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05

 なんだか、変に大人から気を使われている気がする今日この頃。

 というか、子供達からもなんかいつもと違う雰囲気を感じる今日この頃。

 解せぬ、一体なんだと言うのか。


 あの不貞寝した一件から数日が経った。

 何か変に生暖かい空気というか視線を感じるような気がするのは気のせいか。

 以前もよくあったが、最近特に大人たちが俺に労いの言葉を掛けながら食い物をくれるんだが。

 そして、子供達も以前よりなんかスキンシップがこう、微妙に馴れ馴れしくかつこっちも食い物を良くくれるようになったんだが。

 なんぞこれ、気のせいか?

 そういう季節なのかしら?

 何某かのこう村の風習とか季節の風物詩的な何かだったりするのか?

 それともあまり考えたくないが先日の一件が何かしら変に尾を引いて、それが大人たちにもなんかしらの形で耳に入って気を使われてるとか?

 うわあ、それはちょっと拙いな。

 一時の気の高ぶりで色々とぶち壊しにして、集団の中で居場所をなくすことに定評があった『前世』を持つ俺としてはその可能性は大変によろしくない。

 そういうわけで、柄にもなく努めてテンションやや高めに、笑顔心持ち多めに振舞うようにした。

 なあに、接客業などに従事した際は営業スマイルに定評があったんだぜこれでもー。

 内気な根暗も、そういう『役割』と言う名の仮面をかぶればあら不思議、お店でも挨拶が元気と評判の明るく元気な店員さんの出来上がりって寸法よ!

 

 数日後、周りからの視線の温かみが増しました。

 解せぬ。


 あっれぇー、なんかしくじったか?

 あれか、ちょっと劇的に変化させすぎましたかね、もしかして。

 ギアをLowからいきなりTopに叩き込んじゃいました?

 か、空回っちゃったかしら・・・やっべえ。

 内心ダラダラと冷や汗が流れる。

 そういや、今までわりかし自然体でダラダラしてたのにマイペースな子ね、みたいな反応だったのにいきなりどこぞの店の店員みたいに愛想よくなったら浮くわ。

 うわあ、やっちまったわー馬鹿か俺。

 でも、視線が冷たくなったり厳しくなったりするんじゃなくて生暖かい感じなのは、なんなんだこれ。

 こ、これは普通に過ごしたほうが良さげ?

 普通に、普通にだ、おおお落ち着け平常心。


 ところで、普通ってどうでしたっけ?



 あれから一週間が経った。

 普通を意識したら何が普通かわからなくなり、なんか笑顔が引き攣ってる気がする今日この頃。

 村の方々から暖かい声音で言われる意味深な「頑張ってね」という言葉に戦慄を覚えますどうしてこうなった。

 おおお落ち着け、別に何も悪気のある言葉じゃあないだろ。

 普通、普通だよこんなん。

 なんか今まであんまり絡みがなかった大人の方々にも声を掛けられるけど、別に普通よ、フツー。

 あの人とかあいつの親だし、この人もあの子の親だし、こうなんていうの?いつもうちの子がお世話になってます的なアレだよアレアレ、きっとそう、きっと多分メイビー信じさせてぇぇぇえ。


 

 あ、アレから、どのくらい経ったでしょうか、多分一ヶ月くらいだと思います。

 そこには、小鹿のように震える私の姿が!

 もう一時のテンションに身を委ねて変な事なんてしないよ!


 馬鹿なこといってないで現実見ロォ――!

 

 ふぅ、落ち着けー、落ち着くんだ俺、素数なんか数えなくていいから落ち着けー深呼吸だ。

 吸ってー、スゥー、吐いてー、スゥー・・・って。


 「二回とも思いっきり吸ってんじゃねえかー!!」


 かー、かー、かー・・・。

 びりびりびりびり、と叫びが空気を振るわせたような気がするのは錯覚か。

 なんか視界に入る木々やら屋根やらから一斉に鳥が飛び立った気がするがきっと気のせいだろう。

 周りの家々から一斉に何事かと人が飛び出してきたが気のせい・・・じゃない、だと。

 連れだって歩いていた両親が耳を押さえながらなんかあたふたしながら俺に落ち着けと言っている。

 周りの家々から出てきた人たちからもなんか凄い心配した様子で取り囲まれた。

 皆が口々になんか大丈夫だの、きっとよくなるだの、なんか言ってくるが耳に入ってこない。

 俺はまたしてもやっちまった感がある現状にテンパっていた。


 何故こうなっているのか、別に深い話でもなんでもない。

 昨晩、自宅で夕飯を食べ終わった後、両親から唐突に明日村長の家に行くからそのつもりで、と言われた。

 突然なんなのかと二人を見ると、なんか少し緊張した面持ちをしているではないか。

 ここ一ヶ月の村での出来事も踏まえ、なんかすっげえ嫌な予感に背筋が震えた。

 色々な想像が頭を過り眠れぬままに朝を迎え、そして家を出立した。

 んで現在、寝不足でテンパった頭で奇行に走って、ってか奇声を上げて周りが騒然としているわけだ。

 墓穴・・・っ、圧倒的墓穴・・・っ!寝不足とここ最近色々と考え込んでいたストレスで混濁した頭に意味不明な単語が飛び交う。

 擬音にすればぐにゃあっ、とかそんな感じだったのではないかと思う。

 そんな感じに呆然としていたら、気がついたらどっかの部屋で椅子に座っていた。

 な、何を言ってるかわからねーと思うが、俺も自分で何言ってんのかわからねーよ。

 呆然としてるうちになのか、それとも寝不足だったから急に寝落ちしてるうちになのか知らんが、どうもあのまま村長の家に担ぎ込まれたらしい。

 え、自分で歩いた?マジで?

 まあ、兎に角、なんかそこそこの広さの客間の中央に置いてある椅子に座らされてる俺と両隣に腰掛ける両親。

 村長夫妻と何故か部屋の外縁にみっちりと詰まるギャラリーというか、さっきまで俺を取り囲んでいたってか現在も取り囲んでる方々。

 そして俺の正面でなんか引き攣った笑顔を浮かべて腰掛ける見知らぬ男性。

 なんだろう、初対面なのに凄いシンパシー感ジチャウナー。

 で、なんですかこの状況、あと人口密度がアレで異常に暑苦しい上に、視線が集中してて息苦しさすら感じるんですが。

 多分この目の前にいる知らない人もこの引き攣り笑いから感じるにきっとそう思ってるはずというか誰ですかこの人。

 

 

  


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