04
おk、落ち着け平常心、まだ慌てるような時間じゃない。
何かファンタジーに対する超常的な畏敬の念というか憧憬というか、俺の中の劣等感がガラガラ崩れそうな気がするが落ちつけ。
別に大した事なさそうに見えてもそれで俺が魔法を使えないことに対する慰めにはならんし、なんだかんだ言いつつ魔法超便利。
なんたって今現在建造されてる俺の背後にあるAJITOは、まさにそのファンタジー様によって編まれているのですから!
木を操って編んだドーム状のアーチに土と鉱物を肉付けしたこのなんか良くわからん謎モニュメント!
山の麓に立てられたこれをベースとして記憶にある防空壕を思い出しながら、俺が掘っては他の子供達に木の根で地盤を固めさせたり、土で壁を固めさせたり、土を硬材に変質させたり、火で明かりを灯させ、水気を飛ばして快適にしたり、風で換気をさせたりしてひたすら俺が掘る。
なんか魔法使うと疲れるのが早いらしく基本掘るのは俺一人!
ちょっとまて、なんかおかしいだろチクショウ!とか思ったけど掘るの手伝わせると魔法使うときに力が足りなくなることが多々あったので掘るのは主に俺。
何人かに掘るの手伝わせても周りの補強が追いつかずに壁が崩れてきたりして怖いから俺が掘る。
つーか、産まれたときから魔力扱えてるから身体能力にもそれぞれの得意属性の獲得と成長に伴ったブーストかかってるとかいう触れ込みなのに、総合的に見て俺とあんまり変わらない身体能力とかどうなってんだよ。
得意属性のブーストによって他より力が強いですって、足が俺より遅い。
得意属性のブーストによって他より足が速いですって、力が俺より弱い。
俺よりも力もあるし足も速い奴もいるがそこまで大きな差はなかったりするし。
精々が50m走したら一番早い奴と数秒ぐらい差がつく程度で、他も万事が万事こんな感じで思ったよりも突出した奴がいないってのはどういうことだ。
俺の想像する身体強化ってのは元の能力にプラスしてブーストが付くから、全くそう言ったのが使えない俺は皆に圧倒的に差を空けられるものと思ってたんだが。
いや、実際に最初は差があったか、それこそ走り回ってる奴らに全く付いていけないぐらいには差があった。
んじゃ何故にこうして並んで過ごせているのか、別にこいつらが俺に合わせて歩みを遅くしてるわけじゃないのはわかってんだよね。
俺が何か特別な力に目覚めて肉体が異常に成長して俺SUGEEE!とかだったら追いついた後に今度は追い抜いてこいつ等よりも優越した身体能力を得ていかないと理屈が合わん気が、うん、なんだろうなこれ。
大体、俺の記憶にある『前世』と比べてもこいつ等も俺も所詮は子供の体力なんだよな、特にファンタジー要素によって皆が超人的な身体能力が~、みたいなのはない、宙に浮いたりはするが。
んーー、っと、てことはあれか、こいつらは本当はブースト抜きで俺ぐらいの身体能力は得られるけど、ブーストを自然に、無意識にかけているせいで素の能力が伸びてない、ってことなのか?
なんつーか、産まれたときから俺は普通の自転車漕いでヒーコラいってて、こいつらは電動アシストの自転車乗ってて悠々だったが、俺の筋力が発達すると共にだいたい同じ速度になった的な。
もしくは、俺が魔力使えない貧民で常に寒さに震えている間、こいつらはあったかいおべべを着てぬくぬくしてたが、いつの間にか俺が寒さに耐性が付いて、薄着でも体感温度があんま変わらなくなった的な。
もしそうだとしたら、箱で育てたメロンが四角くなるみたいな話だな、実際ほんとにそうなるのかは知らんが。
ふむ、この仮説が正しいとするならば、この子供連中をブースト無しで動けるようにすれば驚きのチート軍団が出来上がるのか?
いつから我々が本気だと錯覚していた・・・? これが、ブースト有り、100パーセント中の100パーセントだァ!ババーン!ってか、ってか?
才能溢れる教え子達に囲まれて、非才の身を罵る某飯マズ塔の講師二世みたいになっちまうのかファック!
