竜は語る
竜の巣で一夜を明かしたギラ達。
安全を確認した上で結界を解除し探索を再開する。
秘境探検もそれなりにこなし今は充実している。
竜の巣に住むという高度な知能を持った竜を探しつつ奥へと進む。
「本当に高度な知能を持った竜なんているんですかね」
「噂だからねぇ、本当かはアタシは知らん」
「でも私は興味あるよ、そういう未知なる存在って」
「ハルミさんは恐れ知らずな感じもしますわね」
そうして竜の巣の写真を撮影しつつ奥へと進む。
周囲には竜の骨なども多く転がっていた。
「竜の骨が転がってるって事は共食いなんですかね」
「竜は生存本能が強いらしいな、生きるために仲間を喰らう事もあるらしい」
「はわわっ、おっかないですっ」
「そういえば以前話していた事って覚えてます?竜の事なんですが」
それは砂漠で聞いたあの話だ。
今はなきニュクス教団が竜族をさらい魔物化させていた話。
最後の生き残りとなった彼女も砂漠で暮らすしかなかったという事。
恐らく野生の竜はそんな竜族の成れの果てなのだろうと思ってしまう。
「そんな話もありましたね、つまり今この世界に存在する竜は…」
「昔に魔物化された竜族の成れの果て、ですね」
「嫌な話です、それなら殺された方が幸せとすら思えますよ」
「理性を失い獣となり、そんな竜族の歴史、です」
そう考えると複雑なものである。
だが高度な知能を持った竜というのは何なのか?
恐らくその竜族とは異なるのだろう。
つまりそれよりも前から生きているような古株なのかもしれない。
「まあいいです、それよりさっさと終わらせますよ」
「なのです、行くのです」
「世界は広い、ですね」
「高度な知能を持った竜、会えるのかな」
巣を奥へと進むギラ達。
すると外に吹き抜けている場所に到着する。
そしてそこには明らかに何かありそうなものがあった。
「これって…」
「竜の巣、なのか」
「でも留守っぽいですわよ」
「人間、こんなところまで何用だ」
突然声がする。
すると上からその巨躯が下りてくる。
「あんたは…」
「人間、我の住処を荒らすか、この場で焼かれたいか」
「巣に入った事は謝ります、すみません」
「私達は荒らすつもりはないよ、それだけは信じて欲しいな」
その言葉に竜は腕を下ろす。
どうやら敵ではないと理解してくれたようだ。
「それで、我に何を求める?知識か?それとも予見か?」
「求めるもの…」
「そんなの特にありませんわよね?」
「同意だな、しいて言うとしたらその生体を知りたい程度だ」
その言葉に竜は高らかに笑う。
「はっはっは!!それは面白い!我に何も求めぬ人間など長く生きていて初だ」
「という事は今までは何度かあったんですか」
「そうなるわね、まあロクでもない事なんだろうけど」
「同意ですね、まあ人間なんてそんなもんです」
そして竜は言葉を続ける。
「ならばそこの小娘、貴様に我の秘術を授けてやる、こちらに来い」
「む?私か?それなら…」
「秘術、そんなもの教えてくれるんですか」
「意外と太っ腹な竜のようです」
恋夜が竜に近づく。
そして竜は恋夜に何やら術のようなものをかけていく。
「これは…知識が私の頭の中に直接…」
「そいつは我の秘術、どう使うかはお前次第だ」
「なんか直接書き込むんですね」
「なんかなんでもありになってきたわね」
竜は恋夜の頭に直接その秘術を教えたようだ。
竜はそのまま言葉を続ける。
「近いうちにお前達にかつての悪が再び姿を現すだろう」
「かつての悪…そういえば以前大地の骨の残党に会ってますね」
「つまりはそれって事でしょうか」
「なんか本当に変人ホイホイですっ」
竜は言う、その悪は憎悪に支配されていると。
その憎しみを晴らすべく襲ってくると。
「まあそのときは返り討ちにするまでです、気にはしません」
「あはは、ギラ様って力技が好きなんですから」
「そして間もなく一つの命が消えようとしている、それを救う術はない」
「命が消える?しかも助けられないだと?」
それが何を指しているのか。
ソウだけがそれをどことなく察していた。
「まあいいです、求めるものも特にないですしそろそろ帰りますね」
「そうか、ならば行くがいい、不思議な人間よ」
「ええ、それでは失礼しました」
「お元気で、失礼します」
そうして巣を出ようとしたとき、竜がギラを呼び止める。
「私に何かあるんですか?」
「異界の魔王、お前はこの世界を滅ぼすか?」
それは突然の問いだった。
ギラはそれに表情を変える事なく答える。
「滅ぼしますよ、ただし遠い未来で」
「そうか、ならばお前は何を抱えている?悲しみか?それとも憎しみか?」
その問いの答えは言うまでもないだろう。
「どっちもですよ、私が生きる理由は負の感情が全てですから」
「そうか、いらぬ事を訊いてすまなかった、行っていいぞ」
そうしてギラは巣をあとにし仲間達に合流。
そのまま巣を出てソルバードに戻る。
竜の言っていた事、それは今は誰も知らない別れなのだ。
そんな何も知らないギラ達はミリストスへと帰還する。
だがミリストスで見る事になるのは突然の別れ。
そして新たな戦いが近づいているのである。