愛の鐘の音が響く日
通行証の発行を待つギラ達。
そんな今日はエリスの婚約の日である。
ギラとリックはそれが気になって街へと出ていた。
一方のメーヌと翠も事情を聞きギラ達に同行する。
教会の前にやってきたギラ達はエリスの好きな人が来ていない事を確認する。
そうしてエリスと結婚相手、隣国アルセイムの第四王子の結婚式が始まった。
「さて、エリスさんの好きな人はまだ来ていないようですね」
「本当に来るんですか?流石に結婚式に乱入なんて真似は…」
「メーヌはそれも愛の形だと思いますよ」
「駆け落ちですねっ、愛の逃避行ですねっ」
教会の中では粛々と結婚式が進んでいる。
入り口は当然のように厳重な警備だ。
そんな簡単に入れるほど甘い警備ではない。
だがそんなギラ達の横を一人の女性が通り過ぎる。
それにギラは笑みを浮かべる。
「エリス!迎えにきたわよ!」
その女性が結婚式に乱入する。
警備もその突然の出来事に動きが遅れてしまった。
「シーダ!まさか本当に…」
「貴様!何者だ!今の状況が分かっているのか!」
式に出席していた国王が声を荒げる。
だがエリスは王子の手を放し、そのシーダという女性に駆け寄る。
そして二人は濃厚なベーゼを交わす。
その光景に国王だけでなく出席者達までもが唖然としていた。
「さあ、行きましょう、私達の楽園に、羽ばたきましょう」
「はい、私の身も心もシーダ、あなたのために…」
どうやら同性愛というものらしい。
国王はその光景に言葉を失う。
アルセイムの第四王子はその光景に自然と拍手が出ていた。
そしてそこにギラ達が入ってくる。
「これが彼女の愛ですよ、確かに傍から見たら異常かもしれませんがね」
「えっと、すみません…」
「彼女達の恋路を邪魔する権利は誰にもないのですから」
「濃厚なちゅー、あれを見ても二人を引き離せるんですかっ!」
そんな中アルセイムの第四王子は口を開く。
「ははっ、面白いものを見せていただきました、両国の友好の話、お受けします」
「は?しかし結婚式をこんな事にされて…」
出席していた貴族達はその発言に状況が理解出来ていないようだ。
そして国王も混乱気味である。
「さて、エリス、シーダお二人に祝福を、あと手引したのはそこのお嬢さんですね?」
王子はギラに問いかける。
だがギラは言うまでもなくしらばっくれる。
「さて、結婚式はお開きですかね、行きますよ」
そう言ってギラは一同を連れて教会を出ていく。
国王は王子に真意を問うていた。
「これでよかったのか、王子…」
「構いませんよ、政略結婚などしなくても友好は出来ますから」
王子の懐は海のように深いようだった。
国王もその懐の深さにはお手上げでしかないようだ。
「それじゃ私達は行くわね」
「ありがとう、小さなお嬢さん」
「お気になさらずに、どうにでもなれと思ってやったに過ぎませんし」
「でも同性愛なんて…驚きましたよ」
リックも驚きを隠せないようだった。
だがエリスとシーダは本物の愛で繋がっている、それを感じさせるものはある。
ギラもそれを見て少し満足気に笑っていた。
「それじゃお元気で、どこかでまた会える事を祈ってるわ」
「さようなら、お節介な旅人さん」
そう言って二人は嬉しそうに旅に出ていった。
二人とはどこかで再会出来るだろうか。
そんな期待も膨らませていた。
そんな中リックがシーダの事を尋ねる。
「シーダさんですか?彼女は元貴族様ですよ、没落貴族というものですね」
「そうだったんですか、でも幸せならそれでいいのかな」
「はい、女の子同士で赤ちゃんは作れませんけどね」
「でも将来そういう技術も開発されるかもしれませんねっ」
四人はそんな話題で盛り上がっていた。
一方の国王も王子の思わぬ発言により結果としてよかったのかとも思っていた。
エリスとシーダ、二人の愛は苦難の道になるかもしれない。
それでも二人ならそんな偏見という壁をぶち壊してくれる、そう信じよう。
「さて、幸せを見てたらお腹が空きました、何か食べたいですね」
「なら何か食べましょう、メーヌ達も細やかな幸せを感じるのです」
「いいですねっ、甘いものが食べたいですっ」
「ふふ、それじゃカフェにでも行きますか」
そうしてカフェで細やかな幸せを満喫する一行。
その後は一旦解散して自由だ。
「おや、もう号外が出てますか、仕事が速いですねぇ」
「エリュエスティーナ王女、元貴族と熱い愛の駆け落ちですか」
その号外を見るギラとリックは愛というものを考える。
「リックさんは好きな人とかいないんですか?」
「いませんよ!僕は魔法の道一筋なんですから!」
そんな会話の中でギラは昔の事を少し思い出していた。
全てを失った過去、愛する者も、帰る場所も、信じる者さえも。
だからこそあの二人の愛を見て、不幸にはしたくないと思ったのかもしれない。
世界の不幸を背負うなどとは言わない、だが魔王になったその過去にあるもの。
それはギラの原動力であり、幸せになる権利があるなら手を貸したい。
自分の幸せは二の次で他人の幸せへのお節介はそんな理由なのだろう。
「さて、それじゃ明日には通行証も手に入るでしょうしね」
「そしたら隣国に行けますね、あといつかはオルバインにも行ってみたいです」
そんな旅に夢を馳せつつ夜までは自由に過ごす事に。
メーヌと翠も今回の一件でギラの気持ちを改めて感じていた。
そうして夜になる。
夕食を済ませた後、翠がどこかへ行こうとする。
「翠、外に行くんですか?」
「あ、はいっ、そんな時間はかかりませんので」
その様子から何かを察するギラ。
そして彼女に指示を出す。
「ならあれを使って構いませんよ、いいですね?」
「分かりましたっ!」
そう言って翠は宿の外へ。
向かうのはお約束の裏路地である。
「隠れてないで出てきてください」
その言葉にもう言うまでもなく例の覆面が姿を見せる。
「流石だなぁ、だが我々としても貴様なら殺せると踏んでいる」
「はぁ、こんな女の子をイジメるなんていい趣味してませんね」
覆面はイライラを募らせつつ言葉を続ける。
「黙れ、我々とてあそこまでコケにされて黙ってはいられんのだ!」
「そうですか、なら全員相手にしてあげますから、さっさと始めません?」
その言葉に覆面が追加で10人ほど姿を見せる。
「あの女をなんとしても絶望させる、小娘、貴様の死でなぁ!!」
「大口を叩くのはいいですから、さっさと終わらせませんか?」
覆面は完全にやる気だ。
昨日の約二倍の人数、数の暴力でしか戦えなくなったのだろう。
そしてリーダー格の言葉と共に全員が一斉に襲いかかる。
だが彼らは翠の事を知らない。
翠の戦闘能力が集団戦に強いという事もである。
覆面達の過信は瞬く間に自分達を飲み込み、確信は音を立てて崩れ落ちる。
「だから言いましたよね」
「馬鹿な…貴様…何者…」
そのまま覆面達は意識を失い倒れる。
翠の能力の一つ、光子化、それは攻撃と回避を同時に行う殲滅能力だ。
その能力の前に覆面達が勝てるわけもない。
そうして翠は宿に戻っていく。
覆面達は翌日国の警察に確保され、メーヌのときのと含め尋問を受けているそうな。
大地の骨は完全に喧嘩を売る相手を間違えたのである。
プライドと憎しみだけが大地の骨を突き動かす、だが相手が悪いのだから…。