はいはい、ワロスワロス。
あいつら生まれたときから呼吸するかのごとくブースト無意識に掛けてるらしいのにそんなもんにオンオフが付いてるわけねーだろ知らんけど。
例えるなら自分の中に流れる血流を操作しろとかそんなレベルの無茶振りだろうよ。
まったく自分の馬鹿さ加減に俺のハートが震えるわ、胸が熱くなるなファック。
いや、でも、もしかすると・・・そ、そうだよ、何事もやる前から自己完結で諦めるのは駄目だよな、もしかすっとファンタジーさんが仕事してくれるかも知れんし、うん。
結果、駄目でした。
ハァァアァァイ!駄目でしタァァァァアン!!ええ、わかってましたともチクショウ!
一生懸命説明したがそも理解すらして貰えなかったわ!
なんか逆に魔法使えなくても凄いから気にしなくてもいいよ?とかなんか変な解釈されて慰められたわチックショウ!!
ちげーよ!断じてちげーよ!別にお前らが羨ましいから同じ土俵に引きずり込もうとかそんな卑屈なこと考えてねーっつの!
クッソ、クッソぉー!恥かいただけじゃねえか何がもしかしたらだよ馬鹿じゃねえの!
高山地帯に生まれ育った奴が「お前ら酸素吸いすぎだから俺みたいに低酸素の吸入で過ごせ」とか低地に住んでる人間に言うようなもんでしたわ!
無理だっつの、そんなん意識して空気中の成分を取り捨て選択して呼吸なんぞできるかばーーーか。
産まれ持った機能を意識して制御できたら誰もが超人だっつのチクショウ、魔力とか見えてるらしいのにそこらへんはよくわかりませんとか何だよ、ファンタジー仕事しろよ、仕事しろよーー!
ちくしょう、馬鹿にしやがって、馬鹿にしやがって、馬鹿にしやがってぇぇぇ―――。
はー、もう、なんかダルイ、やる気なくしたー。
俺ちょっとベースで不貞寝するからー、ちゃんと寝転がりながらでも見えるとこに陣取るから好きに遊んでー。
掘り進めるのは危ないから作業するんだったら外から見える入り口付近なー、はーい、んじゃ散れー。
はー、ちくしょー、やっぱ柄じゃない事はするもんじゃねー。
というかそもそも子供相手とはいえ現状こうして集団の音頭取るのがそも柄じゃないっつーのね。
ベースの見晴らしのいい高所に陣取って寝そべりつつ、そんな事を考えて溜息をつく。
はー、いかんいかん、なんか激した意識が萎えモードに入ったわー。
自身の精神のアップダウンの激しさにげんなりしつつ、倦怠感に任せてそのままダラダラと過ごしているうちに何時の間にやら日が翳って来た為、気持ちを立て直すことなくダラダラと解散、帰宅と相成った。
はー、何やってんだろうね。
内心そんなことを呟きながら、微妙な気分のまま家に帰り着いた。
そして、いつも通りに風呂に入って飯を食い、部屋でごろごろするうちになんかまーどうでもいいかー、と言った気分になった。
元より集中力が残念で、怒りも悲しみもあまり長くは持ち続けられない。
こう言うとなんかいい事のように思えるが、ついでに言うと危機感やら覚悟と言ったものも長持ちしない。
一時の激しい感情はあれど、すぐに萎えて捨て鉢になりどうでもよくなる。
この人間的欠陥を自覚し、常々改善しようと試みるもふとしたきっかけでカッとなってぶち壊したり、途中で萎えてなし崩し的に現状維持になったりと、本当に根気が足りない事この上ない。
今日も子供達には悪い事したな、途中からいきなりテンション下がってグダグダにしてしまった。
心配させてしまったやも知れんし明日から切り替えて行こう。
よし、そうと決まればさっさと寝るか。
割とサックリと今日の出来事を流した俺だったが、ちょっと色々甘かったのかもしれない。
子供達に与える影響力というものを所詮子供の中でのことと過小評価していたし、その子供達が親に与える影響というのは全く考えていなかった。
それに、大人から見ても自身がなんか色々な意味で「目立つ」子供であるらしい、という事もすっかり忘れていた。
結果、その日に帰宅した子供達がなんか俺が「魔力が使えないことで悩んでいる」らしい、という話を各々の親に割りと真剣に相談してしまった事によって、事態が変な方向に動くとは、正直全く考えていなかった。