の惨劇だ、やはり何者なのか気になってしまう。
「いえ、でも僕はあなたが何者でもついていきます、そう決めたんです」
「そうですか、この先も覚悟が本物なら私はあなたを見捨てはしませんよ」
それはこの先も今回のような凄惨な現場を見るという事でもある。
リックはそれでもついていく、そう強く言う。
「さて、では宿に行きますよ、この国の冒険は明日からです」
「ですね」
「行きましょう」
「分かりました」
そうして今日はここで休む事に。
本格的な冒険は明日からである。
このドス黒い魔王の得意なものは光の力を操る事、不思議なものです。